第33話
「……それじゃぁ……そろそろ、帰るね」
そう言って、トールスは席を立つ。
「そうか、悪かったね。何も用意できなくて」
「いっ、いいよ……見舞いに来たんだし……」
「そうだな、むしろそっちが持ってくるのが普通か」
「……そうだね……何も持って来て無いけど……」
「むしろ、その方が気を遣わなくて助かるよ」
「……なんだか、前よりも丸くなったね」
その言葉を聞き、ウォレンからも似たような事を言われたのを思い出した。
「僕ってそんなに……いや、何でもない」
思い当たる節があったので言葉にするのを止めた。
、
「……。見舞いの品代わりに……一つだけ忠告してもいい?」
「何だよ急に?」
「……ベゼル様とは……。あまり関わらない方が良いよ」
振り返り、表情を見せぬまま、トールスは言った。
「どういう事だ?それ?」
「……多くは語れないけど。……憶えてて貰えればそれで良い」
「あっ、ああ……?」
いまいち納得しきれていないが、取敢えず頷いておいた。
「じゃあ……」
そう言ってトールスは僕の家を後にした。
最後の不可解な忠告のせいで僕の心に一抹の不安が生まれた。
あのエリキス、本当に飲んで大丈夫だったのか?その後、倒れた事を考えれば、効いていたのかも不明だし……。
◇ ◇ ◇
さて、今日は王女が帰還する日だ。
おそらく帰ってきたらすぐに連絡があるだろうと思っていたので、すぐに連絡魔導具を取れるよう準備して待っていた。
…………
…………
遅い。
もう陽が暮れる。
予定では、今日の午前には帰還予定の筈だったが。
何かあったのか?
それとも、僕に連絡する必要は無いと判断されたのか?
考えを巡らせる度、色々と不安になり苛立ちすら感じる。
何だろう、子供の帰りを持つ親の心境とはこういうものなのか?
などと考えながら、部屋の中を右往左往していると、魔導具が鳴動する。
飛びつくように魔導具を手に取る。
待ち構えて居たような気持ちを沈める為、一息吐いて冷静に応答する。
「……はい、セルムです」
気持ちを抑えて、ダルそうに応えた。
『うむ。返ったぞ。今すぐ顔を出せ』
開口一番、罵声でも浴びせられるかと思っていたのだが、落ち着いた雰囲気だ。
逆に怖い。
「今からですか?明日でも良いのでは?」
『……今すぐじゃ』
王女らしくない含みのある返答。
「分かりました。……すぐに向かいます」
僕の返答の後、通信は切れた。
多少の覚悟をしながら、王城へ向かう事にした。
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