第237話 ウナギ……? 穴子か……?

 シーサーペントの尾びれをゲットしたぞ!

 尾びれとは言っても、いわゆる尻尾部分であるので、やたらと肉が大量にくっついている。


 シーサーペントは謎の再生力があり、ぶつ切りにしても頭が残っていれば全身が再生してしまうらしい。

 無限機関で食べ続けられるやつじゃん!


「あっ、ナザルさんまた新しい食材を! あー、シーサーペントですね。こいつ、スープにしても食べごたえが結構あっていいんですよねえ。まあ、スープフィッシュを知ってしまうとカッスカスに感じるかも……」


「こいつをな、ソテーする」


「そうこなくっちゃ!!」


 飛び上がって喜ぶ調理担当なのだった。


「それで、これはどうやって料理を?」


「いやあ、俺も料理は担当してるだけで、プロのシェフほどじゃないんですけど」


 調理担当の船員氏は、出刃包丁を取り出す。

 普段はこいつをしっかり研ぎ、鍋を洗ったりして管理するのが彼の役割なんだそうだ。

 なので、包丁はよく切れそうな輝きを放っている。


「ヌルヌルしてますけど、実は細かい鱗があってですね。皮のなかにあって、ジャリジャリするんで食べられません」


「ふむふむ」


「こうやって捌いて……。で、肉にもあるヌメリは熱して取った方が美味いんですが、水が貴重なんでヌメヌメのまま食べますね」


「へえー。じゃあヌメヌメが美味いの?」


「無味ですよ。でも、スープにとろみがついてなんか腹に溜まりますね」


 それは重要だ。

 じゃあヌメリをつけたままでスープにしてもらおう。


「では捌いてもらったので、僕は僕でこの皮を……」


「皮を!? じゃりじゃりしてとても食えたものじゃ……」


「揚げる!」


「あーっ! そ、その手がーっ!!」


 サラダ油を作り出し、熱したそこに細かく切った皮を投入!

 シュワーっと揚がる、シーサーペントの皮。


 ちょっと塩を振ったら……パリパリの煎餅状になったのだった。


「美味い!」


「あっ、凄い軽快な歯ざわり! 香ばしくて美味しい! これは酒が進むなあ……」


「素揚げなのに白い衣がついたみたいになってる。これ、ヌメリが油で変化したんだな……?」


 今この瞬間、この場でしか作れない料理ができてしまったな。

 シーサーペントの皮煎餅だ。


「肉も焼こう……。思ったよりも筋肉質だな。脂の部分と筋肉が分かれてる。これはなんというか……ウナギというよりは穴子……」


 じゅうじゅうと油で焼いたものを、ちょっと食べてみる。

 おっ、食べ応え!

 ウナギのように口の中でとろける味わいではない。


 もっと肉が自己主張してくる。

 むしゃむしゃと食べるタイプの魚。


「あー、油で焼くと美味いですねえ! ちょっとパサッとした肉に油が染み込んで美味い! 脂は脂で、別に食べられる感じですかね?」


「油で炒めたら溶け込んでしまったので……。ハーブと塩を加えてソースにしてみた」


「な、なんと!! どれどれ……!? あっ、美味い……。しみじみ美味い……」


 そうこうしている間にスープも煮えて参りました。

 いただいてみると……。


 ああ、塩味~。

 優しいお味という名の薄味だ。

 で、脂が溶け込んでいるからまあまあこってり。


 肉は……なるほどねえ、スープに出汁を吸われているのかちょっとボソボソしている。

 歯ごたえはそれなりにあるんだが、うーむ。


「もっと美味しくならないもんか。だが、出汁になってるわけだから出し殻になるのは仕方ないよなあ……」


 難しいところだ。

 捨てちゃうのがもったいないし、パサパサでもタンパク源だから食べなきゃだけど。


「このヌメヌメや脂と分離しちまうのがいけないのではないか。……そうだ」


 僕は肉の層と脂の層をまとめて串に刺し、焼いた。

 その後、これをスープに投入してみる。


 これなら……分離しない!

 一度焼くと結合し、同時に楽しめるようになるようだ。


「これだ! ひと手間だが、美味しくなるぞ……」


「あー、なるほどなあ! 焼いてから煮込むのか! 全然気付かなかった……。焼いたあとのシーサーペント、スープにしても美味いですねえ。香ばしい風味になってるし、こりゃあ飽きないなあ」


 ま、めったに穫れるものじゃないんですけどね!

 と笑う調理係氏なのだった。


 その後、船員たちがどやどやと食堂にやってきて、焼きシーサーペントのスープとシーサーペントのソテーは一瞬で食べ尽くされたのだった。

 いやあ素晴らしい食欲!

 リップルたちの分をちょっとだけ残しておいて正解だったな。


 なお、コゲタとマキシフにはシーサーペントの背びれを焼いたやつが大好評だった。

 パリパリサクサクで、しゃぶっていると美味しいらしい。


 犬の人たちの味覚だなあ。


「わしは実はシーサーペントは丸呑みしづらくて苦手なんですよ」


「へえー! ダイフク氏、やっぱりカエルの人だからヘビがダメなのか。ウナギか穴子ではあるけど」


「そう言うものかもしれませんなあ。とにかくヌメヌメが喉に絡んで……ということでわしは、いつもの魚を呑んでおきます」


 やっぱり丸呑みなんだな。


「そうそう、ナザル殿! もうすぐ島が見えてきますぞ! いい風に恵まれましてな。いつもよりも順調に航路を進んでおります」


「なんだって!」


 僕は思わず甲板に飛び出していた。

 時刻は夕方。

 太陽が水平線に沈んでいくところだ。


 まだ、どこにも島影はなかったが……。

 その遥か先に、目指す島があると考えると、ワクワクしてくるじゃないか。


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