第16話 どうせできないから、セーフですよ

 

『クラス対抗戦の概要』


 試合形式:相手陣地のフラッグ争奪

(相手フラッグを奪えるのは大将のみ)


【試合要項】

 出場者数は各クラスから10名づつ。

(クラスの人数が10名を下回る場合は、それ以下での参加も可能)


 事前に用意された武具の使用を認める。

 クラス担任教師の参加を認める。

 フラッグを奪われたクラスはその時点で負けとする。

 防衛フラッグは動かせず、奪取した後のフラッグは移動可能、他チームから奪えるものとする。

 30分以内に決着しない場合は奪ったフラッグ数が多いクラスを勝利とする。


 ※パワーバランスを考慮しシモン先生は不参加とします。




 ◇




「…………つ、潰しにきてる……」



 学園の自室、アルチェは配布されたチラシを握りしめ、苦しそうに呻く。


「クラスの人数が、一人ってんじゃ、……無理だなぁ」


 問題のチラシをアルチェに渡した俺も、それに同意する。

 先ほどのルールは、余りにも一人クラスであるアルチェにとって不利。

 それは最早、書かれていることの殆どがアルチェを潰すために書いた。なんてことを思ってしまいそうになるほどに、あからさまだった。



「……それで、遥々学園までやってきた訳だけどさ。結局、俺はお前がクラス対抗戦で勝つのに協力する。ってことでいいのか?」


「え、ええ!ドラゴンから救ってもらったことには感謝してますが、それはそれです!あ、姉の件で許してほしかったら、私をクラス対抗戦で勝てるように協力しなさい!」


「…………はいよ」



 一人クラスになってることも、廃嫡されたことも、クラス対抗戦も、何一つ聞いてねえ。

 と言いたい気持ちはあるが、廃嫡だろうと王女に対し中出しを決めたことは変わらない。問題にされても困るし、とりあえず従っておこう。



「しかし、どうするんだ?訓練ならつけられるが、フラッグ戦。それも大将しかフラッグ奪えないってんじゃどうしようもない。一人で勝つには無理があるぞ」



 今のままでは、アルチェが勝ち上がることは不可能に近い。

 なにせ、勝つためには攻撃役と防御役の2チームが不可欠だ。

 このフラッグ戦では、設置されたフラッグを動かすことはできない。陣地の旗を取られたら負けなルールのため、必然的に防御役が最低一人は要るわけだ。

 一人帝国のアルチェは必然的に、一人で旗を守ることになるだろう。まあ守るだけでも厳しいだろうが、頑張れば、できなくはない。


 しかし、守るだけでは勝てない。

 攻撃役が居ない以上、相手フラッグを奪うことは実質的に不可能。

 自身の陣地をガラ空きにすれば、一応は可能ではあるが。…………現実的では、ないだろう。

 つまりは、勝てない。一人では。


 シモンがその懸念をアルチェに伝えると、彼女は「うぐっ」と殴られたかのように口から空気を漏らした。

 正論が痛かったのかもしれない。



「…………こうなった以上、一人帝国とは言っていられません。『引き抜き』しかないでしょうね」


「引き抜き、できるのか?」


「できますし、問題はないですよ。……平民クラス相手なら」



『引き抜き』あるいはスカウト。

 貴族や才能ある者達の集う、この学園ではそれなりにありふれた行為である。


 元々、はるか昔に学園が作られた理由として。

 次世代を担う国家の才媛達を集め、その親睦を深めることにあった。

 それは自国間の王女や貴族たちもそうだし、他国間の関係も含まれる。

 相手を知ることで、戦争を抑止。また、大陸内の連携を深めたいという創立者の狙いがあった。


 そして、もう一つ。

 学園は、才能ある平民の発掘場としても利用されていた。


 自分から学園の門を叩くもの、学園側から招待されるものなど、様々な経歴の平民達。


 力に自信のある者や、貴族と繋がりを持ちたい商人の娘、あるいは特殊な才能を持つもの。

 一定の基準をクリアした平民たちは平民クラスに配置され、そこで活躍したものは他クラスにスカウトされていくのが習わしであった。



 言わば平民クラスとは、列強クラス、あるいは小国家連合クラスなど。

 他のクラスにスカウトされることが前提の特殊なクラスと言えた。



「平民クラスは、数も多いですし……。そこで実力のある者たちを10人ほど見繕えれば、戦術の幅はかなり広がります」



 しかし、懸念材料はいくつかある。

 アルチェ達が学園に入り、すでに進級を迎えたこの時期。

 今現在になっても平民クラスに残っている者の中に、実力者がいる可能性は低い。

 過度な期待はできないだろう。

 しかし、それでも人員が居ると居ないとでは天と地ほど違うのだ。

 アルチェにとって、スカウトしないという選択肢はなかった。



「ま、人数揃えてくれれば、俺が強くしてやるよ。これでもギルドの訓練教官やってたからな」


「頼もしいです、本当に……。では、明日早速スカウトに行ってきます!シモン、これからよろしくお願いします!」




 ◇




「学園長、良かったんですか?あんな、潰すような真似をして」


「仕方ないでしょう……。シモンさんがアルチェさんのクラスを担当したいなんて、言い出すんですから」



 学園長室にて、学園長と教師長の二人が話し合っていた。

 内容は月末のクラス対抗戦、アルチェを潰すため急遽ルール制定をしたことについてである。



「女帝陛下の意向は明らか、そんな中、万が一アルチェさんが勝つようなことがあれば大変な不興を買います。……あの人には睨まれたくないですから」



 対外的には独立した存在である学園。

 しかしながら、学園の立地は帝国領内に存在する。

 帝国は学園に対し強い影響力を持っていることも事実であった。



「シモンさんが現れなければ、自由にやらせるつもりでしたが……。指導教師がついたとなれば話は別。万が一すら、潰させてもらいますよ」


「そこまでする必要があったんでしょうか?確かに、シモン殿は強い戦士ではありましょうが、指導もできるかは別問題では?」


「…………アナタまで、知らないのですか」



 学園長は教師長に向かい、落胆のため息を零す。



「す、すみません」


「理由もわからず謝るのはやめなさい。……私が言いたいのは、シモンさんの指導力は並外れたものかもしれない。ということです。彼はギルドにて訓練教官を行っていたはず、昨今のギルドの隆盛を考えると、怖いところがあります。……だから、このルール。どれだけアルチェさんを鍛えようが、一人では絶対に勝てないルールにしたかったんですよ」



 シモンの育成力は未知数。

 ではあるが、最大限警戒すべきだと学園長は考えている。



「な、なるほど。……しかし、そうなると引き抜きの問題があるのでは?彼らは平民から引き抜きをするかと思いますが、どう対処するのです?」


「……別に、何もしませんよ。露骨にやり過ぎても良くないですし、アルチェさんの所だけ禁止にする訳にもいきません」


「よ、よろしいのですか?」



 教師長は疑問を投げかける。

 シモンの育成力が本物ならば、例え芽の出ていない平民であっても『化ける』可能性はある。

 それに対処しなくて、良いのか?と。


 だが、学園長に焦った様子はない。

 こともなげに、机から書類を取り出すと日常業務を行い始める。

 そして、視線は書類を見つめたまま、教師長へと答えた。



「アルチェさん達では、平民クラスからスカウトなんてできませんよ。……だから、問題ありません」



 学園の内部に誰よりも詳しい彼女は、平民クラスの抱える問題を知っているが故、そう断言してみせた。




「アルチェさんのクラスが、これ以上増えることはありませんよ」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る