コテンパンにやっつけるのです
インするといつものとおり畑の見回りだ。タロウの背中にリンネが乗り、その後ろを両肩にランとリーファを乗せて俺が歩く。これもいつものパターンだ。前を歩くタロウは尻尾をブンブン振りながらゆっくり畑の中を歩いていく。リンネに言わせると、
「タロウは主を先導して歩くのが大好きなのです」
だそうだ。大抵は俺の横を歩いているがそれはそれで楽しいらしいがこうやって前を歩くのはタロウが俺を守っているという気になるらしい。タロウの機嫌が良いのならこっちは何も言うことがない。その背中に乗っているリンネも6本の尻尾を規則的に左右に振っている。こちらも機嫌が良いのだろう。魔法で水を畑に撒いてくれる。
ランとリーファは肩に乗っているので姿は見えないが羽根をゆっくり動かしている動きは伝わってくる。これも機嫌がよい証拠らしい。ステッキを振ってしっかりと畑と果樹園の世話をしてくれる。
従魔達の機嫌が良いのなら俺としては何も言うことがないね、
畑と果樹園を見たあとはビニールハウスの水やりだ。ハウスの中を移動しながらリンネが水をやり、妖精がステッキを振って作業が終わると従魔達はしばらくこの中で遊ぶ。高設栽培なので地面を少々走り回っても問題ない。
しっかりと遊んで満足すると皆俺のところに集まって来る。ハウスを出るとランとリーファはいつもの指定場所、精霊の木の枝に並んで腰掛け、タロウとリンネは縁側に座る俺のところにやってきた。
「主、今日は何をするのです?」
どうしようかなと思っていると端末が鳴った。と同時に、
「主、お電話なのです」
待ってましたとばかりにリンネが言った。
「ありがとう」
相手はクラリアだった。
「これから何か予定入ってる?」
挨拶を交わした後でそう聞いてきたクラリア。何も予定がないというと、以前攻略クランが倒した半魚人のNMがREPOPしたらしい。ヘルプのお願いだ。もちろんOKする。電話を切ってそばにいる2体の獣魔を見るとタロウもリンネが目を爛々とさせていた。相変わらずだな。
「ヘルプなのです。主の出番なのです」
「ガウガウ」
2体ともやる気満々だ。留守番をランとリーファに頼んで転送盤で別宅に移動するとすぐにクラリアがやってきた。偵察班としてトミーやクランメンバーの一部が既に現地にいるらしい。
「急に連絡してごめんなさいね」
「こっちは全然平気。大丈夫だよ」
早速街を出て南の森を目指す。クラリア以外に7名の情報クランメンバーが同行していた。道中はタロウの気配関知で事前に敵を察知する上に俺以外は皆高レベルだ。何もしなくても魔獣を倒してくれる。道中は全く貢献できていないな。俺に期待されているのは池に入ったあとの盾だからまぁいいか。そう割り切ることにしよう。
クラリアら情報クランは前回倒されてから毎日池の周りをチェックしてREPOP時間を計測していたらしい。
「今から1時間ほど前にPOPしたの。前回倒してから丁度1ヶ月後ね」
移動中にそう教えてもらった俺たちが敵を倒しながら森の中を進んでいくと木々の間に隠れているトミーら情報クランの先行組の姿が見えた。
「悪いな」
「大丈夫、それより前回と同じってことでいいのか?」
近づいてきた俺たちに気がついたトミーが話かけてきたので俺はそう言ったがその答えはトミーじゃなく別のところから来た。
「見た感じは同じね」
前回対戦しているクラリアが言った。そうか、トミーは前回はNMの姿は見てなかったんだ。木々の間から池を見ると前回見たのと同じ半魚人のサハギンNMが池の周りの岸辺を行ったりきたりしていた。
NMの感知範囲外で集まった俺たち。作戦は攻略クランの時と同じで地上ではナイトが盾で攻撃を受け止め、池の中に入ったら俺が忍者盾で対応する。戦闘経験者のクラリアが事前にメンバーに説明していたのだろう。全員が頷くと配置についた。
「タロウ、リンネ。この前と同じ相手だが覚えてるか?」
「ガウガウ」
「大丈夫なのです。タロウも覚えていて問題ないと言っているのです」
なら安心だな。
「あの敵は見た目がよくないのです」
