第2話 新生活は地獄で2

 俺……津和つわ克英かつひでが1人暮らしをしているのは、ちょっと古いマンションだ。アパートって言った方がイメージは近いかもしれない。2階建て8部屋、1階に全ての部屋の扉があって、実際の部屋は上下に分かれている構造をしている。

 どうやら一時こういう形の建て方が流行ったらしいが、扉を間違える事でのご近所トラブルが続発、管理人の不手際で鍵が共通だったりしたら、隣人空き巣の巣窟になって盗み合いなんて事になった事例があるらしく、今はほとんど見ない。

 なお何故そんな「ない」形のマンションに住んでるかっていうと、家賃が安くて学校に近いからだ。自転車を壊されたから、今は徒歩だが。


「津和克英」


 ちなみにその途中には何か所か「トイ・ダンジョン公園」というものがある。確かあのビル倒壊未遂事件から2年ぐらい経った時だったか。「トイ・ダンジョン」の発生を一定範囲で抑制する道具と、誘発する道具。これらが見つかって、「トイ・ダンジョン」の発生場所をある程度操作する事が出来るようになった。

 で、「トイ・ダンジョン公園」っていうのは、誘発する道具が設置された場所の事。ここで発生する「トイ・ダンジョン」は、専用の資格があれば攻略していい事になっていて……その資格が15歳以上って聞いた時は大人って酷いと思ったものだ。

 もちろん高校入試のついでに資格を取りに行ったし、ちゃんと資格証も持ち歩いている。ただ、その時にトラブルというか、役得だと思ったのが飛んだ地雷だったというか……。


「なんでしょう、藻久さん」

「監視だ。貴様にトイプチは過ぎた贅沢であり危険だ。手に入れたのなら速やかに提出するように」


 ……流石に分からないだろう。そうやって資格を取りに行った時の説明役が、たまたまアイドルのように扱われている子で。資格を取る事に前のめりだった事がこのストーカーにはアイドルに対する前のめりに見えて、そこから本人の宣言通りに「監視」されるなんて。

 ちなみに提出というか、これもカツアゲと恐喝だ。相手はいい年をした大人だから、警察に相談しても良さそうだが……このストーカーこと藻久周吾、一応名の通った「トイ・ダンジョン」攻略組とかで、やはり外面が良く信用をしっかり稼いでいる。

 一回警察の見回りに遭遇して助けを求めようかと思ったのだが、いきなり爽やかな笑顔になったかと思えば立て板に水で言い訳を並べ、何なら俺が要注意人物のような印象を植え付けて追い払っていたからな。


「…………。昨日の探索では、トイプチの卵は出ませんでしたよ」


 あんた「トイ・ダンジョン公園」の監視カメラハックして、何なら探索の映像データ情報にもアクセスして、探索模様なんて全部見れるだろ。わざわざ聞かなくてもいいのに趣味の悪い。

 そう言いたいのを飲み込んで、素直にトイプチの卵、手乗りサイズの幻想生物が孵る卵は持っていないし家にもない、と告げる。ふん、と鼻息を吐いて、ストーカーが言う事には。


「素直な申告であればいいんだがな。まぁいい。手に入れたら、かならず保冷剤等で孵らない様に保管して、提出する事だ」


 どう考えてもこちらの探索と取得物を知っているのに、仕方ないから言葉だけは信用してやるとばかりの押しつけがましいセリフだった。まぁいつもの事だが。

 そしてこちらももう用は無いとばかりにさっさと立ち去るストーカー。いい加減原因となったアイドルにも殺意が向き始めている。何故なら以前こっそり卵に印をつけておいたら、その印付きの卵を例のアイドルが持っていたからだ。

 動画でその卵を見せたアイドルは「ファンの人がくれました!」と嬉しそうにしていたから、どうやら俺から巻き上げたトイプチの卵はアイドルへの貢物になっているらしい。


「……トイプチの卵は、トイプチを持ってない奴が探索したら出やすいからな」


 あくまで俺の体感、ではなく、「トイ・ダンジョン」に関する統計として発表されている情報だ。だからそこまで間違っていないんだろう。

 逆に言えば、トイプチを持っている奴が追加の卵を手に入れるのはなかなか難しい。だからトイプチの数が幸運のステータスと言われる事もある。

 ……巻き上げられてるだけなんだよなぁ。いい大人が、高校2年の子供から。

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