異界の勇者と魔剣の錬金術師 ~錬金術師の作る武器がチートすぎて勇者の存在意義がいまいちよくわからない~
奇怪GX
第1話 召喚された勇者は武器を求める
ここは地球とは異なる剣と魔法のファンタジー世界にある、ルブラント王国という国の王都。
あたし雪村雫は、このルブラント王国の宮廷魔術師の人たちに、勇者召喚の儀式というので召喚されちゃいました。
要するに最近のアニメとかでよくある異世界転移ってわけね。
正直召喚された直後は、人の都合無視して勝手に呼び出していきなり魔王を倒しに行けだなんてひどい…とも思ったけど、今はちょっとだけ、そんなに悪くない状況なのかも?…とも思い始めてる。
なぜなら異世界転移もののお約束通りに、あたしには勇者専用のすごい能力が宿っているみたいだし、それに旅にかかる費用も全て国が負担してくれるとのこと。
つまり勇者のチート能力で楽々魔物とかを退治しつつ、国のお金でこの異世界を色々旅してまわれるのなら、元の世界でごく普通のありきたりな女子高生として過ごすよりも、こっちで勇者やってるほうが全然いいのでは?…と思っちゃったりしてる。
ちなみにあたしが勇者になって得た能力は、魔剣の支配者というユニークスキル。
なんでも特殊な力を持った武器の能力を最大限に引き出せるスキルだとかなんだとか。
そんなわけで今あたしはとある人のもとへと向かっている。
魔力を動力源として力を発揮するアイテム…魔導具の中でも、武器系の魔導具の開発を得意としている人物。
魔剣の錬金術師、クラース…という人のもとへ。
……ええっと、とりあえずお城で渡された地図の場所には到着…てことでいいのかな?
ここが魔剣の錬金術師の工房ってことであってるよね。
それじゃあ……
「あの、おじゃましまーす」
……誰も見当たらない。
お店みたいな感じでいろんな武器が並んでたから、入っても大丈夫かな…と思ったんだけど、これ勝手に入ったらまずかったのかな?
「あの、すみませーん!」
「……ふっ、ふははははははっ!」
奥のほうから笑い声? 行ってみよう。
「ようやく完成した。この刀身、実にいい輝きだ。さっそく何か斬って…」
「あのー…」
「試してみたいものだな」
「きゃあぁぁっ!」
あわっ、わわわわわっ! く…首筋に刃がぁっ!
「ん?いつの間に人が…。いきなりこんな所に現れて危ないじゃないか」
「それはこっちセリフですっ!」
まさかやって来てそうそう剣を振り回されるだなんて思ってもみなかった。
「ほんとに首が飛ぶかと思いましたよぉ」
「大丈夫だ、それはない。この剣で人を斬ることはできないからな」
「そう…なんですか?」
「ああ。この剣の刃は生物の体をすり抜ける。そして繊維のみをずたずたに切り裂く」
……え?
「つまりこれは、服のみを切り裂く魔剣だ!」
「何でそんなエッチなアイテム作ってるんですかぁっ!」
「先日、服のみを溶かすスライムを目撃してな。スライムごときに出来て、この俺の魔導具に出来ないことなどあるはずない…と、そう思いいたったまでだ」
王様や宮廷魔術師さんたちから、クラースさんはすごい魔導具を作る人だと聞いてたんだけど、ものすごく心配になってきた。
「ところで君、その服…」
「な…ななっ、何ですか? まさかその剣であたしの服を切り裂く…」
「まさか、そんな貴重で珍しい服を斬るわけないだろ」
これ、ただの学校の制服なんだけど。
まあこっちの世界の人にとっては、珍しい服ってことで間違ってはいないか。
「その珍しい服に黒髪と黒い瞳、君が異世界の勇者シズクだな」
「あたしのこと、知ってたんですか?」
「ああ。少し前に王家からの使いが来てな、勇者用の武器を作れと」
でもそれなら話は早いかな。
「あの、クラースさん…」
「とりあえずこの剣はどうだ?」
何でこの人いきなりエッチなアイテム差し出してきてるの?
「クラースさん、あたしにこれをどうしろと? こんな犯罪にしか使いようのない剣、どう使うんですか」
「犯罪にしか使いようがないとは心外だな。どんな剣だろうと一般人を斬れば犯罪、悪党を斬れば無罪。これも同じだ」
まあ、言ってることは間違いないと思うけど、なんだかなー。
「ええっと、それじゃあこれを悪党に使うとして、殺さずに戦意喪失させる…みたいな感じですか?」
「うむ、そういう使い方はできるな。女盗賊とか悪い魔女とかの服を切り裂いて」
「何で女性限定?」
「男の服を切り裂いても醜い絵面になるだけだろう。もちろん君が斬りたいというのであれば止めはしないが」
「あたしだってそんなの斬りたくないですよ!」
この人絶対変な人だ。
錬金術師としての腕はすごいみたいだけど、ちゃんとまともな武器作ってくれるのかな?
「あのですね、クラースさん、あたしが欲しいのは魔王を倒すための武器であって…」
「魔王か…。あくまで俺の勝手なイメージだが、魔王は何となく革製品とかをまとっていそうだから、繊維ではなく革を切り裂く剣にするべきだったか」
「何で魔王を脱がせる方向で考えてるんですかっ! そもそも魔王って人型なの? 恥じらいとかあるの?」
「知らん」
じゃあそんな変な方向に話しを進めないで。
「普通に魔王に大ダメージを与えられる武器とか、そういうのは作れないんですか?」
「特定の敵を倒すことに特化した武器ならいくつも作ってきた」
「それなら…」
「だが俺は魔王がどんな存在なのか知らんから、知らないものを倒すための武器など作りようがない」
魔王を直接見た人なんてまだ誰もいないらしいし、それじゃあ仕方ないか。
とりあえず今は、何かに特化した武器とかよりも、普通に強くて扱いやすい剣…みたいなのを作ってもらったほうがいいかな。
「あの、クラースさん…」
「よし、それじゃあ俺が旅に同行するとしよう」
「何でそういう話に?」
「俺がこの目で魔王を見れば、対魔王用の武器も作れる。そして勇者の装備は全て国が代金を支払ってくれるそうだから、旅に同行すれば国の金で好きなだけ魔導具が作り放題だ。ふっ…ふっふっふっふっふっ……」
この人、それが目的?
ものすごく悪い顔になってるんだけど、いったい国のお金をどれだけ使い込む気なの?
「それじゃあ勇者シズク、さっそく旅の準備をしようじゃないか」
「は…はあ……」
あたしの旅の仲間の一人目が、こんな人で大丈夫なのかな?
ものすごく心配……。
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