タロウの上に乗っているリンネが言った。
「リンネもそう思うか。俺も同じだ」
「なのでコテンパンにやっつけるのです」
そうしよう。俺は頼むぞとタロウとリンネの背中をトントンと叩いた、尻尾をブンブン振ってそれに応える2体の従魔。気合い十分だな。
情報クランの盾はリックという狼人の男性だ。ジャックス同様がっしりとした体格でいかにも盾と言った感じのプレイヤーだ。
サハギンとのNM戦は前回よりも楽だった。こっちのレベルが上がっているからだろう。危なげなく倒せたよ。水鉄砲は強烈だったが今回は2回目からうまく避けることができた。NMのレベルは変わらないみたいだ。こっちのレベルが上がったせいかNMを倒して得られた経験値は前回よりは少なくなっていたがお金は10,000ベニーと前回と同じだった。
さっくりと倒して試練の街の情報クランのオフィスに戻って来た俺たちは会議室でトミーが端末に収めたドロップ品をチェックする。もちろん俺は何も要らないがどんなのが出るのか興味があるんだよね。
出てきたのは杖、腕輪、鱗、盾の4アイテムだった。前回は片手剣で今回は杖なのねとクラリアが端末を見ながら言っている。他のアイテムは前回と同じだった。回復の腕輪が出たがこれは良いアイテムだ。情報クランでもナイトのリックが装備することになった。
杖は水属性の杖、水の精霊魔法使用時に威力アップ。LV85から装備可能。他のアイテムは攻略クランの時と同じだった。盾はやっぱりLV85から装備可能だった。
「こちらがもう少しレベルが上がったら水鉄砲もナイトの盾で耐えられるかもしれないわね」
「それは要検証だな。ただNMのレベルが上がらないのであればどこかでそうなる可能性が高い」
クラリアとトミーが話をしているのを聞いている俺。いずれ忍盾もお役御免となりそうだがそれはそれで全然構わない。ヘルプとはそう言うものでしょ?
「タク、ありがとうね」
ドロップ品の検証と分配が終わってクラリアが言った。
「いえいえ、こっちのレベルが上がると討伐が楽になってくるよな」
「そうみたいね。いずれ他のプレイヤー達も挑戦するでしょう。ただしばらくはナイト盾だけじゃ厳しいと思うのよね」
「アイテム狙いでまた挑戦する時に忍盾が有効だと思ったらいつでも声をかけてくれていいいよ」
「高レベルの忍者はタクだけだ。情報クランとしてはどんなドロップが出るのかの検証も含めてまた戦うつもりだよ。もちろん回復の腕輪狙いというのもあるしな」
あの回復の腕輪は価値があるからな。俺でもわかる。あの腕輪のために連戦するのも当然ありだよな。レベル制限がないし。
情報クランの他のメンバーからもお礼を言われた俺たちは彼らのオフィスを出るとタロウとリンネを連れて市内を歩く。タロウは俺の左横、リンネは俺の頭の上といつもの場所だ。
ぶらぶらと通りを歩いていた俺は路地に入ってその奥にあるモトナリ師匠の店に顔を出した。特に用事はないが忍具を扱っている店なので定期的に顔を出しておきたい。扉を開けるとモトナリ刀匠が店内にいた。挨拶を交わすと彼が聞いてきた。
「レベルは幾つになったんだ?」
「75ですね」
「着実に上がっているな」
「ええ。レベル上げばかりせず、他に農業や合成なんかもやってますからレベルが上がる速度は遅いですけどね」
「それでいいんだ。レベルを上げるだけじゃあ強くなったとは言えない。レベル上げに関係のない事でもそれが後々効いてくるんだ」
相変わらずはっきりとは教えてくれない刀匠だが、今の話も試練に関係のある話なのだろう。ひたすらにレベルを上げているだけではダメだと言うが、じゃあ他の何が関係してくるのかが分からない。
いずれにしても俺は今まで通りこの世界でやりたいことをやるだけだ。農業をやり、レベル上げもする。ヘルプでお手伝いをし、合成もやる。元々ソロで動いていてクランやパーティとは違う。やりたい時にやりたい事をやっていこう。
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