第252話 雪山に来ませんか!

 雪山にあるコボルド村へのご招待という、熱い展開。

 僕が大いに内心で盛り上がっていると、山の方からひいひい言いながら集団がやってきた。

 残りのコボルドたちだ!


「彼らを焼き飯で労いたいがいいですかね」


「ああどうぞどうぞ。お米はたくさんお使いください。いつもちょっと余るんです」


 スケアクロウたちは太っ腹だ。

 自分たちでは食事をしないのだから、米は苗にする分を除けば持て余してしまうんだな。


 僕は大いに焼き飯を作った。


「君、よく体力が持つなあ……。あっ、全身を油が回っている!! 魔力と油を混ぜ合わせて自らを永久機関に!?」


「その通り! 僕は今、全自動焼き飯作成装置だ!!」


 こうして焼き飯はコボルドたちに行き渡り、彼らはうまいうまいと大喜びで平らげたのだった。

 リーダーはチベタン・マスティフのコボルドだな。

 オーガと見紛うばかりのでかさだ。


「カクトスから聞きました。我らの村に案内いたしましょう。これほどの素晴らしい腕を持つお方なら大歓迎です」


「どうもどうも。まあ再現が難しい料理ではあるんですが。特にイグルーだと作りにくいかも知れない……」


 それはそうとして、招待を受けて僕らはコボルドの村に向かうことにするのだった。

 だが、この日はのんびりするぞ。

 コボルドたちも、来てすぐに帰るわけではない。


 しばらく暖かいところの日陰でのんびり過ごして、涼しくなってきた夕方に持ち帰るお米をより分け、まとめ、夜は寝る。

 そして明日の午前中に山へ帰るのだ。


 コゲタは、ポカーンとしてこの長毛種の垂れ耳コボルドたちを眺めていた。


「コゲタ、不思議かい」


「ふしぎー! けがながいのねー! コゲタ、さむくなってもあんなのびない!」


「コゲタは中くらいの毛並みだからなあ。熱帯雨林のコボルド村くらいの感じが近い」


 砂漠の王国は、ヘアレスドッグがいたりしたもんな。

 コゲタの姿は、山のコボルドたちからも興味の的のようだ。


 僕やリップルのような完全な異種族になると違いは分からないし、ちょっと遠巻きにするくらいであまり近寄ってこない。

 だが同じ種族なのに決定的に異なっているコゲタは、とても気になるらしいのだ。


 垂れ耳コボルドたちがこわごわ寄ってくる。


「そんなに恐れないでよろしい」


 僕が両手を挙げると、コボルドたちがキャッと言って遠ざかった。

 傷つくぅ。

 そこにカクトスがフォローしてくれる。


「これはですね、あの素晴らしい料理を作る方だというので、恐れ多いわけです。僕ら山のコボルドは信心深いんですよ。偉大なる魔道士カズテスを信仰して暮らしていますから、素晴らしい技を持つものを尊敬する傾向にあります」


「なーるほど。では僕が連れているコゲタは……?」


「偉大なる人の傍らにあるコボルドは特別です。それはそれとしてみんなコゲタさんに話を聞きたい」


「なるほどー!」


 つまり、山のコボルドは基本的に人見知りなのだ。

 だが、あのマルチーズなハムソンはウワーッと駆け寄ってきて、コゲタの手を取ってぴょんぴょん跳ねる。


「コゲタコゲタコゲタ! むこう、ぼうでカンカンやってる! コゲタつよいってきいたぞ! やろうやろう、ハムソンとやろう!」


「やろう! コゲタつよいよー!」


 コゲタとハムソンで、ワーッとちびっこスケアクロウたちに混じって棒を振り回し始めた。

 これを見た小型種のコボルドたちも、ワーッと混ざりに行く。


 ちっちゃいと子供っぽい感じなので、こういうわちゃわちゃしたフィールドがあると打ち解けやすいのかもしれない。

 リップルはずっと、コッカースパニエルのラシェリーとお喋りなどしている。

 と思ったら、他の女子コボルドらしいのが集まっていった。


 女子に人気だなリップル!

 そして僕を取り巻くコボルドたちは、こわごわと遠巻きに眺める……いや!

 目がキラキラ輝いている!


「もしかして僕に、何か凄いことをして欲しいのではないか」


「そうとも言えます。いや、我々は好奇心旺盛なんです」


 お恥ずかしい、と続けるカクトス。

 では油の芸をお見せするとしよう。


 僕はその場で、器に油を生み出したり、これを魔力に変換して消したりなどした。

 受けた受けた。


 娯楽が乏しいな、コボルドたちよ……!


 こうして夕方になり、コボルドたちは米をより分ける作業に向かう。

 その後に夕食を摂り、みんなで雑魚寝。


 長毛コボルドは外で素っ裸で寝てても全然平気なようで、腰巻き一枚でごろごろしている。

 普段は素っ裸らしいが、そこはコゲタが恥ずかしがるのでみんな気を使ってくれたのだ。


 コゲタはこう、温室育ちっぽくなった感じかな……?

 いや、僕のところで暮らしてるんだから、温室でいいのだ。

 これでいいのだ。


 コゲタが僕の横で、お腹を出してぐうぐう寝ている。

 ここ数日ですっかりモテモテになってしまったな!


 だが僕としては、コゲタを容易に口説かせはしないぞ!

 うちの犬だからな。


 そう決心し、これからはさらにアンテナを高くし、コゲタに気を配らねばなと思うのだった。

 それはそれとして、明日の冬山行きが楽しみすぎる。


 なんだかんだ言って、やっぱり旅をするのは面白いんだよなあ……。


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