2 夏

 夏


 私がすーくんと出会ったのは、私が病院に入院することが決まってから、数日後のことだった。

 慣れない病院の入院生活に慣れるために、私は看護婦さんから教えてもらった病院の中を自分が歩いていってもいい場所まで、なんとなく歩いて、散歩したりして、まるで病院の地図を頭の中に作るように、あるいは描くようにして、退屈な入院生活の時間を潰したりしていた。

(今、考えると、本当にもったいないことをしたと思う。でも、このときの私はまだ、『限りある命の時間の本当の価値』に気がついてはいなかったのだ。でも、そのおかげですーくんと出会えたのだから、……いろいろと難しい問題だと思った)

 そんなことをしていると、ある日、一人の私と同い年くらいの小柄な男の子の姿が私の目に入った。

 その男の子は私と同じ真っ白なパジャマのような入院服を着ていた。(だから、この男の子もきっとこの病院の入院患者さんだろうと思った)

「あの、こんにちは」

 私は自動販売機の横にある長椅子に座っているその男の子になるべく明るい雰囲気で声をかけた。(病院にはあんまり同い年の人がいなかったから、私はその男の子と友達になりたいと思ったのだった)

 でも、すーくんの(あとでわかるけど、その人はすーくんだった)私に対する最初の態度は無視だった。

 すーくんはまるで私が幽霊か、あるいは透明人間にでもなったみたいに、そこの空間に誰も人間なんていない、というような態度をとって、長椅子から立ち上がると、そのまま通路を(ぺたぺたとスリッパの音をたてながら)歩いて、どこかにいってしまったのだった。

 私はそんなすーくんの後ろ姿を見て「……なんなの、あいつ」と嫌味を言った。(そのときのすーくんのほうがよっぽど幽霊みたいだった)

 それから私は自動販売機でお茶を買って、飲んで、それからすぐに自分の病室に戻った。(自分の病室に帰るころには、私はもうすーくんのことを忘れていた。一生友達になってやるもんか、と思っていた)

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