第250話 油を使うぞ!!
何を作ったものかな、
おかゆは作ったし、普通に米も炊いたし、米のスープのごちそうになったし……。
というところで、僕は己のアイデンティティに気づいたのだった!
「油があるじゃないか!!」
自分が何者なのかをすっかり忘れていた。
「おや、何をなさるんです?」
昨日不寝番をしていたスケアクロウが、田んぼに足を突っ込みながらこちらを眺めている。
そこで栄養補給に専念しているんだな。
「ちょっと米を油で炒めようと思いましてね。塩とハーブはあるみたいなんで……焼き飯ができるな」
「焼き飯……!?」
聞いたことのない響きだったらしい。
まあ見ているといい。
金属が存在しないこの島では、鍋も土器を使うしか無い。
だがこれがどうして。
煮炊きに使えるレベルなので火に強いのだ!
しっかり焼き固められているから、油を垂らしても吸い込まれるようなことがない。
この土器、水漏れしないんだから当然だが。
平たい皿を鍋の変わりとする。
僕の肉体は油を纏う限り、熱によって傷つくことはないのだ。
茹でて戻したインディカ米をザーッと注ぎ込み、細切れにした具材もイン!
これを油を絡めつつ炒めていく。
おお、見よ、踊る米!
「す、凄いことが起きています!! 何をしているのですか!」
「油で米を炒めているんだ! それっ、それっ、それっ!!」
「米の輝きが変わっていきます! それほど光り輝く米は見たことがありません!!」
スケアクロウが驚愕の声をあげたので、他のスケアクロウたちもなんだなんだと集まってきた。
僕が焼き飯を作る様を、みんなが「オオーッ」とどよめきながら眺める状況になる。
食事をしない種族なのに、食べ物に興味が?
いや、一番身近な作物である米が、見たことのない姿に変化していくのが気になって仕方ないのだろう。
「ほりゃあ!」
米が宙を舞う!
「オオーッ!!」
スケアクロウたちが大いに沸いた。
これを器で受けて、後ろで待つリップルとコゲタのところに持っていくのだ……。
「お待ちどう! 焼き飯だよ! 具材はスープと一緒の干し肉を戻したやつと山菜みたいなのだが、炒めただけで全然違う料理になるだろう」
「むむーっ! なんともいい匂いがするじゃあないか! 米は茹でる、炊くだけではなく、炒めるという調理も可能なのか……。おお、米が輝いてる……。コボルドの村とはまた全然違う料理だ……」
「そうだろうそうだろう。チャーハンもどきの焼き飯だが、美味いぞ。コゲタも召し上がれ」
「やったー! ご主人のごはんだいすき! いただきまあす!」
「よし、私もいただこう!」
器から直接、匙で掬って頂いていくのだ。
うん、美味い!!
さすがインディカ米、油にコートされ、パラッパラになっている。
美味い美味い。
どんどん腹に入る。
「あっ、これは美味しいな……。止まらなくなる……。粘り気の少ない米は、油や汁物との相性がいいんだな……!」
「そういうことだ。おお、美味い美味い」
「おいしー!!」
僕ら三人が夢中で焼き飯を食べるのを、スケアクロウたちが「オオー」とどよめきながらずっと見ているのだった。
「いやあ、物を食う種族が食事しているのはよく見るのですが、我々も食べられたらなあと思ったのは初めてでしたね」
「うんうん、食事というのもなかなかいいものですね」
「だけど我々は肉体的に食事ができないからね」
「形態として植物に近いですからね」
なんか冷静な話し合いが行われているな。
そもそも、植物と全く同じなら動き回るほどのパワーは得られないわけで。
「私が思うに、スケアクロウは生み出される過程で、その作業工程そのものが魔法儀式になりエネルギーを与えられているのではないかな」
「おっ、リップルの考察が」
「水と陽の光だけで、歩き回って田を管理できるだけの身体能力を確保できるわけないだろう? 彼らは魔法で動くゴーレムだよ。その肉体の維持管理のために水と太陽が必要なだけで。そして魔法の力が減少して行き……」
そこがスケアクロウの寿命になるわけか。
なるほどなあ……。
恐らく、スケアクロウは魔力が消え、本当のカカシに戻ってしまうわけだ。
彼らの墓が里の奥にはあるのだが、どう見ても古びた藁が積み上げられているようにしか見えない。
そしてこれが雨に打たれて腐食し、それを加工して肥料にしたりもしているようだ。
まさに、その存在全てが田と一体なのだなあ。
スケアクロウの里の一番面白いところは、彼らには長がいないことだ。
全員が均質なスケアクロウであり、年齢の老いた、若いだけがある。
藁で作られたスケアクロウはなんと成長するゴーレムであり、光合成によって大きくなる。
そして成人と呼べるサイズになると成長は止まり、そこから十数年で老化して寿命を迎える。
多分、色々な話を聞いていると、彼らの寿命は二十年ちょっとくらいなんじゃないかな……?
スケアクロウからすると、もっと長かったりするような話をするが。
一年間のメリハリが無いこの島だと、どれだけの時間が経過しているのかが分かりづらい。
コボルドの寿命も二十年ちょっとだから、同じサイクルで彼らは生きているのだ。
そんな話をしていたら、山の方から歩いてくる一団がいるではないか。
「ああ、ちょうど来たようです。山のコボルドたちですよ」
師範スケアクロウが教えてくれる。
なんと、山のコボルドたちは、もこもこしているではないか。
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