第7話『AIの導き』(2/4)

 零士は反対方向を指して言った。「俺はこっちだ。お前はあっちじゃないのか?」その言葉に、彼女は「決めたわ! ついていくから!」と宣言した。


 零士はその返答に驚きを隠せず、「マジで? なぜだ? 今間に合っている。それじゃ」と言いながら、彼女の追従を振り切ろうとする。しかし彼女は、零士が他のハンターと異なることを見抜き、なおも彼について行こうとする。それが拒否されてもめげる様子はなく、彼女の心は固い決意で満たされていた。


「ついていくのがダメなら、ついてきてお願い」と彼女が言ったのは、言っていることがめちゃくちゃだった。


「え? なんで今度は俺がついていかないとならんの? ダメに決まっているじゃん」と零士は拒絶した。


 彼女は再び驚き、「え?」と言いながら、零士の言葉を受け止めた。


 彼女はどうしても零士と共に行きたいと願い出るが、零士はそっけなく断る。単に零士は捕食するところを見られたくないため、同行を拒否するのは当たり前だった。



「それじゃ、女神の加護があらんことを。お互い、よき人生を」と彼は中途半端な慇懃無礼さでその場を離れようとした。


 彼が去ろうとしたその瞬間、彼女は「えぇぇー、そんな……」とがっかりして見送った。


 しかしそれでも彼女は、零士の後をこっそりと追い続けた。


 壁際からこっそりと様子をうかがう彼女を見て、零士はナルに聞いた。「ナル姉……。あの女、まだついてきていないか?」


「そうね……。しかもバレバレよ?」とナルはあきれて応えた。


 零士たちは何をするつもりなのか理解できずにいた。戦闘に関しては彼女にも問題はなさそうだが、一体何を企んでいるのか謎だった。その不気味さは増すばかりだった。


「はあ……。何を考えてるんだか」と零士は頭を掻きながら呟いた。


 それを聞いていたナルは、「零士? もしかして、彼女を同行させるつもり?」と尋ねた。


 零士は「これじゃあ、仕方ないだろ? 敵を引き寄せるよりはマシだ。まだ稼ぎたいし、捕食はできないけどな」と答えた。


 ナルもその答えに「そうね……」と納得した。


 零士は後頭部を掻きむしながら、面倒くさそうにため息をつき、声を大にして言った。「おい、そこにいるだろ。邪魔しないならついてきてもいいぞ」


 すると、彼女の表情が急に明るく変わり、花が咲いたかのように笑顔になった。明らかにそれが嬉しかったのだ。


 彼女は躊躇しながらも、「本当に?」と上目遣いで尋ねると、零士はため息をつきながら、「今更嘘をついても始まらんだろ」と応じた。


「そうね……ありがとう」と彼女は感謝を示した。


「礼を言われてもな……。何もしてやれないぞ」と零士は念を押した。


 彼女はこれに「共闘するわ。魔法なら任せて」と元気よく応えた。


「一体何ができるんだか」と零士は半ば呆れながらも、「ああ」と承諾した。



 そっけなく答えた零士と、嬉々としている美少女との温度差が激しい。零士の態度を見てもまるで意に介さず、美少女は興奮を隠せない様子でいた。彼女の目は輝き、手はわずかに震えていた。これは、彼女にとっての大冒険の始まりだった。


 共闘ということを無視しながら、零士は先を急ぐ。この美少女は魔法の準備をしようにも、零士が超筋を使い一瞬で相手を粉微塵にしてしまうため、何もできずにいた。彼女の表情は一瞬で落胆に変わり、無力さを感じている。


 遺体がある個体は亜空間倉庫に収めて、捕食は後回しにして進んでいく。どこに向かおうとしているのか、一匹と二人は猫のナルについていく形で奥へと進んでいく。猫のナルは、道を知っているかのように導いている。


 美少女から見ると、猫と零士は正確に意思の疎通ができているように見えていた。猫は当然ニャーとしか言わないが、それに対して零士は微妙に頷きを変えている。これは、彼らが特別な関係であることを示している。


 東京では異能者が多い中で、零士の強さは明らかに異次元のものであると美少女は感じていた。彼が倉庫を使いこなす姿を見て、彼が高ランクのハンターであることに彼女は確信を持った。


「零士、あの娘何かあたしたちを観察しているみたいね」とナルは怪訝そうに言う。


「猫好きなのかもしれんぞ?」と零士はナルに興味があるのかと、純粋な気持ちで言った。


「そうかしら? 意思疎通が普通にできているのが不思議なのかもね」とナルの方が的を得ている。


「あああ、そうか」と零士は自分が見当違いな回答をしたことに気がついて言った。


「そうよ?」とナルはどこか笑いたそうにしている。


「俺としては普通にナル姉と会話しているけど、他の奴はそれが普通ってわけじゃないもんな」と至極まともなことを改めて言った。


「そうそう。あたしと零士は特別だからね」と機嫌よくナルは言った。


 妙にナルが嬉しそうにしていた。猫と言っても人のように表情は豊かだし、些細な違いも気が付く。


「そういや、他にAI保持者っているんか?」と素朴な疑問が湧きナルに聞いた。


「ん〜そうね……。零士以外には見かけていないわ」とベテランのナルでも見たことがないと言う。


「そっか。いたらどうやってきたのか、聞きたかったんだけどな」と少しばかり、元の世界への想いを込めて吐露した。


 それを敏感に察したのか「ん? 戻りたいの?」とナルは聞く。


「いや、まったくないと言ったら嘘に聞こえるかもしれないけど、俺はここを結構気に入ってきた」と素直な気持ちを伝えた。


「どこのあたりが?」とそれに対して具体的なツッコミを入れるところを見ると、ナルにはここの世界には思うところがあるのかもしれない。


「成長を実感しやすいのが一番かな」とこれまでに経験したことのない体験が理由であることを言った。


「そうね。捕食して侵食率上げて強くなる。この一連の流れはやってみると案外楽しいものよね」とナルも同じ思いなのか同意していた。


「ああ、そうなんだよな。しかも金にもなるし」と金の魅力にも零士は取り憑かれていた。続けて零士は「他には、普段会話ができない物との接点かな。ナル姉とか」と猫であるナルとの関係性に言及した。

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