第9話 皇太子の思惑<3>

「ルーカス公が剣術大会に出場することになったよ」

執務を終えた夜、ニキアスは皇太子妃であるディミトラと共にワインを嗜んでいた。


「へえ。あのルーカス公がね」

ディミトラは綺麗に整えられた指でワイングラスを持ち上げ興味深そうに呟く。


「絶対に参加しないと思っていたが、どんな心境の変化があったのやら」

ディミトラはその見た目に反してぶっきらぼうな話し方をする。

他者の目のあるところでは皇太子妃然としているが、本来の彼女はどちらかというと男性的な話し方を好んでいた。


ニキアスはそもそもディミトラと幼馴染のような関係であったし、学園でも共に学び、一緒にいた時間が長かった。

だからこそディミトラの話し方にも馴染んでいたし、何よりもそういったことはあまり気にならない質だ。


「アリシア夫人の効果は絶大だ」

「なるほど…。アリシア夫人を餌にしたということか」

「餌という言い方はなんだが、まぁ」


ニキアスの言葉に、ワイングラスをくるりと回しディミトラは続ける。


「直接アリシア夫人に会ったことはないが…興味深い人物ではあるな」

「ルーカス公に夫人を王城へ連れて来るように言ったらけんもほろろに断られたよ」


苦笑しながら言うルーカスにディミトラは目を見開く。

そして悪い笑顔を浮かべた。


「それは…ますます気にるな」


(ああ…悪い癖が出た)

ディミトラは疑問に思ったことは追求しなければ気が済まないし、興味を持った人物には自ら近づいていくことを好む。


ルーカス自身にはそれほど興味を持っていなかったはずだが、アリシアの何がディミトラの気を引いてしまったのか。


「剣術大会当日は王族席の近くにアリシア夫人を招くのだろう?」

「特等席を用意すると約束したからな。もしかすると子どもにも会うことができるかもしれない」

「それは楽しみだ」


そう言うと、ディミトラはグラスのワインを飲み干した。

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