19. 興味が無いらしい
デザートを楽しんだあと、部屋に戻った私はもう一度攻撃魔法を使ってみた。
けれども、現れたのは水の一滴だけ。
甲板で試した時よりは大きくなっている気がするけれど、この感じだと攻撃魔法と言えるくらいになるまで何年もかかってしまいそう。
「私は大丈夫だから、先に着替えても大丈夫よ?」
倒れても大丈夫なようにベッドの上で試したのだけど、起き上がる力は残らなかった。
クラウスの説明では、すぐに回復する私の本来の魔力量は、並みの貴族よりもかなり多いということだったけれど、そうなる未来が見えないのよね……。
「分かった。見るなよ?」
「興味なんて無いわ」
「それはそれで悲しいな」
他人の裸を覗くような趣味は持ち合わせていないけれど、彼は残念そうにしている。
筋肉を自慢したかったのかしら?
「筋肉自慢ならご自由にどうぞ~」
「見せる趣味は無いから安心してくれ」
ふと頭に浮かんだ可能性はあっさり否定されてしまったから、少しだけ悔しい。
ええ、決して見たかったとかではありません。
だから、私は天井を見たまま動かない。
「終わったから見ても良いぞ」
「早かったわね?」
「貴族じゃないから、普通はこれくらいで終わる」
殿方の着替えが早いというのは、お兄様が居たから分かるのだけど……それにしても早すぎた。
一瞬で終わるなんて想像つかないわ。
彼が着替え終える頃には魔力が戻っていると思っていたけれど、まだ動けそうにないのよね。
それにこの船室はベッドがある部屋と荷物置きにしか分かれていない。
スペースが限られているから仕方のない事だけれど、今まで通りにはいかないから戸惑うことも多い。
例えば私が着替える時。扉を閉められないから、気を付けないといけなのよね。
「心配なら一旦部屋から出るよ」
「大丈夫よ。荷物の部屋で着替えるから」
「それなら俺が荷物の部屋に入ろう」
ようやく起き上がれた私に向けて、穏やかな笑みを向けるクラウス。
配慮は嬉しいけれど、罪悪感を少しだけ覚えてしまった。
しばらくして、着替えを終えた私達はベッドに入ることになった。
貴族の夫婦が同じ部屋で眠る時は、殿方が安全な窓側に眠ることになるのだけど、クラウスは自ら通路に近い方のベッドを選んでいた。
そして私達の間を隔てる
「これ、どうしたの?」
「俺の理性を保つためだから気にしないでくれ」
「えっと、そう言われても気になるわ……」
「シエルが可愛すぎるのが悪い」
一体どこから出したのか不思議だけれど、これでクラウスの欲を押さえられるなら受け入れよう。
存在感はすごいけれど、私に配慮してくれた結果だと思うから。
貴族の令嬢としての教育で殿方の危険性はしつこいほど教わったけれど、クラウスを見ていると襲われそうな気配が全くないのよね。
いやらしい視線を一瞬でも向けられていないから、私の魅力が全くないと勘違いしそう。
でも、今の言葉は少し照れている様子だったから、絶望から解放された気がした。
「ありがとう。クラウスも格好良いわ」
「ありがとう。まあ、シエルの隣なら霞んでしまうが……」
クラウスは悔しそうにしているけれど、それは私も同じ。
彼はかなり整った容姿をしているから頻繁に注目されている。
でも私に向けられている視線は少ない。
男装中だからかしら?
「いいえ、霞むのは私の方よ」
「そういうことなら、お互い霞ませて平等って事になるな。
何が起きるか分からないから、そろそろ寝よう」
「そうね」
リヴァイアサンのこともあるから、大人しく頷く私。
「「おやすみなさい」」
二人分の声が重なって、笑わないように堪える私達。
それからすぐに、クラウスの寝息が聞こえて来た。
すぐに眠れる才能が羨ましいわ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます