第24話 逃亡の年月


 ドモンジョは肩越しに振り返り、荒い息遣いを案じた。「大丈夫か、ジャクリーヌ?」


「ええ、平気よ」サラサ――ジャクリーヌは息苦しそうだったが、彼に手を引かれて必死に走っていた。


「怪我はないか?」


「あなたが護ってくれたから」


「新しい隠れ家を用意した。そこで大人しくしているんだ」


「お願い」街を抜けて、木立に足をもつれさせながらジャクリーヌはいった。「あなたと一緒にいたい」


「いまは駄目だ。またお前を危険にしてしまう。俺は魔女に会いに行かなければ」ドモンジョの手を握る力が強くなった。


「またあの女のために人を殺すの?」


「そうじゃない」ドモンジョは森の奥にひそかに建てられた小屋に入り、明かりをつけた。部屋のなかは簡素で毛皮のベッドとテーブル、ワインボトルが一本置かれた棚があるだけだった。「殺すのはギルドの連中だ。奴らに奴らに復讐する。お前をひどい目に合わせた大罪を死をもって償わせてやる」


「あいつらは強いわ。一人なら大したことないけれど、束になって襲いかかってくるのよ」


「大丈夫だ」ドモンジョはジャクリーヌをベッドに座らせて、彼女に優しくキスした。「俺は何度もあいつらを出し抜いたし、こうして無事にお前を連れ帰ることができた。それに、魔女に頼む。お前を若返らせたように。ジャクリーヌ」


「力を貸してもらうわけね」


「今までの贈り物の礼としてはわけないさ」


 二人はもう一度軽くキスをした。踵を返してドアを出ていくドモンジョの背後でジャクリーヌは、願うことしかできなかった。


「はやく二人で静かに暮らしたい」と。


 しかし、彼が魔女の呪いに囚われている限り、その日はやって来ない。もう五十年も。

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