トイ・ダンジョン
竜野マナ
第1話 トイ・ダンジョンの黎明
それが世界を揺るがす程の騒ぎになり、危険なものだと見なされたのは、危うく巨大ビルを1つ、倒壊させそうになったからだ。
ゴツゴツとしたその土地の土色の岩が盛り上がり、その真ん中にぽっかりと穴が開いている。そんないかにもな洞窟といったものが出現し始めたのは、例の騒ぎが起こる3ヵ月は前の事だ。
どうやら土がある場所にある日突然出現するらしいそれは、最初は空き地や農道といった部分にところどころ顔を出すだけだった。だが何か条件を満たしたのか、誰も気にしなかったからか、徐々に人の多い場所にも出てくるようになった。
土であればなんでもいいのか、街中で整えられた公園の植木から始まり。街路樹の根元へ。その次は観葉植物の鉢。しまいにはどこからか持ち込まれた土埃でも良かったのか、建物の中まで。そしてあの騒ぎになる訳だ。
後程調べられたところによると、どうやらその倒壊しそうになった巨大ビルというのは地下駐車場で、駐車枠の引き直し等を含めた大規模清掃をしていたらしい。そこで集められた土汚れが発生源ではないかと言われている。
そこまでやって何故誰もその、いかにもな洞窟の中に入らなかったのかと言えば、簡単な事。
何故ならその「洞窟」は、最大直径50㎝。最少内径10㎝。
到底中を探索するなどできない、極小サイズだったからだ。
ただ、どこにでも変わり者はいると言えばいいのか。たまたま親と同じ趣味を持っていて、困窮している訳でもなく忙しすぎる訳でもない親に構ってもらえ、結果順当に「年の割には」それなりの技術を持ったクソガキがいた。
そのクソガキは謎の洞窟に興味を持ち、自分が使える手札、おもちゃのようなドローンにカメラとマジックアームを取り付けて、洞窟の中に突入させてみた。
子供というのは興味のある事だけは上手くなる。それがゲームのようなものならなおさら。そして何度目かのチャレンジで洞窟の一番奥に辿り着き、たっぷりの映像とある収穫を手に入れたそのクソガキは、親に相談する前に独断で、その映像を動画サイトに放り込んだ。
タイトルは、話題の洞窟探索してやった。
クソガキらしいネーミングセンスの動画は、子供らしく碌に編集されていないほとんど垂れ流し状態のものだった。だが、だからこそというべきか。碌に編集されていないからこそ、フェイク動画ではないという事が確定するのも早く。
まさか大人たちも思ってなかっただろう。あの出現条件も出現場所も良く分からなかった、ひたすらに邪魔な洞窟のようなものの中に、大きさ相応の宝石が転がっていたなんて。
その頃クソガキは両親に宝石と洞窟の動画を見せていたが、その両親は宝石をガラス玉だと判断し、勝手に動画を上げた事を叱っていた。そしてその再生回数を一度も確認せずに、動画を削除してしまった。
だがインターネットの世界には「消せば増える」という謎の法則がある。ただ幸いだったのは、その動画が完全に洞窟の中だけを映したもので、外の情報が何も無い事だった。すなわち、動画を上げたクソガキの正体は全く分からない。
それに、大人たちはそれどころではなかった。何しろ大きさ相応と言っても、あの洞窟は最少内径10㎝。最低でも直径5㎝の大きさのダイヤモンドやルビーにサファイアといった宝石が見つかるなら、それはもう、血眼になって探すだろう。
その洞窟が「トイ・ダンジョン」と称されるように時間はかからず、あっという間に超小型ドローンの開発と市場規模の拡大は進んだ。
……まぁその超小型ドローンも、「トイ・ダンジョン」から謎の卵が見つかり、そこからファンタジーな超小型生物が生まれて探索に出せる、と分かってからは、あまり見かけなくなったんだが。
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