強敵と初見殺しに溢れたホラゲー世界では、怪異よりも主人公が恐ろしい

一味違う一味

第1話

 今世・・では、おぎゃーと産まれて17年。


 まぁまぁハイスペックな肉体を引っ提げて、それなりに山あり谷ありの人生を何の変哲も無い現代日本で経験しました。したと思ってました・・・・・・・・・


 このまま前世では出来なかった老衰で穏やかに死ねたらいいな、なんて考えていたら甘かった。


 何故ならここは断じて現代日本などでは無かったのだから。















「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

 どこが現代日本じゃボケ!

 ちょぉぉぉぉっとハイスペックなだけの一般人パンピーを何てとこに送ったんじゃぁぁぁぁぁぁ!」




 悪態を吐いてもなんの解決にもならない事など百も承知だが、それでもせずにはいられなかった。


 なにせココは現代日本どころではなく、あの世・・・なのだ。


 念の為だが俺は死んでいない。しかし何も対策しなければ、ソレも時間の問題だろう。


 スタート地点であるこの場から動けば魑魅魍魎ちみもうりょうに襲われ丸かじり、しかし動かなければ自身の食料などない現状では餓死待ったなしである。


 いや、この世界において餓死や丸齧りは死に方としては上等だろう。あのクレイジー・サイコ・レズビアンに殺される事に比べれば。


 前世、今世を含めて刺激の少ない人生だったからって一人肝試しなど計画したのが間違いだったってのか!?


 でも仕方ないじゃん! こちとら絶賛流行中のチート(微)転生者ですよ!? 前世にはなかった超高校級の肉体持ってるんだから少しくらい危険を犯しても大丈夫だと思うじゃん!


 それが、それが…………




「どうしてヒロインが怪異より怪異化物なホラゲー世界なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」




 ここは『怪異ホラーより恐ろしいホラーな私はオキライ?』というタイトルで売り出された難易度ルナティックのハスクラ百合ホラゲー世界だった。


 いくら俺が頑強な肉体と鋭敏な五感を持っているとは言え、束になった魑魅魍魎ホラーやソレ等を恐怖ホラーに突き落とす主人公勢ホラーを相手に如何ほどの意味があろうか。


 あえて言おう、カスであると。


 万が一こんな世界でさらなるチートに目覚めたってハーレムなんて作れないぞ。つーか作りたくないね! だってタマ切り落とされるのが目に見えてるし。


 だから俺は気の所為だと思いたくて、その証拠を探すべく周囲を探索したりした。けれど探索すればするほどここが、あのゲームだという証拠が増すばかりだ。


 舞台は尋常ではなく古い木造の大型建築物に血肉を撒き散らした見た目なのだが、そんなものホラゲーでよくあるパターンなので証拠にはならない。


 そう、なにか否定材料希望がある筈だ。きっとなにか。


 ………と、そう思っていた時期もありました。


 あまりのインパクトに17年経とうと薄れることがなかったゲームの記憶を辿り、探れる限りの場所を探った。


 ………怖いので、安全なスタート地点に限定で。


 まずは最初にして大本命の、後ろの扉を開けて見える景色。


 次に、小物の種類と配置。


 最後に本命の、初期アイテムの隠し場所。




 はい。


 全てゲーム通りです。お疲れ様でした。


 扉を開けて見えた景色→上下左右が吸い込まれそうな黒一色の玉ヒュンする景色。


 小物の種類と配置→ここはCGがないためゲームはドットだったが、それでも最低限の見分け位ついた。


 初期アイテムの隠し場所→腐った床板を剥がせば、かつての周回で見慣れた『包丁』、『木の棒』、『ワンド』、『傷薬』、『栄養剤(超)』『小汚いリュック』が勢揃い。なお武器が多いのは主人公勢が3人だからである。




「ははは。俺、死んだな」




 俺って、どうしようもなく絶望すると乾いた笑いが出るタイプなのか。絞り滓程度に残った冷静な頭にそんな思考が過った。


 どうするか。たしか扉から飛び降りるのが一番楽な死に方だったよな。死後の裁判なしに地獄行きだが、魂の消滅やこの空間で永遠に彷徨うハメになるより随分とマシだろう。


 そうか、最初からそうすればよかったんだ。




「…………いや、待てよ」




 虚ろな足取りで漆黒へ身を投げ出す直前、俺は自身の考えの不自然な点に気付いた。


 そもそも俺が絶望したのはチーレム云々ではなく、どうあがいても最後はクレイジー・サイコ・レズビアンに殺される未来しか見えなかったからだ。


 しかし、この状況はどうだ。


 初期アイテムがあるということは主人公勢が、まだ・・来てない可能性が高い。


 故に、このアイテムを俺が独占すればいいのだ。そうすれば武力のない主人公勢は雑魚敵で死に絶え、俺はゲーム知識で攻略できる。


 このホラゲーは初見見殺しさえ対応し、運ゲーである事に目を瞑れば、ソロ攻略は出来なくはない…………かもしれない難易度である。




「つまり、俺は生還できるってのか」




 そうして見えた微かな希望。


 それは蜘蛛の糸より儚かったがそれでも


 いや、だからこそやる気が出たのだ。ゲーマーたる者、自身で導き出した攻略法があるならば試さずにはいられないのだ。




「どうせ死ぬなら、やりたい事やってる最中・・が一番だよな」




 運ゲー? 魂の消滅? 知ったことか。


 こんなところ、さっさと出て大往生初志貫徹してやらぁ!


 『ワンド』と『包丁』をベルトにさし、実はアイテムボックスである『小汚いリュック』に他のアイテムを詰めた俺は怪異経験値を求めて歩き出した。










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 包丁:普通の包丁。スキル【刺突】が使える。


 木の棒:そのへんの木の棒。スキル【打撃】が使える。


 ワンド:とある魔法使いが作りかけで放置していたワンド。スキル【光撃】が使える。


 超栄養剤:『100時間働けますよ!』がキャッチコピーの栄養剤。とある魔法使いが深夜テンションで作り上げ、飲んで後悔・・した一品。効き目が切れると尋常ではないしっぺ返しがある。


 小汚いリュック:とある魔法使いが倉庫として活用する予定だったが、あの世に来た拍子に無くしたもの。

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