第4話 ミッションスタート

「まさか、あのジョーカーが殺害されるとは……」

 

 ジョーカーが森の中で死んでいるのをとある試験官が発見したことで、この試練の運営に関わる全てのスタッフが緊急で洋館のホールに集められていました。ジョーカーは、この島にいる誰よりも強いはずでした。彼が殺害されたということは、候補者を含めたこの島にいる人間の中に、試験官たちよりも強い者がいるということと、この人物が悪意を持って暴走した場合、ビンセントを含めた運営スタッフの中にその人物を止められる人間がいないことを意味しています。絶対に負けるはずがない人物が敗北するという想定外の事態に試験官たちは焦りを隠しきれません。


「ジョーカーが倒された今、試練を続行するのは危険です。私たちもですが、何より聖女候補たちに危険が及ぶ可能性を否定できません。悪意を持った第三者がこの島に紛れ込んでいるケースも考えられます。このまま試練を続行して良いのでしょうか? この試練のスポンサーとなっている貴族たちにも説明が……」


 試験官の一人が責任者であるビンセントに問いかけます。


「今さら止められないだろう? それに、もしその人物が候補者だとすれば、それだけ聖女に近い者だということになる。我々にとっても喜ばしいことじゃないか」

 

 ビンセントは威厳のある声で、集まってきた試験官たちを説得し始めました。説得というよりは、命令に近いかもしれません。事実、試験官たちは、このビンセントの楽観的で的外れな回答に失望していましたが、彼に何も言うことができませんでした。ビンセントの意見には、ここにいる運営スタッフは誰一人として逆らうことができないのです。


「とりあえず、試練は続行だ。君たちはミッションの準備に取り掛かってくれ」


 試験官たちは、不安そうな気持ちを押し殺しながら、ホールを後にします。


「試練の中止など、あり得ないのだ。そんなことになれば、私の名声に傷がつくのでな……」


 誰もいなくなったホールで、ビンセントは一人で呟きました。


 試験官たちがミッションの準備を終えたあと、聖女候補たちは洋館のホールへと集められました。相変わらず険しい顔をしたビンセントが、候補者たちにミッションについての説明を始めます。


「ごきげんよう諸君。今日集まってもらったのは、君たちにこの試練で最初のミッションを受けてもらうためだ。今回のミッションは、宝探しだ。私たちはこの島の中に宝を隠している。君たちには明日の朝になるまでにその宝を見つけて私に提出して欲しい。以上だ」


 ジョーカーの件で苛立っていたビンセントは、必要最低限の説明で話を終えてしまいます。


「ちょっと待ってください。そのお宝の詳しい説明は無いのですか? それでは探しようがありません」


 彼の説明に納得できない候補者の一人が質問します。


「君たちからの質問は受け付けていない。以上だ」


「それを説明するのがあなたの仕事でしょう? 責任者ともあろうお方が、仕事を放棄するのですか?」


 別の候補者もビンセントに噛みつきます。


「ああん? 人に聞かなければ何も出来ないのか? お前たちも聖女候補なら、少しは自分で考えて行動するんだな!」


 候補者たちの質問に怒りが収まらないビンセントは、候補者たちを怒鳴りつけるように一方的に話すと、ホールを後にしてしまいました。


「相変わらず、お馬鹿な子たちね。ビンセントが宝を指定していないってことは、つまり、なんでもいいってこと。だったら、自分で宝だと思うものを持ってくればいい。この島には作りかけの建築物がたくさんあるから、そこにいって自分がお宝だって思うものを持ってくればいいのよ」


 いつのまにかカタリナの隣にいた少女が彼女に聞こえるようにつぶやきました。


「あ、あなた、昨日の……」


 隣に少女がいたことにまったく気が付かなかったカタリナは、驚きながら彼女に話しかけます。


「ふふ、あなたもせいぜい自分が思う宝を見つけることね。夜はあまり出歩かない方がいい。命が惜しいならね」


 そう話すと、紫色のドレスを着た少女は昨日と同じようにカタリナの肩を叩いて、ウェーブのかかった茶色のロングヘアをなびかせながら、洋館の外へと出ていきました。


 試験官たちはミッションの最終確認のために再びビンセントの元へ集められていました。まだ怒りが収まらないビンセントは試験官たちを睨みつけながら、次のように命令しました。


「候補者たちはまだジョーカーが殺されたことを知らない。彼を殺害した犯人以外はな。候補者たちの動向を全て観察して怪しい動きがあれば報告しろ。犯人を絞り込むんだ」

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