窯業ギルド

 土の街は俺たちが入ってきた門、これが南門で正門になっていた。正門にはいるとそこが冒険者ギルドらがある地区でその奥に別宅がある居住区、そしてさらに奥にずっと行くと採掘場と工場になっている。大きな街だ。


 3日をかけてマップの作成クエストを終了した俺。おかげで市内の位置関係をしっかりと掴むことができた。どの街でもマップクエストはやるべきだね。路地までしっかりと見て歩いたよ。


 街の奥にある採掘場は地面に大きな穴を開けて下に掘り進んでいく露天堀りのスタイルに似ているがよく見ると大きな穴の縁にスロープがあり、そこからいくつも横に伸びる坑道の入り口が見えていた。地面に大きな穴を掘ってそこから横に進む坑道を作って採掘をしている様に見える。穴の深さはどうだろうか、30メートル位?周囲がスロープになっている。


 この土の街には忍具や刀を売っている忍具店が無かった。水の街にも無かったからひょっとしたら無いかもと思っていたらその通りだった。


 忍具店は無かったがこの街には窯業ギルドがあった。これは今まで無かったギルドだ。窯業ギルドは採掘場のエリアに入ったところにあった。ギルドマスターはサラームさんというドワーフだ。


「焼き物に興味があるのなら誰でも窯業ギルドは歓迎するぞ。出来上がった陶器はこのギルドでも買い取っているが、出来のよいのなら市内の店でも買い取ってくれるぞ」


 ギルドに登録すると自宅に設置できる簡易の窯業セットを買う事ができる。もちろん、俺は窯業ギルドに登録をして窯を買った。窯と一緒に焼き物の土や釉薬も買う。


 自宅の工房に窯を設置するとタロウとリンネ、そしてランとリーファも興味津々と言った感じて集まってきて新しく設置した窯業関連の道具を見る。


「主、これは何なのです?」


「これは窯だよ。火を入れると熱くなるからその時は近づいちゃだめだぞ。それからこっちは轆轤と言って土を形にする回転板、これを使って形を作ってからそれをこの窯の中に入れて焼くんだ。お皿や壺を作ったりできるんだ」


「見てみたいのです」


 リンネはそう言い、他の3体も羽根や尻尾をブンブンと振り回す。とりあえずやってみようと轆轤を使って湯呑みの形を粘土で作るとまずそれを焼く。これは素焼きと呼ばれる工程だ。


 釜を設置した時に同時に煙突が倉庫の屋根から突き出ていて、窯で焼き始めるとそこから煙が立ち昇る。このあたりはゲームならではだね。窯の温度管理も不要だ。


 1時間経って釜から取り出すと形は不恰好だが湯呑みが焼き上がった。それを見ていた従魔達は尻尾を振って喜んでいるがこれで終わりじゃない。今度はその素焼きの湯呑みに釉薬を塗って模様を書くと、もう一度釜に入れて火をつけた。こちらも1時間で焼き上がる。


 1時間後に釜から取り出すと白い色をした湯呑みが出来合った。白い湯呑みに葉っぱの絵が描かれている。


「すごいのです。主は焼き物も一番なのです」


「ガウガウ」


 タロウとリンネはそう言って褒めてくれる。ランとリーファも出来上がった湯呑みの上で歓喜の舞をしてくれた。形は不恰好だがとにかく初めて焼き物ができたぞ。


(ミント、窯業スキルってのもあるのかな)


(はい。今の湯呑み製作でタクの窯業スキルが3になりました)


 他の合成と同じっぽい。スキルが上がると良い製品が作れそうだな。

 早速それにお茶を入れて飲んでみる。漏れていないし何より自分の畑のお茶を自分が作った湯呑みで飲むというのは最高だよ。


「これからも時間がある時に焼き物を作ってみよう」


「ガウガウ」


「やるのです。従魔達が皆で応援するのです」



 俺が窯業ギルドに入り、自宅で焼き物を作っている間に情報クラン、攻略クランの残りのメンバー達も無事に土の街に着いた。これから本格的に活動をするらしい。と同時に情報クランが売り出した土の街の情報が飛ぶ様に売れているという話を聞いた。


「皆新しい街があると分かれば来たくなるでしょう?」


「そう言うことだ。おかげで稼がせてもらったよ」


 土の街の俺の別宅にやってきたクラリアとトミーが言っている。この土の街の情報を提供した俺にも情報提供料が入ってくるので情報が売れるのはありがたい話だよ。窯業ギルドの件も情報クランはつかんでいて焼き物に興味があるメンバーが登録したらしい。


