第8話 いずれ歌にされる戦い
アイルの村を襲った盗賊団は、今は村の近くにある洞窟を拠点としている。
そして今あたしとクラースさんは物陰に隠れながら、その洞窟の入り口の様子をうかがっているところ。
現在同口の入り口には、見張りらしき盗賊が一人。
「これ、クラースさんだったらどう攻めるのが正解だと思いますか?」
「俺ならまず毒を塗った飛び道具であの見張りを仕留める。そのあとは洞窟の中に睡眠薬を充満させて、それでおしまいだ」
なんだか結構簡単そう。
「そんな方法で倒せるんだったら、ミニアットの冒険者の人たちでもなんとかなりそうだと思うんだけど…」
「それは無理だな。俺は錬金術師だから薬を自前で用意できるが、冒険者があの洞窟内を満たせるだけの睡眠薬を買うとなると、クエストの報酬額を超える可能性が高い」
つまり盗賊は倒せても赤字になるだけなので、誰もそんなことはやらない…と。
「でもクラースさんは必要なだけの睡眠薬を持っているんですよね」
「当然だ。あらゆる状況に備えて、俺の錬金術で作れる薬は一通り持ってきているからな」
やった、これなら楽に終わっちゃう。
「じゃあクラースさん、あたし達はその作戦で…」
「それはだめだ」
「何で?」
「勇者の冒険というものは、後に吟遊詩人が歌にして、後世まで歌い継がれるものだ。それが薬で眠らせて終わり…ではまずいだろう」
確かに全然かっこつかない。
そのまま歌にされたら、ものすごくせこい勇者みたいになっちゃう。
「でもクラースさん、それだったらこの前のゴブリンだって、適当に剣振ってただけで全然かっこつかない…」
「あれは同中のザコ魔物を蹴散らしただけで、どこの記録にも残らないから別にいいんだ。だが今回は違う。冒険者ギルドの記録にも、アイルの村人の記憶にも残る戦い。つまり勇者シズクの冒険譚において、最初の戦いとなる重要なイベント。雑に終わらせるわけにはいかないだろう」
あたしは別に冒険譚のために勇者やってるわけじゃないんだけど、でも変な歌を歌い継がれるのも嫌だからなぁ……。
「ちなみにあたし、どう戦うのが正解だと思いますか?」
「正面から突っ込む」
一番嫌な答えを笑顔ではっきり答えないで、クラースさん。
「あぁ……」
「そう悲観する必要はないぞ、シズク。この最上級の鑑定スキルと同等の効果を持つ片眼鏡の魔導具、なんでも鑑定眼で見た限り…」
また微妙にまずそうな名前。
「あの見張りが持っている武器はごく普通の剣一本のみで、洞窟内にもこれといって罠は仕掛けられていない模様。これならば俺の武器を使えば余裕で制圧できる」
「ほんとですか?」
「本当だとも。なのでまずはこの剣を使うがいい」
クラースさんがそう言いながら鞄から取り出したその剣は、ゴブリンのときの見た目普通過ぎる剣とは違い、いかにも勇者や英雄が使いそうな、伝説のすごい剣っぽい見た目のものだった。
「クラースさん、その剣は…」
「これは、なんかいい感じでかっこよく戦える魔剣…だ」
名前長っ。
やっとまずい名前じゃなさそうなのが出てきたけど、これはこれでめちゃくちゃ雑に名付けただけっぽいし……。
「それでその剣、見た目通りにちゃんと強いんですか?」
「強いかどうかはともかく、いい感じでかっこよく戦えるぞ」
強いかどうかはともかくって、一番重要な所はぐらかさないで!
「さあシズク、その剣を持ってあの見張りに突撃だ!」
「ちょ…ちょっとクラースさん、背中押さないで…」
「ん? 何だてめえら!」
ああっ、さっそく見張りの盗賊に見つかっちゃった。
「またギルドの冒険者どもか? てめえらごときじゃおれたちにはかなわねえってことを、いい加減思い知りなっ!」
「あわわっ!」
盗賊の人が剣を構えて向かってくる!
「剣を構えろ、シズク!」
「え…えと…」
「だあっ!」
「きゃあっ!」
……あれ?
盗賊の人の剣が、まるであたしの剣に吸い寄せられるみたいに動いてきたような…。
「なっ…何だこれ? 剣が離れねえっ!」
やっぱり、盗賊の人の剣とあたしの剣が磁石みたいにくっついてる。
「クラースさん、これどうなってるんですか?」
「この剣は相手の武器との間に引力を発生させ、いい感じに相手の攻撃を受け止めることが出来る」
ああ、そういう剣なのね。
「そして、その状態から剣を前に押せば…」
「こう…ですか? えいっ」
「うっ…うわぁぁぁぁぁっ!」
い…いきなり盗賊の人が後ろに飛んでっちゃった?
「そのようにいい感じに相手を吹き飛ばすことが出来る。これが、なんかいい感じでかっこよく戦える魔剣の能力だ」
機能としてはものすごいことやってると思うんだけど、強さ的にはどうなんだろう?この剣。
完全に見栄え重視って感じの武器?
まあ今の敵は、そのまま壁にぶつかって気絶してくれたみたいだからいいけど、この奥にいる他の盗賊も、こんな剣だけでなんとかなるのかな?
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