第13話「アンサー・アンド・アンサー/ヴォイドフレーム・フェイタルイーター」
ターンプレイヤー:沖田シゲミツ
手札:1枚
控え:戦闘不能2体 待機2体 残り枠0
バトルエリア:『願望騎 ホロウリィ・スケイル』
AP0(戦闘時、相手AP+1となる)
フィールド:『浸蝕結界/
プレイヤー:神崎カナタ
手札:3枚
控え:戦闘不能1 残り枠3
バトルエリア:『
AP3000(2000+1000)
【更新情報】
『願望騎 ホロウリィ・スケイル』
【制約】このカードをデッキに入れたプレイヤーは、このカード以外のセンチネルをプレイできない。
【条件】相手プレイヤーがカードをプレイした時
【効果】その効果を完遂させるに足る効果を、その使用カードに付与する。
=相手プレイヤーの願望を成就させる。
その処理後、その効果を全て吸収する。
尚、同一状況での願望成就はゲーム中1度だけとする。
【条件】このカードが破壊された場合
【効果】手札・デッキ・捨て札置き場のあらゆる領域から、同名カードを自分の控えに召喚する。
【条件】なし
【効果】『願望騎 ホロウリィ・スケイル』は、このゲーム中に成就させた願望能力を全て継承する。
【継承効果】
【条件】戦闘時
【効果】このカードのAPは相手のAP+1となる。
【条件】なし
【効果】このカードの効果発動時、相手はカード効果を発動できない。
◇
——圧倒的だった。
俺の行動全てに対して効果を被せ、そして俺の願望を強制的に叶える——その後、その成就した結果を吸収する。
沖田シゲミツの『願望騎』は、歪みながらも俺の願いを確かに叶えていた。その上で、それを用いて俺を追い詰めていた。
そして——
「大穴より谷の底に。谷の底より今この戦場に。深淵より出でし
——EXスキルカード
『浸蝕結界/
更なる未知が、姿を顕す——。
儀礼結界全体を、闇が覆っていく。
底知れぬ闇、それが、フィールドだけでなく俺の心さえも満たそうとしてくる——そんな錯覚さえ見せてくる。未知なるカード、『浸蝕結界』。これは、決戦場そのものを書き換えるカードなのか……?
「——浸蝕結界は、使用者の心象風景そのもの。カードデッキに東映する際に分割した要素全てを内包する特殊なカード。
ゆえに——その濃度は通常のカードでは中和すること能わず、その心象は世界を浸す。
そして——そのカードは決戦場をおれの心で支配する」
——詩的でいて具体的。
そこには暗闇の荒野が広がっており、そして、奴の控えの空席に、4枚目5枚目の願望騎が召喚されていた。
枚数上限を超えた同名カードの召喚。これがあの男の浸蝕結界の能力——!
「『浸蝕結界/
——1つは、『全てのセンチネルカードの初期のAPが0になる』。
そしてもう1つが——おれのデッキ内カード全てが『願望騎 ホロウリィ・スケイル』となり、毎ターン、戦闘不能センチネル1体を捨て札にすることで、手札から願望騎を召喚できる——というものだ」
「なん……だと……?」
——終わりだ。勝てない、このままでは。
やつの手札は1枚、それは手札にあったがゆえに願望騎化しなかったカード。だからこのターンはこれ以上の願望騎増殖はない。だが——
——だが、次のターンに俺が勝てなかった場合は?
