護衛のヘルプなのです
自宅でインした俺は4体の従魔と一緒に畑の見回りと水やり。いつものルーティーンをこなし、それが終わった今、俺は精霊の木の根本で背中を木の幹に預けて両足を伸ばした格好で4体の従魔とほっこりとしている。
タロウは俺の横で背中を木に預けながらゴロンと横になっており、ランとリーファは俺の両肩に座って休んでいる。リンネは俺の腹の上だ。タロウとリンネの尻尾は規則的にゆっくりと左右に動いている。2体ともに機嫌が良さそうだな。
特に目的もなくのんびりするのは久しぶりの気がする。
ぼーっと過ごしていると通話が来た。
「主、お電話なのです」
「うん、ありがと」
端末の音が鳴るとランとリーファは肩から飛び立って俺の伸ばしている足に腰をかけた。俺の次の動きを察して移動してくれる、よくできた妖精達だよ。
端末を手に取るとクラリアからだ。挨拶を終えると彼女が言った。
「タクはこれから予定はあるの?」
「いや、今日は何をやるか、まだ決めていないよ」
「よかったわ。実はね」
そう言ってから彼女が話をしたのは、山裾の街から開拓者の街への護衛クエストが始まったんだが当初出席を予定していた情報クランのメンバー数名がリアルの急用でゲームにインできなくなったらしい。
「20名を1組として、それに対して4、5名で護衛をして移動するのよ。午前中に2パーティ、40名を護衛して開拓者の街に案内するんだけど情報クランのメンバーが5名しかいないの。タクと2体の従魔達のヘルプをお願いできないかしら」
クラリアによると攻略クランは朝から試練の街を出発して森の探索をしておりあちらのクランからの応援は頼めないのだと言う。
「分かった。手伝うよ」
「助かる。1時間後に山裾の街の門を出たところまでお願い」
電話を切るなり膝の上に座っているリンネが顔を上げて俺を見る。横になっていたタロウも起き上がって顔を俺に向けていた。
「主、お出かけするのです?」
「そうだ。俺とタロウとリンネとでお手伝い。ヘルプの依頼だよ」
そう言うと膝の上で立ち上がったリンネ。
「ヘルプするのです。ヘルプは大事なのです」
「ガウガウ!」
1時間後、俺と従魔たちが山裾の街の門の外で待っていると門からクラリアを先頭にして40名のプレイヤーが出てきた。
「うぉ、先輩だ」
「フェンリルのタロウよ。九尾狐のリンネちゃんもいるわ」
第2陣のプレイヤー達から声が上がる。タロウとリンネは第2陣のプレイヤーの間でも有名みたいだな。
「急にお願いしてごめんなさいね」
クラリアが近づいて来て言った。
「問題ないよ。それより40名を1つのグループして移動するの?」
「レベル制限があるけどこっちは全員レベル70だし。8名いれば問題ないと思うのよ」
クラリアがそう言うのなら問題ないのだろう。顔見知りの情報クランのメンバーと挨拶をした後で護衛する俺たちの配置を決めた。俺とタロウとリンネが先頭を歩いて、40名の左右に残りのメンバーを配置する。タロウの警戒の能力を活かせるには先頭が一番良いという判断らしい。
集まっている40名のプレイヤーの中に忍者の格好をしているプレイヤーが数名いる。ヤヨイさんの店で買った装束と刀だな。うん。その装備なら長い間使えるよ。
出発の前に情報クランのメンバーが40名のプレイヤー達に移動の際の注意を言っていた。曰く、戦闘には参加しないで欲しい。助太刀も不要。移動に関してはこちらの指示に従ってもらう。万が一護衛に失敗した際には代金は返却するなどだ。皆頷きながら情報クランのメンバーの説明を聞いている。
彼らのレベルは最高でも59らしい。まず無理はしないと思うが、俺も手伝うよと言ってくる輩が出てこないとも限らないので最初に釘を刺すんだと他のメンバーが教えてくれた。
「俺たちは先頭を歩く。タロウ、周囲の警戒を頼むぞ」
「ガウ!」
任せろ。と尻尾をブンブンと振りまわすタロウ。
「タロウに任せておけば安心なのです。リンネも主の頭の上から周囲を警戒するのです」
そう言うと頭の上に乗ってミーアキャットスタイルになるリンネ。
「リンネも頼むぞ」
「ばっちりなのです。ヘルプするのです」
