第13話 新人たちぞくぞく

「み、皆さん! 変な圧迫面接なんかして有望な新人さんを落としまくったらうちのギルマスに言いつけますからね!」


 いざ面接の日。

 揃った僕たちに向かって、おさげの受付嬢が肩を怒らせて言い放つのだ。

 確かに。


 僕らは冒険者の現実について語って聴かせる必要があるが、それは新人たちの心を折るためではない。

 これからの冒険者界を背負って立つ若者を発掘し、採用するためなのだ!

 あとは好き勝手やってギルマスに怒られないようにするだけである。


「ギルドマスター、元プラチナ級だからね。怒らせない方がいい……」


 そう言う安楽椅子冒険者はこの間めちゃくちゃ怒られて、男どもと一緒にひいひい言いながらギルドの床と天井を修理させられていたな……。

 僕は、ギルマス婦人のドロテアさんの口利きで無事だった。


「ナザルはずるいぞ。いつの間にドロテアを口説いたんだ。若さのパワーで熟女をメロメロにしたんだな」


「人聞きが悪いぞリップル!! それにドロテアさんは見た目がとても若いだろう……」


「初めて見たが、ありゃあとんでもない美貌だ。国を傾けるぞ……。どうしてあれほどの人が誰にも知られずにこの国で生活してたんだ」


 アーガイルさんはこの間、ドロテアさんを初めて見て腰を抜かすほど驚いたらしい。

 口説かないようにするために、自制心を総動員したそうだ。


 結局話がドロテアさんのことになり、僕らがわいわいと喋っているので、受付嬢はため息をついたのだった。


「ダメだこの人たち……。いいですか! お手柔らかにですよ! はい、新人さんどうぞ!!」


 受付嬢の元気な声を受けて、ワイワイと若いパーティが四人ほど入ってきた。

 これはこれは。

 田舎からやって来たばかりという様子の男ばかり四人。


 僕らは横一列で椅子に腰掛けて彼らを迎えた。


「えー」


「あー」


「うーん」


 僕と安楽椅子冒険者とアーガイルさんが一声目が被って、ちょっと気まずくなった。

 お互い、目で牽制し合う。


(面接官的には僕が先輩なんだから譲るのが筋じゃない?)


(私プラチナだよ? 英雄様に譲りなさいよー)


(こちとら盗賊ギルドで実際に部下を持ってる上司経験者なんだ。俺が話すべきだろ?)


 目は口ほどに物を言う。


「あ、あのー! よろしくお願いします! 俺ら、田舎じゃ超強かったんで! 迷い込んできたゴブリンくらいならやっつけました!!」


 気まずい空気の中、勇気あるアピール!

 これは高得点だ。


「オー」


「ゴブリンを?」


「実戦経験と成功体験があるのは強い」


「あれ? お三方とも割とまともな評価を……」


「だが森を出てくるゴブリンは群れを追われた敗北者……!」


「ここは実際にやる気のあるゴブリンと戦ってもらう? 私、魔法でゴブリン作れるけど」


「よし、真の実践というものだな。おいお前たち。プラチナ級冒険者のリップルさんが本物のゴブリンと戦わせてくれるぞ」


「えっえっ、皆さん!?」


 結局リップルが、クリエイトゴブリンで強壮なゴブリンを呼び出し、新人四人は「ギャー」「ヒー」「ウグワー」とか叫びながら、必死になってどうにかそいつを倒したのだった。


 全員、肩で息をしながら、「はあ、はあ、ど、ど、どうすか!!」とか言ってくる。

 なるほど、これは根性が入っているのではないだろうか。


「僕はいいと思う」


「私も合格でいいな」


「おい、盗賊候補がいればギルドに口を利いてやるからな」


 ということで、無事に一組目は合格。

 まあ、基本的に自分から断らない限り合格なのだ。


 受付嬢は胸をなでおろしつつ、「いきなり試験を課すとかアドリブが過ぎません……?」なんて聞いてくる。


 一方で新人たちは合格と聞いて大喜びだ。


「っしゃあ!」「やった!」「俺たちこれからやっていけるな!」「ゴブリンなんざフクロだフクロ!」


 フクロとは、袋叩きということだ。

 これは戦法として極めて正しい。


「みんな。今の戦いを忘れないで欲しい。圧倒的にこちらが有利な状況で、多人数で一体のゴブリンをボコボコにする。強大な単体の敵なら、罠にはめて戦闘力を削いで多人数でボコボコにする。集団戦は避けて、パーティが最大の力を発揮できる状況を作るんだ。数は力だ!」


「うす!!」「やっぱ数に任せるのが一番っすね!」「あの、審査員の兄貴はやっぱパーティを組んでこんな感じでやってるんすか!」「パーティに詳しそうだし、きっと何人も率いてて……」


「いや、僕はソロだ」


「「「「えっ」」」」


「はい次」


 僕は彼らを退去させた。

 アーガイルさんが椅子がひっくり返りそうになるくらい笑っている。


「おまっ、おいおまっ、落とすな、ここでっ……ふひ、ふひはっ、ははははははっあの、新人たちの顔っ」


「アーガイルくん、ゲラだったんだねえ」


 僕と付き合いの長いリップルはニコリともしない。

 僕という男をよく知っているからだ。


 受付嬢は一組目だというのに、ちょっとぐったりしていた。

 運動不足かな?


 そして次。

 男子二名、女子一名の三人組だ。

 やはり田舎から出てきたというが……。


「あっ」


「あっ」


「あー」


 僕とリップルとアーガイルさんが何かを察した声をあげた。


「三人は同郷なの?」


 ここは、リップルが口を開く。


「はい! 俺たち、故郷で仲の良かった三人組で! ずっと夢を語り合ってて……」


「ふーん、三人組……」


「おい、何かを推理したんだろうけどそれ以上はやめろ安楽椅子冒険者」


「後ろの彼と彼女は昨夜」


「リップルさんそれ以上いけない」


「もがもがー!」


 僕とアーガイルさんに束縛されたリップル。

 のたうち回っている。


 僕は彼らに向かって、「辛いことや大変なこともあるだろうが……。いや、思ったよりすぐにあると思うが、頑張って欲しい! 今見えている世界が全てでは無いからね!」と励ました。

 

 彼らが去っていった後、受付嬢も加わって四人でちょっと雑談をする。


「ダンジョンで破局したら終わりでしょ彼ら」


「私が見たところ、あと数日中に二人の仲が彼にバレるね」


「里に帰っちまうんじゃないのか? おい」


「リップルさんがいると今まで気付かなかった部分の解像度が上がりますね……」


 とりあえず、彼ら三人はもうじき解散するだろうということで、それまで命の危険が少ない商業地区にいてもらうことになった。

 ダンジョン関連は下町地区の担当だ。

 晴れて解散し、パーティが再構成されたら下町に来てもらってもいい。というか、居づらくなってどちらかが来るだろう。


「いやあ、面接、楽しいねえ! 人間模様は最高のエンターテイメントだよ!」


 リップル大興奮。

 僕も、この三人がいると面接でこれほどのシナジーが生まれるとは思わなかった。


「また来年もこの三人で面接しましょう」


 そんな話をすると、二人とも強く頷き、受付嬢は物凄く嫌がるのだった。



 

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