第7話 VS剣聖の息子
「———あ、あの女……やってくれたなぁぁぁあああああああああああああああ!!」
対戦表に書いてある『ヤミ・シェイドVSアルバート・ブレイド』を見て、サティに嵌められたことに気が付いた俺は激怒した。
折角レイシアちゃんの試合を観戦してるんるんな気分だったのに……!!
何で俺が剣聖の息子と戦わないといけないんだ……!!
よりにもよって相手が『神秘使い』の1人である剣聖の息子とは、自分のことながら随分と運がない。
自分の力に自信があって驕っている分、サティよりも面倒な相手だ。
それを矯正するのがレイシアちゃんなのだが……それはまだまだ先の話なので、今が1番面倒な時である。
「…………あの女、絶対許さん……」
俺はザッと見回してサティの姿を探してみるも……用意周到なことにもうこの競技場にはいないようだ。
チッ、危機管理能力だけは高い奴め。
ただこのままぐだぐだ愚痴っていても仕方がないので諦めて武舞台へと上がる。
すると少し意外なことに、武舞台に1人の赤髪の少年———アルバートが先に来ていた。
へぇ……遅刻魔が早いなんて珍しいな……と思っていた俺を見て、アルバートが露骨にガッカリした様子で吐き捨てた。
「おい、お前がヤミ・シェイドか? サティとかいう強そうな女に勝った奴だからどんなもんかと思えば……随分と弱そうだな」
「……あの女には棄権されました」
自分で棄権を言ってれば良かったって死ぬほど思っているよ。
それにしても良かったな、アルバート。
ここにイリスとかウチの奴らがいたらボコボコじゃ済まなかったぞ?
「ふんっ、何故こんな奴に棄権したのか良く分からんな。まぁ所詮あの女もその程度だったというわけか」
アルバートはそれだけ言うと、腰に差した刃の潰された訓練用の長剣を抜く。
そして気に入らないと言わんばかりに舌打ちした。
「チッ……こんなモンで戦ったって意味ねぇっての。ソイツの実力は命の奪い合いにこそ発揮されるんだからな」
おー、今回ばかりは賛成するぜ、アルバート。
流石父親と常に真剣勝負をしていただけあるな。
そう、この男がここまで驕っているのにもそれなりの理由がある。
アルバートは知っての通り『神秘使い』の中でも武闘派として知られる『剣聖』の息子だ。
そして剣聖は、自身が生粋の剣の天才だったからこそ、アルバートの自身すらも超えうる剣士としての才を即座に見出した。
剣聖は『神秘使い』にしては珍しくそこそこの人格者で、弱き者にも優しく、周りのことを考えられる人間だ。
しかし心の底では自分が思いっ切り戦える相手を待ち望んでいた。
そんな奴の下に自分すらも超える可能性がある子供が生まれたとなれば……勿論小さな頃から修行をさせただろう。
実際、剣聖はアルバートに自身の技術の全てを教えた。
まだまだ経験が少ないのでアルバートに剣聖の剣術は扱いきれないが、それでも同年代に負けることなどない。
そのせいでアルバートに驕りが見え始め……それを矯正するために剣聖はアルバートを学園に入れた、と言うわけだ。
チッ……剣聖め……本当に面倒な奴を入れやがって……。
まぁコイツがぶっきらぼうだが情熱的にレイシアちゃんに好意を伝えたのを見た時は思わず歓喜の雄叫びを上げてしまったけどな。
でもあの時のシチュエーションといいレイシアちゃんを見つめるアルバ———。
「おい、何時までボーッとしてるつもりだぁ? とっとと構えろ雑魚」
「…………」
何で俺が回想しているときに必ず邪魔が入るのだろうか。
神様がゲームのことを思い出させたくでもないのか?
そんなことを考えながら俺は剣を構える。
勿論普段の構えではなく、この世界で最も有名な剣術の初歩的な構え方だ。
「———試合開始!!」
試験官の言葉と同時にアルバートが先程のイリスよりも高速で迫るが、見た所【身体強化】すら使っていない。
つまり———これが純粋な身体能力ということか。
ば、バケモンめ……。
「ッ!!」
「うわっ!?」
俺は敢えて【身体強化】を使い、間一髪のところでアルバートの横薙ぎを避ける。
しかし完全に避けたつもりが髪が数本斬れており、俺は咄嗟に彼から距離を取ろうとバックステップを取る———が、流れるようにアルバートが俺の目の前に現れ、ニヤリと笑う。
「はっ———逃さねぇよ」
「っ、手加減くらいしろよな……っ!!」
流石に今度は避けられないので、身体の横に剣を構えてアルバートの剣を受け止める。
その瞬間に全身へと剣越しとは思えないとんでもない力が掛かり、俺は吹き飛ばされた。
「まだまだァ!!」
「くっ……」
俺は休みのない連撃に必死に食らいつくが……この剣術だと流石に剣聖の剣術を受け止め続けることは出来ない。
模擬剣だというのに徐々に俺の身体に切り傷が増えていき———額が斬れて目に血が入る。
———ッ!!』
「———ゃめろッ!!」
「ッッ!?!?」
俺は無意識に力が籠もり、普段通りの攻撃をしてしまう。
アルバートは突然動きが変わった俺に目を見開き、反射的に剣を滑り込ませたらしいが———実に呆気なく両方の剣が砕け散り、アルバートが吹き飛ぶ。
その音に、俺は自分がしでかしたことを理解した。
くそッ……しくじったな。
こんなときにアレが見えるなんて……。
「おい、ヤミ・シェイド!! 今の剣は———」
「———降参。俺の負けだ。これ以上やっても出血してる俺がアルバート君に勝つことは出来ない」
俺は何かを言おうとしたアルバートの言葉を遮って試験官に降参を申し出る。
その言葉に、アルバートが信じられないと言った風に俺を見た。
「おいッ!! どうして降参なんかしやが———」
「———分かった、ヤミ・シェイドの降参を認める。勝者———アルバート・ブレイド!!」
「試験官!? テメェにはアイツの剣が見えなかったのか!?」
「だが、シェイド君は正当な理由で降参を申し出て、その降参を私は認めた。それを覆すことは例え剣聖の息子であっても出来ない」
よ、良かったぜ……この試験官が真面目な奴で……。
と、兎に角急いでこの場を離れないと……レイシアちゃんが戦っているとはいえ目立っちまう……。
俺は武舞台から降りて保健室へと向かう。
そんな俺の背中に、アルバートが叫んだ。
「くッ……ここで降参したことをその内後悔させてやるからなッッ!!」
へへっ……好きなだけ言ってろ。
お前とは2度と関わらねぇよ馬鹿野郎。
そんなことより大人しくレイシアちゃんとイチャイチャしてろ。
俺は奴の言葉を無視して小さな笑みを浮かべながら、競技場を後にした。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます!!
モチベで執筆スピード変わるので、続きが読みたいと思って下さったら、是非☆☆☆とフォロー宜しくお願いします!
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