俺とリンネとのやりとりが聞こえていたのだろ、第2陣のプレイヤー達から歓声が上がった。すげー、とか、本当に話しているんだ。とかだ。第1陣のプレイヤーの多くはリンネの言葉を聞いたことがあるが、そういえば第2陣の前でリンネが話をしたのは初めてかもしれないな。
行きましょうというクラリアの声で40名と8名の集団が山裾の街を出て、北にある山裾の坑道を目指して草原を歩き出した。
途中で魔獣が襲ってくるがタロウの気配感知で事前に準備をした俺が相手をして倒していく。蝉を張っているがこのレベルなら腕輪で素早さが上がっているので蝉が剥がされる攻撃を直撃を喰らうこともない。俺たちは85以上の装備だがエリア制限地域だとそのステータスが70相当に下がるだけで装備を外したりする必要はない。
「タクと従魔達で十分護衛できるんじゃない?」
「それはそっちも同じだろう?」
「まぁね。20名に対して4名の護衛を出しているのも万が一の事態に備えているのと護衛をする人たちを安心させるという意味もあるから」
情報クランのメンバーがそう教えてくれる。この護衛の目的は希望者全員を間違いなく開拓者の街に送り込むことだ。ヒーローはいらないってのは俺もよくわかる。堅実に、確実に仕事をしないとね。
数度、獣人や魔獣と遭遇したが危なげなく倒した俺たちは北の山裾にある坑道に着いた。40名のプレイヤーが転送盤を登録している間俺はやることがないので坑道の入り口近くに座って水を飲んでいた。そばにはタロウとリンネがいる。
「ちょろいものなのです」
俺の膝の上で横になったままリンネが言う。
「リンネ、油断は禁物だぞ。ちゃんと最後まで仕事をしような。タロウもな」
「分かったのです。タロウとリンネに任せるのです」
「ガウ」
全員の登録が終わると坑道の中を進み出す。薄暗い坑道の中には蝙蝠やレッドモグラと呼ばれる魔獣が生息しているがそれらを倒しつつ進んでいく俺たち。薄暗くて視界が悪くてもタロウが敵の気配に気づいてくれるので不意に襲われることはない。
タロウが唸り声を上げると情報クランのメンバーが40名のプレイヤーをその場で立ち止まらせる。その間に俺や他の情報クランのメンバーで魔獣を倒しては再び全員で奥に進む。この繰り返しで坑道の中を進むこと約4時間、俺たちの目の前に坑道の出口と、その手前にある坑道内転送盤が見えてきた。さっきと同じ様に全員が転送盤を登録した。そのまま洞窟を抜けると広い盆地に出る。盆地の先にある開拓者の街の城壁を見て声を上げるプレイヤー達。
「後少しですが、気を抜かずに行きましょう」
この護衛パーティのリーダーであるクラリアの声で坑道を出ると草原を開拓者の街に向かって歩いていく。
盆地に入っても敵とは遭遇するが、それらを倒して進んでいくと一行の前に開拓者の街の門が見えてきた。歓声を上げるプレイヤー達。そのまま門を潜って市内に入るとクラリアが全員を集めた。タロウとリンネは門の前で自宅にリターンさせている。
「お疲れ様でした。これで依頼を受けた護衛は終了です。そこに冒険者のギルドがありますからこのままその中にある転送盤を登録されるのをお勧めします。またこの盆地にいる敵のレベルは60以上となっています。お含みおきください」
解散するとプレイヤー達は皆冒険者ギルドの中に入って言った。それを見ていると護衛をした情報クランのメンバが集まってきた。
「ありがとう。午後にも護衛があるんだけどそっちには午前中に来られなかったメンバーも参加できるって連絡が来ているの」
「じゃあ俺はここでお役御免でいいってことだね。ありがとう」
他のメンバーにも挨拶をしてそのまま自宅に向かって門を開けると従魔4体が出迎えてくれた。
「タロウもリンネ、よくやったぞ、お疲れ様。ランとリーファはお留守番ご苦労様」
労ってやると妖精はサムズアップで答え、タロウは尻尾を振りながら嬉しそうに吠える。リンネもばっちりヘルプしたのですと俺の膝の上で尻尾を振りながら答えてくれた。
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