こそこそと話し合う子供たちは俺を殺す算段を立てている。


 弟の友達がきているので茶菓子を持っていってやろうと思った。

 テキトーに、家にあったスナック菓子でいいか……好みはあるだろうが、各々の好き嫌いまでは知らん。弟が好きなお菓子なら友達も好きだろうということで、弟の好物だけをまとめる。まあ、あいつの好物しか置いていないのだから選択肢は他にないわけだが。


 弟の部屋の扉をノックしようとして、寸前で止まる……話し声が聞こえてきてしまったのだ……これは盗み聞きではなく聞こえてしまったのだから仕方ないだろう。



『……兄ちゃんを、……穴に落として……――これで再生数も増えるはずだ』

『落とし穴はどこに? 庭に仕掛ける?』

『じゃあ、お兄さんを――どうにか、外に出さないと……――』

『でも、短時間で深く掘れるわけなくない?』


 と、なにやら俺を落とし穴に落とそうと画策しているらしい……なんのために? ちらりと再生数とか聞こえてきたので動画にして公開するつもりか。

 今や小学生でも動画配信ができる世の中になったらしい……俺が疎いだけか? 世の中、配信社会になっていたりして……――ともかく、リアルタイムでなければ良しとしよう。せめて編集してから世に出してくれ……。


 落とし穴。聞いてしまったら身構えてしまうが、忘れることも難しい。知りながら落ちるとすれば、俺の演技力が試されるわけだ……しかし、自信はなかった。

 だからこれ以上聞くべきではなかったのだが、興味が勝って扉に耳を近づける。遠かったさっきまでの声がより鮮明に聞こえるようになった。


『穴にハマった兄ちゃんのリアクションを大げさにするために、もっと過激にしよう――大量の水を上からぶっかけるなんてのは?』

『水じゃなくてセメントとか』

『お、それもいいね!』


『穴の底を剣山みたいにしてさ――』

『落ちた後は蓋をして、一日放置してみるとか』

『蓋をして、手投げ花火をぶち込んで』

『やっぱり水を流し込んで、頭の上まで水でぱんぱんにして――』



『『『『面白い動画になりそうだ!』』』』



「――いや、死ぬわッッ!!」



 扉を蹴破って、クソガキ共のイタズラをやめさせた。

 再生数欲しさに過激になり過ぎてる……、傍観者でありブレーキ役がいねえとこうも天井を突き破ってしまうとは思ってもみなかった……。


 動画配信者とは、怖い存在だな……。


「じゃあ兄ちゃんが監督してよ」

「俺が? でも、動画配信のことなんかなんも知らねえぞ?」

「素人意見が欲しいんだよ……視聴者に近い方がいいからね」


 ふうん……。まあ、今のままで良ければ手伝ってもいいか。


「じゃあ兄ちゃん、スマホ貸して」

「? はいよ」


 弟にスマホを渡すと、弟が振りかぶって――――スマホを窓の外にぶん投げた!


「おぃいッッ!?!?」


「こういうことが普通の世界だよ、動画配信って業界は」


「たぶんお前らが両足突っ込んでるジャンルがそれってだけの話で――クソっ、それよりもどこにいった俺のスマホぉ!?」


 後ろでげらげらと笑っている小学生の声を聞きながらスマホを求めて窓の外へ。


 すると、俺のスマホを拾ってくれた人がいたようで――――「すいませんッ」


「あ。……これ、もしかしたあなたの――」

「はぁはぁ……すいません、ちょっと、事情がありまして……」


「スマホが飛んでくる事情があるのですね……ふふ、面白い人――」

「へ?」



 ……余談だが。


 未来の妻とは、こんな出会いだった。




 …了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る