第13話 勝てば官軍だからセーフ
「いやぁ、シモンさん。わざわざありがとうございます。新入生送迎の馬車の護衛のために、アナタが来てくださるとは」
「いえいえ、学園に用があるものですから。そのついでですよ」
山間に位置する、人里離れた巨大な砦。
その砦の中に、シモン達が向かっている魔法学校はあった。
クリス含めた3人と、ドラゴン討伐を終わらせたシモンは。
現在、魔法学校へ向かう生徒たちを乗せた、幌馬車隊の護衛を行っていた。
馬の手綱を握る御者は、シモンに語りかける。
「もうすぐつきますよ、この山を越えたら、学校の正門が見えてくるはずです」
幌馬車の数は、6つ。
帝国、魔国、王国、小国家連合、平民用、そして先頭馬車に分けられ、一つにつき数十人ほどが乗っていた。
シモンが乗っているのは、先頭馬車。
なにかあった際に対処できるように、一番先頭にて御者と並んで座っていた。
以前、シンシアと隊商護衛をしていた時は、まるで違い真面目に仕事をこなすシモン。
女さえ絡まなければ、シモンは意外と常識人であった。
「しかし、噂には聞いてましたが、本当にモンスターが出ませんね……。高位冒険者がいると、こんなに違うんですね……」
「まあ、その道で食ってますから。それでもドラゴンとかは襲ってきますけどね」
「ど、ドラゴンですか……。シモンさんは討伐されたことはあると聞いてますが、遭遇したくはないですね。…………あ、見えましたね。あれが、学園です」
山を越えると、まず目に入ったのは広大な農地。
どうやら、学園生が食べるための食糧などを栽培しているようだった。
盛り上がった丘の上に段々と農地が並んでいた。
そして、丘の頂上には大きな門を構える砦がある。
あの砦の中、丸々全てが魔法学校。
中々のスケールである、…………しかし。
「御者さん、……アレは、一体なんですか?」
「? アレ、とは?」
シモンが抱く疑念。
それは御者には伝わっていないようだった。
シモンは質問には答えず、黙って人差し指をそびえ立つ学園の奥側、天空を指さした。
「…………アレは、学園が飼っているん、でしょうか?」
シモンの言葉に御者は、指し示す方向にジッと目を凝らす。
先頭に座る御者は、シモンを除けば幌馬車隊で最も目が良い自負がある。
その彼を持ってしても、指し示す方向には何も見えなかった。
だが、隣りにいるのは酔っぱらいではない。
世界有数の実力を持つ、高位冒険者のシモンである。
ならば、絶対に何かある。
御者は黙って、目を凝らし続けた。
少ししてようやく、御者の目にも『アレ』らしきものが見える。
学園の遥か遥か上空に、ゴマ粒ほどの何かが高速で動き回っているのが見えた。
それは、学園に何度も訪れたことのある彼を持ってしても、遭遇したことのない不思議な存在であった。
「シモンさん、アレとは飛んでるもののことでしょうか?すみません、私にも、なんなのかは分かりかねます」
「……そうですかぁ。…………殺しちゃって、いいのかなぁ」
御者の言葉にシモンはポツリと呟いた。
「……その、アレは、モンスター、なのでしょうか?」
目を凝らし続けても、御者には飛び回る黒点が何者なのか、まるで見当がつかない。
だが、素人目に見ても、ソレの速度は速すぎるように見えた。
湧き上がる不安な気持ちを抑えたい御者は、たまらずシモンに問いかける。
そんな男に対し、シモンはあっけらかんと言い放った。
「アレは、ドラゴンですよ」
◇
「皆さん、急な呼び出しに応じてくれて、ありがとうございます」
グランパーニュ魔法学校。
その学園長室に、10名ほどの人間が集まっていた。
まず、中央で音頭を取る初老の女性、学園長。
その学園長の後ろには、学園で教鞭を執る教師陣から選りすぐりの5名が立っていた。
年齢は20代から30代ほど。彼女達は皆、熟練の冒険者に匹敵するほどの強者でもある。
そして生徒からは4名。
帝国クラス代表。公爵令嬢『レオノラ』
王国クラス代表。王国王女『カーラ』
魔国クラス代表。魔国王女『ニーシャ』
『前』帝国クラス代表。廃嫡王女『アルチェ』
突如、飛来したドラゴンに対応するため、生徒達を動かせる代表である人物が、ここに集められていた。
「皆さんも気づいているかと思いますが、我が学園の上空にドラゴンが現れました。今はグルグルと回っているだけですが、あれはドラゴンの攻撃態勢です。10分もすればヤツは私達に襲いかかることでしょう」
普段はおっとりと喋る学園長だが、流石に余裕がないようだ。
早口に要点だけ喋ると、今後の指示を出す。
「皆さんには、避難誘導をお願いしたいのです。魔法学校には貴族も多く集まっています、何かあってはいけませんから」
生徒達を呼んだ目的。
それは参戦させるためではなく、避難させるためであった。
戦力的な話で言えば、ここに集った生徒達は教師に匹敵するほど強い、けれど万が一があった場合、ドラゴンに勝てても学園は責任を取らされるであろう。
それを防ぎ、血気盛んな生徒を事前にコントロールするべく、生徒に指示ができる生徒たちを招集していた。
……もっとも、アルチェに関しては『念の為』くらいの気持ちではあるのだが。
一応は、つい昨日まで帝国クラスの代表であったアルチェ。クラス代表が『レオノラ』に変わってから、まだ一日しか経っていない。
帝国クラスはレオノラとアルチェの二人に指示してもらうほうが無難、と考えてのことである。
「お願いできますか?」
疑問形ではあるものの、有無を言わせるつもりのない学園長の言葉。
だが、生徒の中には納得しないものもいた。
「避難、だと?このオレ様が?……おいババア、貴様魔国を舐めてるのか?魔国に敵が来たからと、逃げ出す腑抜けはおらんっ!ドラゴンなど、オレの勲しの一つにしてやるわっ!」
魔国王女、ニーシャ。
血気盛んな魔族である彼女は、立場も考えずドラゴン討伐を希望した。
力が第一の魔族にとって、強いモンスターを狩ることは大変な名誉である。
それは人一倍名誉を気にするニーシャにとっても、ドラゴンとの遭遇の機会はまたとないチャンスであった。
それを邪魔するな、と彼女は学園長に憤る。
「…………ワタクシ、レオノラもニーシャに賛成いたしますわ。教師陣だけでドラゴン討伐は難しいのでは?教師が負けたら、次は生徒の番。ならば、先んじて協力したほうが勝率が高いのではなくて?」
帝国公爵令嬢、レオノラ。
冷静沈着な彼女がドラゴン討伐に協力を申し出たのには理由があった。
『ちょうどいいタイミングがあれば、バレないようにアルチェを殺せ』
そのように女帝から、レオノラは密命を受けている。
ドラゴンが来たことには驚いたが、……きっと戦闘時はパニックが起きるであろう。
後ろから、刺してやればいい。それで、面倒なミッションは終わり。
後は適当に、ドラゴンと戦わずいなしておけばよい。
そんな心算から、それらしい理由を取ってつけた。
「…………魔国と帝国は馬鹿、なんですかぁ?それって死ぬリスク考えて、言ってますぅ?王族ならばリスクヘッジは当然なのではぁ?」
ドラゴン討伐を主張する2人に対し、王国王女カーラは煽るように2人に反対する。
この中で、最もマトモであり、そして大局的な視点を持つカーラ。下手な博打は打たなくてよい、そう考えていた。
「ハッ、腑抜けが。そんな弱腰だから、王国クラスは弱いんだよ。別に避難してて良いぜ?お前ら抜きでやるからよ」
「…………そうですわね、カーラさん。避難してくれて結構ですわ。魔国と帝国だけでやりますから。……でも、これでドラゴン討伐しちゃったら、王国の評判は、とてもとても落ちるんでしょうね。勇敢な2国に対し、王国は腰抜けだと」
「…………」
レオノラの言葉に、カーラは押し黙る。
カーラの理想は生徒全員で避難すること。それが無難。
しかし、最悪のシナリオは王国だけが避難した上で、帝国、魔国の両国の協力の元、ドラゴンが倒されること。
もしもあのドラゴン相手に、人員が欠けることなく学園側に勝たれでもしたら、…………その影響は、計り知れない。
学生がドラゴンに勝つなど、夢物語。
それが実現してしまったら、どれほどの逸話となるだろう。
きっと大陸中で彼女達の勲しは叫ばれ、……王国は、笑われる。
『王国に、未来なし』
そう言われる、可能性すらある。
その思考に行き着いたカーラは何も言えず、ただ学園長に『止めろ』と思いを込めて強く見つめた。
学園長は、深く深くため息を吐く。
そして、一度下を向いたかと思えばニーシャのほうに向き直った。
「まずニーシャさん。学園としては避難してほしいのだけど、どうしてもドラゴン討伐は譲れないのかしら?」
「くどい!貴様が何と言おうと、オレはやる!」
「…………分かりました。次に、レオノラさん。先ほど生徒も協力してくれるという話だったけど、ドラゴンの前では半人前が前に出ても意味がないわ。……だから、生徒の中でも特に優れたアナタ達だけ協力してもらう。と言うのはどうかしら?」
名を呼ばれたレオノラは俯き、考える。
そして、気が付かれないほどの一瞬、所在なさげに佇むアルチェを見やり。
「結構ですわ」と答えた。
「そして、カーラさん。アナタが言うことはもっとも。だから、アナタ達生徒は前線に出なくて良いわ、備え付けの魔法大砲を使って援護射撃だけ頼めるかしら。それなら幾分か安心だと思うし、ドラゴンから攻撃された時はすぐ逃げていいわ」
「……そうですね。ええ、それなら私も参戦しましょう」
カーラはリスクとリターンを考え、了承した。
「アルチェさん、クラス代表ではなくなったものの、アナタの力は必要。私達のため、力を貸してもらえるかしら」
学園長は最後に、ブスッと顔を膨らませながら横を向くアルチェに協力をお願いした。
アルチェの力は学園でも有数である。
アオバランカーズではラズリに負けた彼女だが、総合値で彼女に勝てるものは、そうそう居ない。
そんな彼女が後ろから援護してくれるなら、きっと大きな力になるだろう、と。
「条件があります!!!」
「……聞きましょう」
アルチェは頭を下げる学園長に対し、力強い眼差しを返す。
そして、『一歩も譲らない』。そんな強い意思を込めつつ、彼女は強く叫んだ。
「私は今!不当に!馬小屋に押し込められています!ドラゴンは私が追い払ってやるので!ちゃんとした部屋をよこしなさいっ!!!」
『廃嫡されたのには、理由がありそうね』と内心はそう思いながら学園長は、「ええ、いいわよ」とニッコリと微笑んだ。
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