第9話
「パルムが未知の敵と戦う経緯ってどうします?」
「そんなもの、襲ってくる者がおるのじゃ倒すのは当然であろう?」
僕はいつも通り、王女の机を借りて執筆活動を行っている。
王女は別の椅子に腰掛け、ミレイが用意した茶を飲み、娯楽書を読んでいる。
「それにしても、ただ世界を知る為に旅をしているだけの少年がそんな国家規模の敵と対峙する理由は無いでしょう?」
「そこを考えるのがお主の仕事であろう?」
「あぁ……そうですか」
相変わらずの無茶振り。こんなので原作とか言われるんだから最悪だ。
にしても、いち個人がそんな国家規模の相手に戦う経緯など思いつきもしない。
そこを作るのが冒険小説だと言われればそれまでなのだが、最初から言っている通り僕にそんな才能は無い。
人族の物語はその辺を一応は読める形にしている事に感服する。
大人になってから色々と考えながら読むと、突っ込みどころは多々あるのだが、何となく読んでいる分にはさほど気にする事無く読めてしまう。
更には、高揚すら覚える。
その程度の造り込みで良いと理解は出来ても、同じ事をしようとすると何故か違和感を覚えてしまう。
それだけ純粋さを失ってしまったという事か……。
ついでだが、僕は戦闘という行為をあまり好まない。
◇ ◇ ◇
数日後。
瞳を爛々と輝かせた王女は僕等に言った。
「西の領地に勇者を名乗る者が現れたと聞いたぞ!」
…………
「はあ……」
「そうですか」
気の無い相槌を打つ僕と、いつも通り無関心のミレイ。
「なんじゃ、その反応の薄さは!勇者じゃぞ!?」
「だからって僕等がどうこうする事ではないですよ。軍の方で何とかするでしょう」
「もっと興味を持たんか!もしかしたら我らを脅かす存在かも知れんぞ!?」
「それこそ、僕等の出る場面じゃありませんよ」
「小説のネタになるかも知れんぞ?」
「後で話だけ聞ければ十分です。それに、勇者を名乗る者なんて年中湧いて出てるでしょう?別段珍しくも無い。大概は何の話題にすらならないんですから」
「んんん……」
不服そうに膨れっ面をして、僕を睨む王女。
王女が何を考えているかは容易に想像が出来た。
面倒だが、ご機嫌取りも兼ねて聞くだけ聞いておいた方が良いか?
「まったく……どうしたいんですか?アルレ様は?」
「勇者を見てみたい!」
だと思った。僕は大きく溜息を吐いた。
僕は勇者が嫌いだ。
魔人にとっては賊でしかない存在である以上は当然なのだが、それ以外にも、個人的に嫌な思い出がある。
「流石にそれは難しいでしょう。今回発生した勇者がどの程度の存在かは知りませんが、例え脆弱であったとしても、アルレ様が賊に近づくなんてことを王は許可しない筈です」
「万全な警護を用意して貰えば良い。よし、父様に直談判しに行く」
「本気で言ってるんですか?」
「当たり前じゃ」
「……ミレイからも何か言ってよ」
「私はアルレ様の意向に従うのみです」
僕は呆れてミレイに助けを求めたが、冷たく返された。
「では行くぞ!お主等も着いて来い!」
王女はやる気満々で立ち上がり、部屋のドアを開けた。
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