第22話 剣術大会<13>

3位に入った第3騎士団に所属する騎士は若い青年だった。

貴族の出身であるから学園に通うこともできたが、自身が男爵家の四男ということを考えて傭兵として腕を磨いてきたらしい。


そして今年の入団試験に通って騎士になったばかりの逸材だ。


貴族出身の新人騎士がこの大会で上位に食い込むことはなかなか難しい。

新人賞であれば別だが、総合の順位となると実践慣れした強敵に対しても勝ち上がらないといけないからだった。

貴族の騎士が弱いわけではないし、騎士団に所属し続けるには実力も必要だ。


それでも、傭兵に比べると剣筋にいくらかの見栄えを求められるからか、実践で磨かれた実力とはまた別だった。


とはいえ、上位3人は貴族の出身であるわけだが。


軍部を統括する立場とはいえ、ルーカスはすべての団員を覚えているわけではない。

さすがに人数が多すぎる。

そのために騎士団は三つに分けられているし、各団には団長と副団長が置かれていた。


「ルーカス公にご挨拶申し上げます」

件の青年はハキハキした物言いの爽やかな騎士だった。


「3位受賞おめでとう」

「ありがとうございます」


笑顔で答えた青年は、一瞬迷うそぶりの後に言葉を続けた。


「今日のルーカス公の試合、拝見しました。もっと、もっと鍛錬を積んで強くなりたいとの思いを痛感したところです。今後直接お会いすることはなかなか叶わないかもしれませんが、ルーカス公の元で騎士団に所属できること、誇りに思います」


どちらかといえば騎士団において周囲に馴染むことが少なかったルーカスにとって、純粋に自分を尊敬している言葉をかけられることは稀だった。


そのため一瞬面くらってしまったが、それでも、青年の言葉はすっと胸の中に落ちてきた。


「ありがとう。今後の活躍を期待している」

「はい!」


青年は嬉しそうに返事をすると元の位置に戻っていった。


(そうか)

ふと、心の中でルーカスは思う。

大会に参加するということは、実力を示すだけでなく自身がどういった人物であるかを知ってもらう機会でもあるのだ。


誰しも知らない人のためには頑張れないものである。

ルーカス・ディカイオという人物の人となりを知ってもらい信頼を得るために努力する。

それは上の立場に立つ者として必要なことなのだろう。


反発している第1騎士団の騎士たちを抑える目的も確かにあった。

しかし、もしかするとニキアスはルーカスに統括者としての自覚を持たせようとしていたのかもしれない。


好意的に考えすぎだろうか。

それでも、ルーカスはその考えがあながち間違っているとは思えなかった。

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