第17話 私にできること
農家の男の子とその父親に案内されて私は村から少し離れた山奥にたどり着いた。
さらに奥に行くと綺麗な緑色の『セグシアー』が大量にあった。
「良かった!これだけあれば何とかなりそうだわ…!」
「奥様。何をなさるおつもりなのですか?」
男の子の父親は訝しむように訊ねる。
私は彼に振り向き、告げた。
「この『セグシアー』を使って畑の肥料にするのです」
「しかし、『セグシアー』はハーブの一種です。紅茶に使用するならまだしも、畑の肥料にするなんて聞いたことがありません。それに畑は水びたしなのですよ!」
抗議する男の子の父親に私は真面目な表情で答えた。
「『セグシアー』は紅茶にも使用されていますが、本来は呼吸する植物なのです。水分を吸い取り、吸い取った水分を栄養に変化させて他の植物の肥料として活用することがかのうなのですよ」
「そのようなことが本当に出来るのですか?」
「ええ。以前、信用ある農家の方に聞いた知識なので確実かと…」
私が実家のビクトリアスにいた頃、いつも食材を仕入れていた農家の方に聞いたことがあった。
その時は私が育てていた花が萎れて元気がなかった為、何とかしたいと思い訪ねてみたら年配のお爺さんが教えてくれたのだ。
彼に言われたとおりに試してみたら萎れていた花が息を吹き返したように元気になった。
だから私は畑にもこの方法が使えるかもしれないと思ったのだ。
「もし上手くいかなかったらどうされるのですか?」
「その時は私が責任を取ります。だから今は私を信じて下さい」
訝しむ男の子の父親に私は真剣な表情で言った。
正直失敗した後の方法はまだ考えていない。
だけどやらない後悔より、やったあとの後悔が良いに決まっている。
駄目だったらその時に考えればすむことだ。
男の子の父親はため息をつき、頭をボリボリと掻いた。
「わかりました。そこまでおっしゃるのでしたら信じます」
「有難う御座います!」
私は彼の言葉に嬉しくなり、頭を下げてお礼を言った。
「奥様。僕も手伝うよ!」
「有難う」
私は男の子に小さく微笑んだ。
私達は自生していた『セグシアー』を次々と持って来た籠の中に入れていく。
「こんなもんか…。奥様まだ入れた方が良いか?」
「一先ずここまでにしましょう。また必要になりましたら取りに来たら良いので」
「それもそうだな」
「あっ…」
男の子の怯えた声が耳に届き、私は彼の方に視線を向ける。
そこには二頭の狼が男の子の姿を捉えていた。
「あっ…あ…」
男の子は恐怖でカタカタと身体を震わせ、声が出せずにいた。
「セドリック!」
男の子の父親は子供の元に行こうとしたが狼は男の子…セドリックを捉えたまま動こうとしない。
変に刺激を与えてしまえば狼はセドリックを襲いかかる可能性が高い。
「うわぁぁぁ」
ついにセドリックは我慢出来ずに泣いてしまった。
それが皮切りとなり狼がセドリックに飛び掛ろうでした。
私は咄嗟にセドリックの身体を抱きしめ、彼を守ろうとした。
「うっ…」
狼の鋭い爪が私の腕を引っ掻き、苦痛に私は呻いた。
さらに狼は大きな口を開けて私の首筋に噛み付こうとした瞬間、狼の身体が弾き飛ばされた。
「えっ…?」
振り向くとそこには剣を手にしたニコラ様の姿があった。
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