第48話 対決④
隣に立つレイが右腕で防御魔法を放ちながら、もう片方の腕で私を抱き寄せチラリとこちらに視線を流す。
「待たせた、ミツキ……あ、アレクも」
「⋯⋯“も”って、なんだ、おまえ、待ちくたびれたぞ」
アレク様も安心したのか、憎まれ口を叩く。
私達の空気が変わった。
イヴェールが攻撃を止めた。
レイも防御を解き、私を背に隠すように前に出る。
「あんたがアレクの馬に託してくれたお蔭で、ここがわかった」
「よかった……」
あの黒馬がヒスイの森の入口で別れたあと、レイに知らせてくれたんだ。
「まあ、あんたにはあとで言いたいことが、たくさんあるけどな。とりあえず、黒馬に付けられたピアスを見たときは、生きた心地がしなかったよ。でも、こうして頑張っていてくれた……ありがとう、ミツキ」
そう言った彼は、私に笑みを見せてくれた。
私は鼻の奥がツンと痛くなって、ただ首を横に振ることぐらいしか出来なかった。彼が駆けつけてくれた安堵感と、彼の言葉があまりに優しくて目の前の景色が涙で滲んでいく。
泣きたいわけじゃないのに、嬉しくて。
レイこそ、ありがとう。
こうして来てくれて……
「北の大魔法使い。俺が相手だ」
レイがイヴェールと対峙する。
イヴェールもまた注意深く観察するように、レイのことをじとりと見ている。
「そう言えば、王太子のもう片腕が居たな。お前か?レイファス・アエラス・ランドルフ。今の防御もランドルフのものだ」
「そうだな、きっと俺のことだな」
「ランドルフの当主、か」
レイが私だけに聞こえるように小声で言うm
「ミツキ、あんたにお願いがある」
「なに?」
「まだ盾は使える?俺がアイツに攻撃する間、どうなるかわからないから、ミツキ自身と一応アレクの身を守って欲しい。出来る?」
「うん、わかった」
「助かる」
私はいつでも防御シールドを出せるように、準備する。
レイの周りの空気が瞬時に変わった。
そして、怒気を含んだ低い声で言い放つ。
「北の大魔法使い。俺はお前を許さない」
「ほう、ランドルフの小僧如きが言ってくれる」
「小僧如きかどうか、その身で試してみるんだな」
右手に緑の光が集められていく。
「俺はいま、お前にめちゃくちゃムカついてるんだ」
「は、ランドルフの力でこの俺を倒せると?笑わせるわ」
「じゃあ、これはどうかなっ」
そう言うと、もう片方の手に青い光が一気に集まっていく。
「な、に……」
イヴェールの表情が驚愕に変わった。
地鳴りがして、地面の草や小石が舞い上がる。
「あんの、バカ……」
と、後ろでアレク様が零すのが聞こえた。
私は自分とアレク様の周りに白銀の盾のシールドを張る。
次の瞬間、ものすごい轟音と閃光とともに、大きな光の塊が一気に北の大魔法使いへと放たれた。
地面の草や土をめくり上げながら、凄まじい勢いで突き進んでいく。
イヴェールは急いで防御のシールドを何層にも張った。
けれど、強い攻撃の光はことごとく防御壁を破壊して突き進み、最後はイヴェール自身も強い白光に飲み込まれた。
辺り一面、真っ白なまばゆい閃光に包まれる。
ようやく光が収まり目が慣れると、光を放ったレイは何でも無かったようにそこに立っていた。
イヴェールはというと、片方の肩から大量の血を流し、腕はダラリと垂れ下がっていた。もう片方の腕にミレイユを抱えている。攻撃を受けたときに、彼女を庇ったのであろう。立っているのも辛そうに感じた。
唇の隙間から一筋の血が流れ落ちる。
「貴様……、何者だ」
「さあ、小僧なんだろう?」
そう言いながらも、また二度目の攻撃の光を手に集める。
「言ったが、俺はいま、めちゃくちゃ機嫌が悪いんだ」
イヴェールは小さく舌打ちをしたかと思うと、苦々しそうに低い声音で言った。
「……ここは、いったん仕切り直す」
そういうと、北の大魔法使いはミレイユを腕に抱いて、フッと姿を消した。
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