84・カズテスの遺跡

第255話 遺跡到達

 大洞穴の中をもりもりと突き進む。

 かなりの奥深くまで通じており、まるで螺旋階段のようだ。


「いやあ、上に行くほど暖かくなるという不思議な現象が起きてるね」


「ほんとだ。普通は上に行くほど山ってのは寒くなるもんなあ」


「ふしぎー!」


 僕とリップルとコゲタの三人。

 他のコボルドたちは、どうも遺伝子に遺跡の奥へ進まないことをプログラムされているらしい。

 一人もついてこれなかった。


 いやはや、しかし、螺旋階段はどこまでも続く。

 一段一段がとても低いので、さほどストレスにはならないが……。


「やっぱり暖かくなってる。なんだ? それに山の中をくり抜いた構造なのに、ずっと明るいぞ。天井が発光してるのか」


「とんでもない量の魔力が常に使われてるよ。私のセンスマジックで見ると、天井と壁はピカピカだ。天井には発光、壁は形状維持の魔法だね。えっ、暖房? そういう魔法は掛かってないな」


 あまりに暑いので、ここで藁のコートを脱いでいくことにした。

 おお、これでちょうどいいくらいじゃないか。


「いやはや、登るほど暑くなるねえこれは! ちょっと涼しくなる魔法を使っておくかな。二人とも私の近くに寄りたまえ」


「おうおう」


「はあい!」


 ということで、団子になって登っていくのだ。

 どれだけ歩いたか。


 登山なら、相当な時間が掛かる高さまで達したと思う。

 特に障害物のない螺旋階段をひたすら歩くのは、なかなか退屈ではあるが、身の安全に気を配らなくていいというのはとてもいい。


 途中で一休みして、また登る。


「コゲタねむくなってきた!」


「コゲタが眠くなるほど変化のない景色が続いていたか」


 これは果がないなあなんて思い始めた頃。

 唐突に螺旋階段が終わった。


 どこまでも続いていると思ったら、踏み出した瞬間に最後の段になった。

 まるで大量の段を飛ばされたような……。


「条件があったようだねこれは」


「条件?」


「余計なことをしないでのぼり続けられるかどうか……みたいな。私は面倒で余計な魔法を使わなかったし、ナザル、君は素直だった」


「ははあ、なるほど……。そんなたちの悪い罠が!」


 だが、到着できたならよし!

 辺りを見回すと、そこはそれなりに広い空間だ。

 きっと三角錐の形をした頂上の中に作られているんだろう。


 ごうごうと音を立てる機械が空間の中心に鎮座していた。

 長老は魔道タービンと呼んでいたが、これがそうなのだろうか?


「な、なんだいこりゃあ……! とんでもない大きさの金属の塊が動いて、魔力をどんどん生み出してる……」


「機械っていう概念ないもんなあ、この世界は。おお、近づくと涼しい魔法があっても暑い! これが発熱の元だったかあ」


「ナザル、君がかつていた世界にはこういうのがあったのかい?」


「あったね。機械っていうんだ。タービンという呼び名もそれだ。風を受けてタービンを回し、それで魔力を発生させてこの遺跡を機能させていたんだろうな」


 ……ひょっとすると、この島そのものを維持するのが魔道タービンなのかもしれない。


 僕は遺跡の頂上を歩き回った。

 幾つもの、機械としか思えないものが辺りに配置されている。


 それぞれからコードが伸びて、機械へと繋がっていた。

 どれもこれも動いていないようだが……。


「うーん……私はお手上げだな。ナザル、君に任せた」


「任された! ええと……油を収めればコボルドたちは食用の油を使えるようになると言ってたな。あらかじめ、コケはこの機械に登録されているということか」


 見た目だけだと僕としてもちんぷんかんぷんだな……。

 と思ったら、案外分かるぞ。


 これはモニターだ。

 そして本体に、サーバーがある。

 モニターに映し出されているのは、島のあちこちの光景。

 これが洞穴にある水晶板へと送り込まれていたんだろう。


 そしてサーバーからもたくさんのコードが伸びている。

 繋がっているのは……。

 あった。


 明らかに、何かを収めるためのカプセルがついた機械が存在している。

 そして、機械の先は僕が生前見たことがある構造物になっていた。


 3Dプリンターだ。

 

「ナザル、私の推理だが」


 僕がサラダ油をカプセルに収めると、機械が動き出す。

 サーバーが唸りを上げて光り輝き……。

 3Dプリンターがサラダ油を作り出す。


 それを収めるための器と一緒だ。

 そして、そこにちょこちょことコードのついた小さなゴーレムがやってきた。


 それはサラダ油を器ごと受け取ると、螺旋階段に向けて歩いていった。

 螺旋階段が動き出す。

 下に向かって、まるでエスカレーターのように。


「大魔道士カズテスは、君と同じ世界で生まれた人間だ。恐らく……生きていた時代もまた君と同じものだったのだろう」


「なんだって!?」


「君にだけ使い方が分かる機械が存在していたのがその証拠だよ。恐らく、この世界で魔法を修めたカズテスは元いた世界に存在していた食べ物を再現しようとしたに違いない。この世界には、ナザル。君が生きていた世界の食物に似たものが多かったんじゃないか?」


「確かに多かった……。あ、つまりそれは」


「カズテスが作ったんだろうね。そして、彼が最後に作り出したのが米だったと」


「ああ、なるほど……!」


 僕は唸りを上げる魔道タービンを見上げた。

 何百年も前に、ここにいた同じ世界の人物の事を思うのだ。


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