第18話 授業だから、セーフでしょ……

 


「よろしくね、カーラさん」

「は、はい……よろしく、お願いしまひゅぅ……」



 それは王国クラスの授業での出来事。

『二人一組となり、お互いの魔法の良いところと悪いところを言い合う』

 と言う課題が出されたことで、シモンとカーラはペアとして向かいあい話していた。



「どうして私じゃなくてカーラを選ぶんですか!?」



 一方のアルチェは。

 まるで痴情のもつれのようなセリフを吐き暴れていたが、「お前とはいつでもできるから、今回はやらない」とシモンに断られ、渋々従っていた。



「し、シモンさん。それで、どうしましょうかぁ?」



 カーラは、ピンクの髪を指でくるくると巻きながら落ち着かなそうにシモンへと問いかける。

 その瞳はしっとりと潤み、頬を朱く染めている。

 まるで『茜差す教室で告白をする直前』といった表情を浮かべていた。



「そうだね、これでも教師だから、まずカーラさんの魔法を見せてくれるかな?得意なものでいいよ」


「はい!わかりましたぁ」



 カーラの得意魔法は土。

 教室が壊れないよう、机に置かれた板の上で小さく魔法を練り上げる。


『土壁』


 空気中の魔力とカーラの持つ魔力が、融けるように混ざり合い、机の上の板へと集まっていく。

 魔力が球体型になったかと思えば、それは形を変え小さな壁のように板の上にピョコンと立ちあがる。


 土魔法の代表的な魔法である、土壁。

 教室内ということで手加減した魔法ではこの程度しかできない。

 それを見られると、カーラは少し恥ずかしくなった。



「あ、あはは。……すみません、こんなの見せちゃっ「へぇ、魔力操作上手いね。ここではできないだろうけど、攻撃もいけるの?」



 一流の魔術師は、相手の魔法を見ればある程度の力量がわかるという。

 カーラの得意分野は操作。しかしながら、魔法の出力には自信がない。

 てっきりシモンから出力の低さを貶されると思っていたカーラは、シモンの感心するような声に少し驚いた。



「は、はい!その、出力はそこまでですが、一通りはできますぅ」


「凄いね、俺が君くらいの歳の頃は水弾しか使えなかったよ。頑張ったんだねぇ」


「…………い、いえ、いや、その、……はい、頑張りましたぁ……」



 カーラはよく誤解されるのだが、アルチェ達のような天才ではない。

 王国の良血ではあるものの、身体能力、魔法適性、どちらにも突出したものがなかった。

 そんな彼女が、才能溢れる人材が集まる学園で、王国クラス代表を務められているのは、決して血筋が良いからという理由だけではない。

 ひとえに努力。カーラは努力をすることで己の地位を確立した。


 しかしながら、それを分かってくれる人間は殆どいない。

 周りにカーラを褒める人は居るものの、努力を褒めるやつなんてどこにも居なかった。

 アルチェはそれを見破ってそうな気はするが、カーラを褒めることなんて死んでもしないだろう。


 だからこそシモンに努力を褒められたカーラは、そのことがたまらなく嬉しかった。



「……ああ、そう言えば良いところと悪いところを言い合うって授業だったね」

「はい、な、何か気になるところはありましたかぁ……?」



 カーラは不安げにシモンを上目遣いで見上げ、甘えるように声を出した。



「うーん、結論から言うと、まだなんとも言えない。……というのも、魔法を鍛えて何がしたいかで話が変わってくると思うんだよ」


「何がしたいか、ですかぁ?」


「うん、例えばモンスター討伐で考えるならカーラさんの魔法は火力に欠ける。でも魔法って、直接的な攻撃以外でもやれることは多いだろ?土魔法なら即席の砦を作ったり、落とし穴を掘ったり。そういう搦め手メインで行くなら出力は重要じゃないし、今後どうしたいかによって変わってくるかな」


「なるほどぉ……」



 シモンの『どういう魔法を使いたいか』という問いに、カーラは改めて考える。

 学校に通い魔法を学んでいる一番の目的は、自己防衛だ。


 この世界では名も知れぬ平民ですら鍛えれば、千人に値するほどの武力を持つことができる。

 カーラのような高貴な者たちにとって、それは恐怖だった。

 街を歩く度、人とすれ違う度、常に狂人が襲いかかってくる事を想定して彼女は生きている。

 その狂人が雑魚ならば良いのだが。厄介なことに強さは外見ではわからない。


 もし殺意を抱く、そして強い狂人が近くに来たならば、凶行を止めることは容易ではない。

 だからこそ、どんな相手が来ても勝てるくらい、カーラは強くなりたかった。



(そう、どんな相手が来ても、勝てるくらい。……例え、空から舞い降りる災害。ドラゴンが相手でも)



「ドラゴン…………」

 ポツリ、とカーラは呟いた。


 

「お、ドラゴンに勝てるくらいになりたい?」

「…………ハッ、い、いえ!そんなの私にはできませんよね!……すみませぇん……」

「君くらい魔力操作が上手ければ、できなくはないだろうさ」


 シモンは優しくカーラに語りかけると、すぐ触れる距離まで移動する。


「カーラさんが『水弾』使えるなら、試してみる?」


 そしてカーラにしてみれば、とんでもないことを言い放ったのだ。





「水弾をドラゴンを倒せるほどに、昇華させる方法」





「えっ???…………は、はい。教えて、貰えるなら」



 そんなことできるわけないでしょう?

 もしも、ここに居るのがシモンでなく担任教師ならばそう吐き捨てているだろうが、命の恩人にそんなこと言えるわけもなく。

 困惑しながらも、大きく首を縦に振った。



 ◇



(近い近い近い、ちかいっ…………!!!)


