第5話 地獄には段階がある1
見た目はゴツゴツした、その土地の土の色をした岩を積み上げた山にぽっかりと穴が開いたような、いかにもな洞窟。ただしその大きさは1m四方の立方体の中に納まり、穴の大きさは最大内径50㎝。最少内径10㎝。
1つまみの土があればどこにでも発生する謎多きその洞窟は、内部に大きさ相応のお宝がある。もちろんそれを邪魔する存在もいる訳だが、それがゲームやマンガで親しまれたダンジョンというものに近しいとして「トイ・ダンジョン」と呼称された。
推定最初の攻略者が出てから7年。大勢の人間が「トイ・ダンジョン」に挑み、その大きさから超小型ドローンが非常に売れて、お宝の中に手乗りサイズの幻想生物、トイプチが孵る卵が見つかってドローンにとって代わりと、色々な変遷があった。
「あなた、恥ずかしくないの?」
そして俺は頑張って1人暮らしを勝ち取り高校デビューしようとして失敗。バイト先にも恵まれずに半年で止めて、実に3ヵ所からカツアゲされるという生活を1年半ほど続けている高校2年生だ。
今日は木曜日だったから、夏毟、井内、大山の3人こと学生カツアゲ組は来ない。ただ昨日トイプチの卵を手に入れたから帰り道でストーカーに差し出さなければならない、とちょっと憂鬱に帰り支度をしていたんだが。
は? と声に出すことなく、眉間にしわを寄せるのも何とか耐えて、声の方を見る。そこにいて恐らく俺に声をかけてきたのは、このクラスの上位グループの女子だった。
「……心当たりがないとは言わないけど、それが何?」
「あっきれた。反撃もしないの? 情けない」
めんっっっどくせぇぇ~~~。というのが本音だったし、だったら絡んでくんなと思うが、ここで無視して帰るとウザ絡みしてくる人数が増える。しかもこの女子、ツリ目を更にツリ上げて「怒ってます」アピールをしている彼女は、割と人気者だった筈だ。
しかも割と「トイ・ダンジョン」の攻略も積極的に参加してて、頭の上に載っているトイプチは当人と同じく気位が高そうな鳥だし。青色で滅茶苦茶尾羽が長い……孔雀か? 確か羽を広げたら範囲デバフかけられるから、かなり有能だった筈。支援職として。
本当に何で絡んできたんだよ……と頭が痛くなってくるが、少し足を動かしただけでそのツリ目からの視線が強くなる。というか睨んでくる。なんなんだよもう。
「で、何?」
「何じゃないわよ。あなたが、恥ずかしくないのかって聞いてるの。そんなに情けないザマなら恥ずかしくもないのかも知れないけど」
うっっっぜぇぇ~~~。とさっきとほぼ同じぐらいの感想が出てくるが。それを表に出す訳にはいかない。しかも自分の目的を何も言ってない。何なの? 恥ずかしくないのかって、何が?
「……笑いたきゃ笑えば? ただこうして話しかけてきたって事が、あんたのファンが俺に攻撃するように嗾けてる事だって分かってればだけど」
「はぁ?」
本気で分かってないのか、俺が答えずに誤魔化したからか、ツリ目女子は不機嫌な声を出したが、不機嫌なのは俺の方なんだよ。
ようやくストーカーを叩けそうな材料が出てきたんだ。もうすぐ全部片づけられるんだから、問題を増やさないで欲しい。
「ふん! そう、自分から攻撃して欲しい趣味だなんて、変わってる事!」
「誰がそんな事を言った!?」
「ひゃっ、な、なによ、突然大声出さないでよ」
「俺はノーマルだ! 誤解を招くようなことを言わないで貰おうか!」
「は、はぁ? 何言ってんの……?」
……。
このツリ目女子、実は天然か?
まぁいいか、流石にこいつのファンらしい奴らも俺に同情するような目になったし。一応セーフとしとこう。しておきたい。
「俺、1人暮らしだから家賃を稼がないといけないんだよ。「トイ・ダンジョン」に挑まないといけないの。部屋追い出されるの。だから帰りたいんだが帰っていいか? いいよな?」
「は、え、ちょ、ま、待ちなさいよ」
「じゃあ早く要件を言って欲しいんだが? 何だよ恥ずかしくないのかって。何がだよ分かんねぇよ。つーか俺がカツアゲされてる事知ってるなら通報が先だろ」
「は!? あんたカツアゲされてんの!?」
「知らないなら何で話しかけてきたんだよ……」
話になんねぇってこういう事かぁ……。
なぁそこでこっちの様子を窺ってる奴ら。推定このツリ目女子のファン。
俺からはこれ以上近寄らないって確約するしなんなら誓約書書くから、分かりやすく今の状況とこのツリ目女子の目的を説明してくんねぇ?
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