26

今日の経営者の恰好は、いくぶん地味だ。でもちょっと派手なマニキュアをしている。

え!?待てよ。左手の薬指に指輪をはめている。

今までなぜ気が付かなかったんだ。


なんか急に意気消沈して、なんて自分はバカなんだと思った。

しぼんだ風船みたいになった。

「今日はこっちに居るのね。」

「はい、気分転換です。」声にはりがでない。


でも、なぜ今まで気が付かなかったんだろう。

おかしいなあ。最初にそこは確認してたはずだ。

そうだ。前回だってしてなかったはずだ。

「指輪なんかしてましたっけ?」

「ああ、これね。気分転換。」と言って指輪をいじって笑っている。

「気分転換?」

「そう。時々嵌めるの。結婚はしてないけど。」


なんだと。急いで風船をふくらます。


「そんな気軽に嵌めるもんなんですか?」

「あんまり気にしてないかも。ここにするの好きだから。」

「彼氏がびっくりするんじゃないですか?」

少し間があく。

「さぐりを入れているの?」と俺を優しくにらむ。

ぎくっ。

なんか見透かされている気分だ。

「まあね。」また声に張りが出ない。


「彼氏は必要ないかなあ。」


この女性は、俺より二枚も三枚も上手(うわて)な気がした。

また風船がしぼんでいく。

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