第17話 剣術大会<8>

午前の試合が全て終わり準々決勝の参加者が出そろった。

いったん昼の休憩を挟み1時間後に試合は再開される


「アリシア!」

王族の観覧席までやってきたルーカスがアリシアを見つけて声をかけてきた。


「ルーカス、準々決勝進出おめでとう」

「ルーカス公にとっては準備運動にしかならなかったのではないか?」

アリシアの言葉に、横合いからニキアスが口を挟んでくる。


「皇太子殿下にご挨拶申し上げます」

「よい。いつもそんな挨拶省いているであろう」

「他の人の目もありますので」

「相変わらず融通の利かないことよ」


ルーカスとニキアスの軽口の応酬に、アリシアはまたもや驚いた。

いつの間にこんな会話をするくらいまで近しくなったのだろう。


元々はニコラオスがニキアスの側近を勤めていたはずだ。

イレーネとフォティアの事件を経てルーカスがニキアスの側近になったとは聞いていたが、二人が一緒にいるところをアリシアが見るのは初めてだった。


「ルーカス公、骨のある参加者はいたか?」

ディミトラの言葉にルーカスは若干眉間にしわを寄せる。


「騎士団の訓練内容を見直す必要があるのではと思ったところです」

「なるほど。ルーカス公のお眼鏡にかなう者はいなかったか」


「まぁまぁ、ディミトラ。骨のあるやつはこれから出てくるかもしれないぞ。準々決勝以上に勝ち上がってきた者たちとの試合は午後からだからな」

「そうであることを願うよ」


準々決勝まで危なげなく勝ち上がり、まだ余力のあるルーカスはやはり相当強いのだろう。

聞いてはいたがその実力を目の当たりにしてアリシアは興奮を抑えられなかった。


「ルーカスは本当に強いのね。驚いてしまったわ」

「今まで目の前で戦ったことはなかったからな。アリシアに喜んでもらえるなら参加した甲斐があったよ」


アリシアの言葉にルーカスがふわりと笑う。


常に冷静で無表情と言われるルーカス公の珍しい笑顔。

王族観覧席付近にいたことでその笑顔を見てしまった者たちは息を呑む。


「メデューサ並みの影響力だな」

固まる周囲の状態を見てニキアスがため息混じりに呟いた。


「それだけ貴重ということだろう」

ディミトラもルーカスの笑顔を見るのは初めてだった。

ただ、だからといって固まることはなかったが。


(なるほど。アリシア夫人の影響力は相当大きいということだな)

ディミトラがそう心の中で呟いたことを、誰も知らない。

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