第31話 浴衣と祭りと浮かれ日和1

 秋谷を除く三人は見事な浴衣を着ており、道中の疲れなど吹き飛びそうな程の麗しさが待っていた。橋田は相変わらず黒の浴衣であったが、かなり雰囲気が出ている。シロネさんは白地の浴衣であり、イメージ通りだ。そして、大塚は意外な事に水色の柄の入った浴衣を着ていた。てっきりヤバい柄の入ったモノを着てくるかと思っていたが、それはただの杞憂だったみたいだ。

「あ、どうですか?我のこのイカした仮の姿を」

 仮の姿の方かよ。

 しかし、橋田の浴衣はまあなんだ。割とにあってはいた。ここはやはり黒が似合うのか。

「まあ、突っ込みたい気持ちは山々だが、結構似合ってるぞ。」

 俺がそういうと橋田は顔を赤らめて、平然を装う。まったく、わかりやすいやつだ。すべてが表情に出ている。

「ふははは、助手がそういうのは分かってましたよ。やはり我がブラッドファミリーは祭りの時でもイメージを壊さないようにするのが鉄則だ。キサマも黒の浴衣を着てくるとはなかなかやりますね。流石に我々のダークナイト魂が染み付いてきたようで。」

 そう、何を隠そうと家にあった浴衣は黒いモノであった為、不本意ながらペアルックみたいになっていたのである。昨年までは普通の浴衣があった筈なのに何処かへ消えていた。不思議だ。あと、ダークナイト魂は流石に初めて聞いた言葉だな。

「ま、まぁね。そういうとで良いけども。ってか大塚は浴衣の着方は分かったのかよ?」

「ああ、わからなかったからシロネと橋田に手伝ってもらったぞ。なんだが、ヒラヒラだし帯が一番よく分からん。」

 大塚がそういうとシロネさんは曇りひとつない天使の笑顔で

「大塚さんったら着方が分からないって言っていて、すごく焦ってたんですよ。直前ギリギリでみんなで着させたんですよー。」

 と、暴露した。

「やめろぉ!!恥ずかしいから言うな!!」

 大塚は顔を真っ赤に赤らめてそっぽを向く。文字通り焦っており皆で微笑ましく笑った。

「そう言えば秋谷は、浴衣じゃないんだな。」

「ええ、買い忘れました。」

 悪びれた様子を見せず、凛々しい表情をしていた。まあ、楽だっただろうな。俺も大塚と同じくまあまあ苦労して身につけたモノだからな。

「マジかお前。」

「まあ、良いじゃないですか。男友達の浴衣だなんて興味ないでしょう?あ、もしかして、そっちの毛色でしたか?」

 誤解を招く言い方をするんじゃない。

「冗談ですよ冗談。」

 全く、俺は律儀にも家にあった浴衣を着て、パンチラしないように漕いできたというのに。コイツ、面倒だからわざと手を抜きやがったな。

「仲良いですねおふたり」

「ええ、親友みたいなモノですからね。」

 勝手に親友枠に俺を組み込むな。俺は不服そうな顔をした。

「では、立ち話もこれくらいにして行きましょう!!我がブラッドファミリーはこの祭りを悔いの残らないように楽しみましょう!!」

 橋田の呼びかけに皆が「オウ!」と反応する。俺は周囲の音にかき消される程の声で呼びかけに応じた。俺たちの夏が始まった。

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