「タクはこれからどうするの?」


「行くべき場所、やるべきことが多いからのんびりやるよ。水の街で釣りもしないといけないし、土の街の周囲も探索してみたい。木のダンジョンにも挑戦してみたい。やることが多すぎるよ」


 もちろんそれ以外にルーティーンの畑の見回り、その間に月に1度はリンネの村にも顔を出さないといけない。幸いにどれも期限が決まっていないからのんびりとやるつもりだ。攻略クランは森小屋の周辺の探索組とこの土の街の探索組の2つのチームに分かれて活動をしているらしい。スタンリーらのパーテイは森小屋探索チームだと教えてくれた。転移の腕輪を持っているあるからそうなるんだろうな。情報クランは市内の情報収集と周辺の探索、そして1パーティは木のダンジョンの攻略を続けるのだという。


 印章も貯まるしねと言った後でクラリアが続けた。


「そうそう、木のダンジョンだけど10層に転送版が見つかったのよ。1層から9層までは転送盤が無かったんだけど10層から11層に上がる階段のところで見つけたの。それに乗るとそこから1層に戻ることができて、次からも1層から10層に一気に飛べる様になったのよ」


 10層までは苦労して上がる必要があるがそこまで到達すると攻略が進む様になっているのか。いやらしい仕様だな。


「11層から12層に上がるところにも転送盤はあるのかな?」


「それはまだ分からない。11層は上級レベル22相当の魔獣がいるんだけど常時リンクするのと視界が悪いので攻略に時間がかかりそうだと言っている。もちろんフロア自体も広い。これは11層に限らずだけどな」


 上級レベル18の俺がダンジョンの10層に行けるかどうか。クラリアとトミーはタロウとリンネが入れば行けるんじゃないかと言っている。裏を返せば普通なら18だと厳しいということだよな。やっぱり20まで上げた方が良さそうだ。いつもタロウとリンネにおんぶに抱っこだから、少しは自分も貢献したいんだよ。


 ダンジョンは上忍20になったら一度挑戦してみよう。そのためにも経験値稼ぎだ。


「これから街の外に出るぞ」


「やったー、なのです。やってやるのです」


「ガウガウ」


 しばらく戦闘をしていなかったせいかタロウもリンネもやる気満々だ。土の街の東門を出た俺たち、門を出ると100メートルも行かないところに森がある。まだプレイヤーが到着していないから空いている。森の中にいる魔獣は上級20から22程度で、レベル22の相手でも俺達で危なげなく倒せた。タロウとリンネがいるから倒せるんだけどね。今日出向いた森にいた魔獣は水の街の郊外の魔獣と同じ種類、レベルもほぼ同じだった。


 この街と水の街へは森の街を起点として行ける様になっている。2つの街の位置付けは同じなのかもしれない。分散して好きな方で経験値を稼いでくれという事なのかな。


 夕方まで頑張って上級レベル19になった。ここはまだライバルがいない。明日もやろうと決めてタロウとリンネに言うと尻尾をブンブンと振り回す。戦闘好きな2体だからな。


 それから2日かけて俺たちは上級レベル20になった。ライバルがいないので狩り放題だったのが助かった。これも先駆者利益なのかな。


 3日間外で経験値稼ぎをしたのでこの日は開拓者の街の自宅で畑の見回りや農作物の販売、そのあとはランとリーファと遊んだりしているといつもの4人が自宅にやってきた。


「今日から新しいプレイヤーさんが土の街に到着し初めているの。彼らがまた何か情報を取ってくれるかもしれないと期待しているのよ」


 確かに探す”目”や”耳”は多い方がいいよな。


 情報クランと攻略クランの主要パーティの連中は22に上がっていた。ただ22でも武器屋、防具屋で新しい装備は売ってくれなかったそうだ。スタンリーらの攻略クランは森小屋を中心にあの一帯を探索しているが今の所NMや印章NM戦をする草原は見つかっていないらしい。


「何かあるはずなんだよな。でないとあそこに小屋がある意味がない」


 ただそれが何なのかまだ見つけられないんだよと言うスタンリー。


「タクがうろうろしたらまた見つけてくれそうだと期待してるんだよ」


「流石にそれは無理があるぞ」


 俺はそう言ったがそれでも何かを見つけてくるのがタクだという4人。


「主に任せるのです。安心なのです」


 リンネのそのセリフ、最近聞いたぞ。

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