第84話 逆ハーレムを作りましょう
「と、いうわけで、人間界守るの協力して!」
「何で経った三日でそんなことになってんだよ。お前、魔王に抱かれてこいよ。そしたら全て丸く収まるんだろ」
懐かしい、ジェラルドのやや苛々したような話し方。一人懐かしんでいると、リアムに叱られた。
「魔界に転移したのは仕方ないにしても、もう少し考えて行動しないと」
「ごめん……でも、何をどうすれば回避出来たのか。グレースが魔王女なんて分からなかったし」
「そうだとしてもだよ。あわよくば刻印を消してもらおうなんて考えに至らなかったら、魔王の書斎に居座ってややこしい話になることも無かったんだよ」
「確かに」
グレースが魔王女と分かった段階で逃げ出し、翌日にメレディスに送ってもらう。若しくは一週間後に自力で人間界に戻ることも出来たかもしれない。何故気付かなかったのか。後悔していると、エドワードが励ましてくれた。
「一人で不安だったんでしょ? 生きて帰れただけでも良かったよ」
「俺の気持ちを分かってくれるのはエドワードだけだよ!」
机を挟んだ向こう側にエドワードがいるので抱きつけないが、机が無かったら抱きつきたい気持ちでいっぱいだ。
そして、キースとショーンはといえば、青い宝石をじっと眺めている。
「これだけはお手柄だったでしょ?」
「おう、お前には感謝しかない」
「でも本当にそんな方法で、ボクは人間に戻れるのかな」
そう、実はショーンを猫から人間に戻す方法を俺は見つけ出したのだ。
——魔王城をグレースと走り回っている時、書庫に入った。そこで俺は見つけたのだ。“呪い全集”を。
『ちょっとだけコレ読んで良い?』
『構わんが、お前は呪いが好きなのか?』
『好きな訳ないじゃん。魔王に猫にされた仲間がいて、元に戻してあげたいんだよ。あ、あった』
人間を猫にする呪いの頁を見ると、途中から分からない文字が並んでいた。
『ねぇ、これ読める?』
『どれじゃ?』
グレースが本を覗き込んで読んでくれた。
『この宝石を持って、大切な人と口付けすると元に戻る。と、書いてあるな』
御伽話みたいな解呪の仕方だなと思いながらも、青い宝石の絵をじっくりと見た。
『この宝石、どこにあるんだろう』
『もしや、これかの?』
『え?』
グレースは首元のネックレスを手に取った。
俺は何度も本の絵とネックレスについた宝石を交互に見た。
『これじゃん! 何で君が持ってんの?』
『何でじゃろうな。いるか?』
『良いの?』
『他にも沢山あるからのぉ。別に構わん』
——魔界に行って悪いことばかりが重なったが、今回唯一の報酬だと思う。
「でも、相手がいないんじゃ元に戻れないね」
ショーンが肩を落としていると、キースは不思議そうに言った。
「何言ってんだ? いるじゃないか」
「は? どこに?」
「何処にって……ああ、そうか。みんながいる手前言い出せないんだな。後でこっそりして来いよ」
キースは一人納得し、次はショーンが不思議そうな顔をした。
キースはノエルとショーンの仲を恋仲だと勘違いしている。そして今の会話から分かるように、ショーンには好きな人がいないのだろう。猫から人間に戻れる方法が分かっても、実現するにはもう暫く先になりそうだ——。
「侵略のことも話し合いたいんだけど……ノエル、ちょっと良い?」
「わたくしですか? 何でしょう?」
皆の視線が俺とノエルに集まった。
「いや、ここじゃちょっと……」
◇
俺はノエルと別の部屋に移動した。
そして、皆には内緒にしていたメレディスとの件を説明した。
「どうしたら良いと思う?」
「ここはお兄様が主人公のBLの世界ですものね、やはりメレディス様もお兄様の虜になってしまいましたか」
「分かってたの?」
「そうなるのではないか、とは思っていましたわ」
「そっか……でも、俺はジェラルド達が良いんだけど、どうやったらメレディスが俺のこと諦めてくれると思う? 刻印の消し方が分かった所でメレディスに拒まれたら消せないかもしれないし」
ノエルは顎に手を当てて考え始めた。俺はそんなノエルを期待の眼差しで見つめた。
「恐らく……」
「恐らく?」
「無理ですわね」
「え、無理?」
「メレディス様がお兄様を諦めることはないですわ」
思考が停止していると、ノエルは嬉しそうに続きを話した。
「ですので、メレディス様に皆様を認めさせましょう」
「認めさせる?」
「はい。逆ハーレムを作るのですわ」
「は?」
「メレディス様が刻印を消す決断に至るくらい皆様の事を認めさせて、晴れて五人とハッピーエンドですわ」
そうか。そういう方法もあるのか。俺と仲間が恋に関してハッピーエンドには至らないと思うが、メレディスに刻印を消す決断をしてもらう為には良い案だ。刻印さえ消えれば逃げられる。
「ノエル、俺、頑張るよ」
「逆ハールート、コンプ致しましょう」
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