「じゃあ、試しに水弾を出してごらん」



 現在、二人は密着していた。

 前を向くカーラに対し、シモンは後ろから彼女の肩に左手を置き、カーラの右手に重ねるようにゴツゴツとした手を置いていた。



「は、はい♡」



 まるで集中できない環境であったものの、カーラは必死に魔力で水弾を練り上げる。

 重ねた右手を前に出し、己が魔力を空気中の魔力を混じり合わせていく。


 およそ20秒で、板から少し上の空間に掌ほどの大きさの水球が浮かんだ。



「オーケー、じゃあ水弾を一度消して」


「分かりましたぁ♡」



 言われた通り、カーラは水弾の魔力を意図的に散らし浮かんだ水球を消して見せる。



「よし、じゃあ今度は俺が言う通りに水弾を作ってみて」



 はい。とカーラが告げると、シモンはより一層カーラに密着して見せる。

 シモンのカチカチの胸板がカーラの背中を圧迫し、彼女は思わず喘ぐように呼吸を粗くしてしまう。



(近い近い♡近いよぉっ♡耳元で声出さないでぇっ♡)



「ハァ……♡ハァっ……♡」


「カーラさん、まず右手に意識を集中させて、そして人差し指と中指、この間を『尿道』に見立てるんだ」


「はひ♡尿道、ですねぇ♡………………んっ?」



 普段使うことのない言葉『尿道』

 そんな言葉に、思わずカーラはシモンの顔の方を向いてしまう。


 けれど、キスができそうなほどに顔が近いことに気づき、慌てて前を向き直した。



「いいかい、これから俺が人差し指と中指をシゴくから、勢いよくおしっこするみたいにイメージしながら水を出してごらん。それで水弾を作ってみて」


「えっ???んっ???」


「じゃあ、行くよ」



 シコシコ、シコシコ。

 指で輪っかを作ったシモンがカーラの指を刺激する。

 その刺激に、カーラは。



「ハーッ……♡ハァーっ……♡」



(……なに???このプレイ? こんなの、擬似的なセックスじゃない!アタマフットーするってぇ!!!)


 カーラは特殊すぎる性風俗のようなプレイに、思わずツッコみたくなる気持ちをグッと堪えていた。

 変な性癖が芽生えつつあるカーラの右手は、すぐに手汗でグチョグチョになる。


 必然、シモンの手から鳴る音も、その音色を変えていた。



 チュプ、チュポ。

 ジュプ、ジュポ。



「カーラさん、出して、水、出して」


(耳元でっ♡出してって♡言うのやめてぇっ♡やるっ♡やるからぁっ♡)



 背中にシモンの雄っぱいを感じながら、人差し指と中指を扱かれ、耳元で『出して』と甘く囁かれる。


 この世界に、こんな風俗があるのならば、カーラはきっと足繁く通うことになるのだろう。

 それぐらい彼女は変な性癖を植え付けられていた。


 興奮しすぎてクラクラとする頭の中、彼女はなんとか水弾を作り上げようとする。

 制御しよう、だとか。球体にする、だとか。

 考える余裕もなく、必死に。


 どれくらい時間が経ったかカーラには分からないが、手汗で二人の手がふやけたころ、板の上には水球が出来上がっていた。

 しかし、それは先ほど作ったソレとは、この水球は明らかに異なっている。



「…………ウソぉ、だって、全然、集中してない、のに」


「いい感じだね。この水球だと、コントロールは難があるだろうけど出力はザッと数十倍はあると思うよ」



 それは例えるならば、『小さな激流』

 ただ丸く纏まった水の玉だった先ほどまでのものとは違う。

 浮かんだ水は荒々しくうねり、玉の中で行き場のない力は渦となって水球を震わせる。

 出力に乏しいカーラが生み出したとは思えないほど、それは力に溢れていた。


 これをどこかにぶつけたら、一体どうなるのか?

 そんな想像を浮かべたカーラはゴクリと唾を飲み込んだ。



「おしっこだと、分かりやすいでしょ?ポイントは球をそのまま浮かべるんじゃなく、水鉄砲のように激しい勢いで水を出して、曲げる。水の流れを操作して、それを球体にするイメージだね。ドラゴンを倒すなら水弾に限らず、こういうやり方を覚えておくと良いよ」


「ほ、ほえぇ…………」



 カーラは、ただただ困惑していた。



(これってこんな授業で聞いてよかったの!?)とか。

(指導力ヤバすぎ!ギルドの隆盛の原因って、シモンさんが居るからじゃない!?)とか。

(こんな知識垂れ流す人を放置するのって、王国的に危険じゃない!?)とか。

(優しくて、魔法も教えてくれる距離感の近いお兄さんって、最高!!!)とか。



 様々な思いが溢れ、動けないでいた。



「イメージはできたかな?じゃあ…………もう一回、する?」


「…………は、はいっ!」



 もう一度、できるのか。

 自然とカーラの心は熱くなり、魔法の上達と関係の進展に胸が高鳴った。

 しかし。






「ちょっと、待てぇぇぇーーーーっっっ!!!」






 それに待ったをかけるものがいた。

 魂から声帯を震わせるような、アルチェの叫び声。

 カーラは思わずそちらを向く。



 そこで初めて、教室中の人間がコチラを見ていたことに気づいた。



「「……あっ」」


「もう授業は終わりだぁっっっーーー!サッサとシモンさんから離れろ、このブスッっっ!!!」



 普段ならば激怒するようなアルチェの言葉。

 しかしながら、先程までの痴態を見られていたことに気づき流石のカーラも恥ずかしくなってしまった。



「ごめん、気が付かなくて……機会があったら、またやろうね」


「……はいっ♡」


「はやく、どけぇぇぇっっっーーー!!!」





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