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 君は草探しを諦め、巨竜の屍を全部持って帰る事にした。

「マジかよ!?」

 スターアローが何を言おうと君を止める事はできない。


 それは辛く苦しい日々だった。

 70トンに達する巨体を切り分け、ロープをかけ、盗まれないよう見張りを、保存のために冷凍の魔術が使える魔法使いを探して雇用する。巨竜の解体した部位を天馬ペガサスに積めるだけ乗せ、都市で借りた倉庫と往復する毎日。


「これ冒険者の仕事か?」

 スターアローが何を言おうと君を止める事はできない。

 命華草ライフグラスは結局どこかの勇者が手にしたらしいが、もはや知った事ではない。


 巨竜の皮全てを都市の職人に売り捌いた時、君の手元には経費をさっ引いても山のような金貨が残った。

 君は竜皮成金として多くの人に賞賛される身となった。


「それ褒められてるのか?」

 スターアローが何を言おうと君の名声は確固としたものだ。


 稼いだ金を元手に、ツテのできた革細工師や鎧職人を抱えて雇い、鎧工房と防具店「ブロント屋」を経営する事にした君。

 卸業者を通さず直営工房からの販売をする事で安定した利益を出す君は、今や立派な経営者だ。


「俺もう要らなくねぇか?」

 スターアローが何を言おうと鎧はちゃんと売れている。


 今や君は成金椅子に座ってワイングラスをちゃぷちゃぷしながら毎晩ステーキを食う身分。

 君は人生に勝ったのだ。


【fin】

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