第21話「タイムレス・シューティングスター/ブレイズサレナ」
/回想はじめ/
——小学生と中学生の時は、学校でよく本を読んでいた。
本は友達……というより、アタシにとっては拠り所だった。
彼らがいるから色々忘れられたし、
彼らがいるから、現実と向き合う勇気も湧いた。
「……あんたほんと何にもできないのね」
家でそう言われた時は本当にそうなんだと思っていた。アタシは覚えが悪くて要領も悪くて動きもすっとろくて、本当にダメダメなんだと思っていた。
でもある時気づいたんだ。
案外、お話の中の主人公たちも、ダメなところはダメだし、弱っちいところは弱っちいし、
それでも、輝いている——って。
「ねーちゃん。かーちゃんどこに出かけたの?」
「おねーちゃん、おなかすいた」
中学3年の頃には、弟妹達はアタシに頼りきりになっていた。頑張りすぎたのかなアタシ。でも、悪い気はしないかな。
……
でもそんだけ働いていたからか、あの人は前よりも怒り散らすようになっていってたし、弟妹にも手が出そうになっていたし、でもそれでもアタシたちを養おうとして、
あんまりだよねこんなの。なんにもわかんなくなって、でも
「——何これ。トランプ……?」
だからか、落とし物を拾ったらちょっとだけいいことがあって、それで——
アタシ、ゲームの類は強かったみたい。
ずっと我慢してて、遊んだことなかったから知らなかったな。
人の顔色を窺うことが多かったからか、それに集中できるターン制の
「お前。家族の面倒は俺の会社が見てやる。代わりに俺の剣にならんか?」
結構戦って有名になったのかな。おっきな会社の社長がアタシをスカウトしてきた。
でもアタシだってもう馬鹿じゃない。アタシがどうなろうと家族の面倒はずっと見るように交渉して、契約書にもちゃんとその旨を記載させた。
だからきっと大丈夫。家族はこれで、大丈夫。でも。
——アタシも、もっと好きなこと、やりたいな。
/回想おしまい/
——スキルカードによって攻撃を9分割した『
——なのに。
月峰カザネは立っていた。
引き金付近に百合の意匠が施された、長距離射撃型収束ビーム銃を構えるセンチネルと共に。
代わりに、ナインソロジー・フォックスは今にも消えようとしていた。
◇
『機能反転-モード・チェンジ-』
種別:スキルカード
【対象】エヴォリューションセンチネル
【効果】対象をモードチェンジさせる。
◇
「……モード……チェンジ……?」
「……そう。これによって私のアサルト・タキオンは変形して、高火力射撃モードになった。
その名を、『アサルト・タキオン/ブレイズサレナ』——!」
◇
『アサルトタキオン/ブレイズサレナ』
AP3000
種別:エヴォリューションセンチネル
【条件】
召喚時
【効果】
相手のAPを3000下げる。
負の数となった場合は捨て札になる。
【条件】
このカードの攻撃時
【効果】
相手のAPを、このセンチネルのAP分下げる。
負の数になった場合、捨て札になる。
◇
「召喚時に、AP-3000……?」
「ええ。さっきあなたのナインソロジー・フォックスが9連射を仕掛けてきた時にモードチェンジして、3000下げたのよ。それによって9連撃の処理が中断。破壊されないよう、7回目の戦闘開始寸前で止まっているわ」
◇
『
AP9999 → 6999 → 999
◇
——止められた。
アタシの渾身のコンボでさえ、殺すことができなかった。今度こそ、今度こそ手詰まりだ。アタシのデッキにはもう、これ以上の手はない。
アタシは、負けるんだ。
こわい。こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい負けるのがこわい。
——“このカードを渡しておく。深淵由来の浸蝕結界カードならば、お前の敗北による死を、復元という形で塗り直すだろう”——
昨日、沖田先生からカードを渡された時のことがリフレインする。あのカードがあるんだから、きっとアタシは死なない。だけど、それでも、それでもブレイズサレナの迎撃射撃——その余波で今にも崩壊しそうになっている混沌劇場を見ていると、恐ろしくてたまらない。
いやだ。こわい。あの攻撃を受けたくない。負ける恐怖を味わいたくない。やっと楽しくなってきたのに、やっと、高校からは楽しくすごせると思っていたのに。
膝が震えて、体が震えて、思わずへたり込んで、
「ひゃ、ひゃーんえんど……」
このままズルズル時間を稼いでもルールで死んでしまうから。そっちだと浸蝕結界も機能するのかわからなくて、でもどっちにしろこわくて。
でもアタシがこれまで倒してきた人たちも同じ思い——いやもっとこわかったであろうことに思い至り、アタシは罪悪感にも押し潰されて。
顔を地面に擦り付ける形で蹲っていた。
ゆるして、ゆるしてゆるしてゆるしてゆるして。
おねがいだから、なぐらないで、けらないで。
あたしもっとがんばるから。だからもうやめて。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
いつの間にか声に出ていて、でも、それでもターンは移り変わって。
「……私のターン、ドロー」
静かに、金属の擦れる音と、エネルギーの充填音? なのかな、それが聴こえてきて。
「……アサルト・タキオン/ブレイズサレナの攻撃。
——『
こわかったけど、声が震えてたから、ちょっとだけ気になって顔を上げたら。
「——なんで見ず知らずのアタシ相手に泣いてんだよ」
我が事のように泣いている人がそこにいた。
「発射——……ッ!」
そして、アタシの意識は深淵に沈んだのでした。
続くかどうかは、まだわかりません。
◇
——私は、今度こそ相手を殺す気で、札伐闘技に臨んだ。臨んだ、けど。
「クソ儀式がぁぁあああああっ!!
なんで殺す必要があんのよ! なんであの子が死ななきゃなんないのよ!! なんで……なんで、よ……」
膝を落とす。それと同時に位相が戻っていく。駐輪場には、今は私1人で、もうあの子の姿はない。
……こんなのおかしい、間違ってる。こんな方法で勝敗を決めなくてもいいはずだ。これで勝ち抜いたって、あの子たちは戻ってこない。ただ屍の山となり、最後の勝利者が叶える願いの薪となるだけ。
薪に変換されてしまうから、アリカもカレンも蘇ることはなく。灰が巡り巡って、いつかは生まれ変わることはあるかもしれないけれど、もう彼女たちに会うことはできない。
この儀式は、そこまでのことを強いてまで、この先も続けていく価値などあるのだろうか?
——今。私の中で、何かが燃える感覚があった。
「おや、月峰さん。そんなところでへたり込んでどうされました?」
「——ぁ、吉良先生。
あぁその、ちょっと転んじゃって」
「立てますか?」
「それは、はい。大丈夫です」
私は、泣いていたことを悟られないように髪の毛で隠しながら、そしてすぐ背中を向けて帰ろうとした。その時、
「月峰さん。私は応援していますよ。君はそうやって、1人で立ち上がれる強さを持っていますから。今は泣いてしまうことがあっても、きっと輝かしい未来が待っているでしょう」
ただのエールだろう。担任なりの心配なのだろう。でも私は、その言葉が少しだけ、癇に障った。
「——ありがとうございます。今日はもう、帰ります」
「ええ。気をつけて」
心の中で燻っていた戦いへの思いは、今度こそ完全に点火していた。
私はもう、迷えなくなっていた。
私の中の選択肢が、この儀式を壊す以外燃え尽きていたからだ。
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第3章、了。
次章、第4章『その虚無を見ろ/アカシック・ゲイザー』に続く。
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