第5話 姉の日常は非日常
ねこまんまを食べた後、秘書が差し迫って必要な事柄の説明とかしてくれた。
もうさ。
知らん。良きに計らえ。
って言いたいよね。
ほぼ記憶にない人の代打って何なん。
見たことがない桁の通帳とかなぞの証書とか。
ほとんどが電信のなんだけど、本物なの?
思考回路はショート寸前ってやつよ。
母親が残してくれた通帳の中身を頼りにしてた俺にはちんぷんかんぷんよ。
何か世界が違うって。
いや、猫又とお稲荷とかもうとんでもない違い方なんだけども。
ほーふーへーと聞いて秘書が確認したってことになって進めてもらう。
元々、俺の金じゃねぇし、ぶっちゃけ知らん。
この大豪邸を万が一、相続したとしてどうやって維持するんだよ。相続税とか贈与税でマイナスにならん?
桁違いの世界に放り込まれても困る。
「・・・」
姉さん、セイレーンがいるかどうかは知らんけど、マジ戻って来て。
俺帰りたい。
木造アパートがとんでもなく愛おしいから。
小市民?
良くフィクションの世界で財産の奪い合いとかやってるけど、こんなん直面したら逃げたいしかなくない?
そりゃ宝くじ当たったとかは夢見るよ。
んだけど、固定資産とかめんどくさいのいらん。
一通り必要な書類とか確認させられた後、《蘭さまヒストリー》なるものを延々と見せられた。
諸外国の原住民らしき人々と宴会してたり、遺跡を巡ってるシーン、謎の像とピース。
これをブログやインスタにあげるわけでもなく、ただ趣味で巡ってるらしい。
費用は全部が投資で得たものなんだとか。
正直、この旅を姉さんとドSで動画回しても十分稼げそうな感じよ。
途中で姉と戯れてるのはニホンオオカミですって説明されて、
「絶滅してるよね?」って言ったら、
「あなたは人間が日本の山や谷の隅々まで調査したと思いますか?」
とかなんとか。めっちゃキレられた。
いないって言う証明は誰にもできないって。
姉は、何かを見つけても表沙汰にする気はないんだそうだ。自己満足の世界。
世界中の研究者が欲してる情報とか興味なくて、ただ自分が会ってみたいだけ。
ある意味でトレジャーハンターの親父とは真逆だな。
無欲の勝利って感じ。
親父は何も得てない、姉は望みの希少生物に出会えてる。
カッパとかは初期の頃に探したそうだよ。
出会えたかどうかは教えてくれなかった。
クリックし続けてる中で、若い頃の姉が人面魚をバックにピースしてた。
完全にギャルで横に写ってるドSがドレッドだったのにはビビった。
妖怪テケテケとか口裂け女も探したらしい。
アホの子や。
最終的に探しに行ったのがセイレーンとかわけわからん。
夕食は、ドS秘書と双子とで食べた。
俺と秘書には、あずきちゃん特製牛すき焼き定食。
姉さんの好物らしい。
双子は猫大好き定食だった。
魚を焼いたのと刺身と煮干しにご飯と汁物。
野菜食え?いや猫はいらんのか。
風呂に案内されるとなんて言うか銭湯みたいに壁に富士山が。
ライオンの代わりにメドゥーサがお湯吐いてたけど。
姉さんの好みがバラバラすぎてわけわからん。
バ○クリンにケロ○ンとか置いてある。
顔の濃い俳優陣の映画思い出した。
俺は平たいほう。ほっとけ。
明日から大学行けるかな。
部屋に戻ったら、ちょっと課題とかレポートとか気になったから、用意されてるタブレット使うことにした。
くっそ!最新型で容量も大きい。
ありがたすぎる。
この暮らしに慣れたら、元の暮らしが辛いだろうな。
スマホ見たらラインいっぱい来てた。
正直この現状を知られるのは面倒なので、内緒だ。
バイトは当分無理って返しといて。
大学に行けるかは、体調次第って嘘をついた。
姉さん慣れたらこと誰かに言っても絶対誰も信じない。
俺だって他から聞いたら「頭大丈夫か?」って言う。
寿家って言っても別に有名企業とかじゃないから説明しようがないし。
姉さんの母方のこと何も知らんけど、多分名家とかそんなんじゃない。
もしそうなら何で親父と結婚したんだって感じだし。
うちの母親もなんでやって思うけど。
あの真面目な母親がトレジャーハンターに惚れるとか本当の謎。
写真で見た限りは、そこら辺にいるチャラいオッさん。カッコいいとかそんなじゃないんだよね。
俺は母似で姉さんも多分、母似。
母親違いで似るわけないじゃん。
しっかし、トレジャーハンターと不思議ハンター。
世の中にはいろんな人がいるのはわかってるけど。自分の父親と姉がって思うと笑えねぇなぁ。
早く姉さんが戻って来て、俺に〈俺の日常〉へ帰らせて欲しい。
ベッドにダイブすればすぐに眠気に襲われた。
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