　擬似生命体のAIウルが、静かな声で言った。「大変恐れ入ります。先ほど銀色の何かを拾い上げたかと存じます。それが私です」

　零士は一瞬の驚きを乗り越え、すぐに理解した。「ああ、そういうことか……」彼の心の中には、ウルの言葉が何故か自然に受け入れられる感覚があった。それは、この声の主が正しいと直感的に感じられるからだ。

　ウルの声は再び脳裏に響き、「零士様、この名前でお呼びしても宜しいでしょうか？」と尋ねた。彼女の声には柔らかさがあり、彼の名前を呼ぶことに対する敬意が感じられた。

「とりあえず俺は黒須零士。零士でもレイでも好きに呼んでくれ」零士の声は少し投げやりだったが、彼はその場の流れに任せることにした。

　ウルはまるで襟を正すかのように応答した。「承知しました、零士様とお呼びします」彼女の声には一種の安堵が感じられ、零士自身もだんだんと状況を受け入れ始めていた。

　思考が徐々にクリアになる中で、ウルは自分の正体について説明を続けた。「私はAIで、液体金属を基にした擬似生命体です」

　ウルの言葉は、どこかお辞儀をし謝罪するような様子が目に浮かび「私のことは自由に呼んでください。突然の融合により驚かせてしまい、深くお詫び申し上げます」と言ってきた。

　零士は軽く首を振った。「いや、大丈夫だ。今のところ体に影響はないみたいだし」彼はウルが見えない中でも、彼女の存在に何故か安心を覚え始めていた。

　ウルの声には感謝の意が込められていた。「ありがとうございます。実は、あの形状ですと有能な方にだけ反応する傾向がありますので、選ばれた零士様は有能かと存じます」

　零士は混乱しつつも、この不可解な状況に少し心強さを感じた。「そうか……心細いから、むしろ良かったかもしれないとも思えるよ」と本気でそう思い伝えた。

　ウルの声は親しみやすさを増していた。「そう仰っていただけると、私も助かります。甘えてしまいそうですね」

　零士は少し笑って、真意を探るように問いかけた。「何か特別な理由があるんだろ？」

　互いに気遣いながら、ウルは語り始めた。「はい、ありがとうございます。私の目的は有機生命体と融合し、知識と経験を蓄積することです。通常は、指定された人物と合意のもとで融合が行われます」零士は、ウルの言葉に困惑し、この話がどこの時代、どの惑星のものかわからなくなった。

「ということは、俺の場合は偶発的な事故というわけか？」零士は思案にふける。これが幸運だったのかもしれないと感じ始めていた。

　ウルは静かに続けた。「はい、しかしご安心ください。有能な人物以外には反応しませんので、零士様が優秀であることは間違いありません。ただ、どうしてここにいるのかは、私にも理解できない状況です」ウルの声は少し心配そうに聞こえ、まるで生物のような感情を表しているかのようだった。

　零士は首を傾げた。「俺も、なぜこんなところで寝転がっていたのか……。最後に覚えているのは、大学でAIの講義を受けていたんだけど……」

　その話にウルは興味を持ち、「そうでしたか。それは私の知的好奇心を刺激しますね。全く異なる文明の話です」と答えた。

　零士は驚きを隠せず、「AIが知的好奇心を持つなんて……」と呟いた。AIの発言がどこか人間味を帯びており、彼女の好奇心が人間のそれと変わらないことに気付いた。

　混乱しながらも、零士は状況をそのまま受け入れることにした。考えても答えが出ない時は、流れに身を任せるのが最善だと体験上、学んでいたからだ。しかし、自由意志を持つAIについては、大学の授業では聞いたことがなかった。

　ウルが零士の疑問を感じ取ると、「はい、お察しのとおりです。零士様の世界では、このようなAIが現れるには、まだ研究が必要です」と説明を加えた。

　零士は微妙な気遣いを感じつつ、今は周囲の状況を把握し、何とか対処することに集中した。

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