実のところ、攻撃手段だけはある。手数だけならある。兵装の換装によってあらゆる戦局に対応できるのがこのデッキ最大の強みだ。しかし、すでに願望騎は戦闘破壊することができない。その上、同質の願望をあのカードは複数回叶えることはできないという。イタチごっこはできないようになっているということだ。ゆえに、俺はもうあのカードたちを戦闘破壊することは不可能となっている。
——勝てない。俺の中の冷静な部分が、盤面を俯瞰した上で出した結論がそれだった。
もう、今の俺に残された手立てはゼロだった。
「ではバトルだ。安心しろ神崎。お前はまだこのターンでは終わらん。おれは先生だ。起きてしまったこの戦いの中で、可能な限りの導きはしよう。お前が、この暗闇の荒野を切り拓くための『何か』を見つけられるよう、努めてみよう。それ以降は、お前次第だ」
何を言っても、もう俺には響かない。この戦いにおいて、これ以上の駆け引きなど無駄にすぎる。今の俺に残された道は
「『願望騎 ホロウリィ・スケイル』の攻撃。
——『
黒いモヤのかかった、形の判然としない推定西洋剣を出現させ、願望騎が
浸蝕結界による追加ルールにより、互いのAPは0。だが願望騎はこちらのAPを必ず1上回るゆえに、戦闘結果は目に見えていた。だからこそ俺はもうサレンダー以外に道はない。最早足掻くだけ時間の無駄。今の俺のデッキに打開策などない。ゆえにこそ——
——脳裏を過ぎるは、今も震える少女の姿。
俺との約束を胸に抱き、慟哭と罪悪感と戦う彼女——
「——スキルカード発動! 『デコイ・バトルスタン』! これにより、俺の手札から『
——最早その場しのぎの延命措置に過ぎないというのに。俺は一心不乱に足掻いていた。
——嫌だった。どうしてだかわからないが、月峰カザネともう会えなくなるのが、たまらなく嫌だった。
……見えてきた気がする。俺の気持ち、俺の願いが。勝ち抜いた末に掴みたいであろう、俺の渇望が。
「——それで良い、そして至れ、神崎。後1ターンのモラトリアムの内に、その心を直視しろ。例えその上で術がなくとも、お前は答えを得られるだろう。
おれはこれでターンエンド。お前のターンだ、その身を浸せ。さすれば、源泉に届くやもしれん」
——この男は、確かに『先生』という在り方を全うしようとしている。札伐闘技が始まった以上、どちらかしか勝ち残れない。その上で、この男は最後まで俺の可能性を引き出そうとしている。
理解などできない。それは俺の在り方とは異なるから。だがそれでも、この心の内に芽生えた感情の灯火を、あの男が最後まで絶やすまいとするのならば、他ならぬ俺が、この感情の正体を克明にする前に死ぬわけには——諦めるわけにはいかない。
「俺の、ターン——!」
ドローしたカードを見る。
◇
『スクランブル-緊急補給-』
種別:スキルカード
【条件】自分のセンチネルが破壊された場合
【効果】デッキから1枚ドローする。その後、手札からセンチネル1体を召喚しても良い。
◇
——駄目だ。これだけでは足らない。これもまだ、足掻きにしかならない。このままではやはり勝てない。後はもう——
最後の最後に、俺がその願いを理解するしか道はない。
「……俺はこれでターンエンド」
何もできない。いつしか、俺はそれが怖くなっていた。
それでも俺は、己が願望を見据えるしかなかった。もうそこにしか、活路は残されていなかった。
「よく足掻いた神崎。おれとしても、君の可能性を摘み取りたくはないが——この戦いはどうあれ決着をつけねばならず、おれはおれで、まだ職務を放棄するわけにはいかない。これでラストターンだ。
おれは念の為控えの戦闘不能願望騎を捨て札にし、新たな願望騎を手札から召喚。そして——」
願望騎が、再び剣を取る。
——今度こそ、終わりだ。このままでは。
「攻撃だ。その斬撃を以て、あの機械兵を虚ろな揺籠へ送り出せ——『
その昏き斬撃の後、黄金の機械戦士は砕け散り、黄金の武装のみが残される。
戦えるセンチネルを持たないプレイヤーにターンは回ってこない。このまま願望騎の追撃により、俺は死に至るのだろう。——だがそれは。
——だがそれは、手札にセンチネルが存在する可能性が完全に無くなった時!
「——まだだ! スキルカード『スクランブル-緊急補給-』発動! センチネルが破壊されたことにより、俺はカードを1枚ドローする! そして、その後、手札からセンチネルを召喚できる!」
「——ほう、最後の足掻きか。見せてみろ、お前の輝きを。それが昏いものであろうと、おれは祝福しよう」
——デッキトップに指を乗せる。その指先がいつになく震えているのが嫌でもわかる。
俺は何をここまで恐れている? 俺はそんなレベルで死が怖かったのか? そんなことはなかった。そんな精神性だったならば、俺はここまで勝ち続けていない。俺の戦いは、死を恐れていては出来ない程度には致命傷スレスレのものだったはずだ。札伐闘技に限らず、俺は今までこんなにも死を恐れたことなどなかった。
ならこれは、俺が死を恐れるようになった理由は——
——吹き荒ぶ死の暴風の向こうに、彼女の姿が見える——
——俺は、俺は。
月峰カザネ
自分にしか聞こえない
——瞬間、昏き光がカードを変えた。
「——沖田シゲミツ、攻撃をしろ。
俺は、何もしない、今はまだ」
「——何?」
シゲミツでさえいささか面食らった様だったが、それでも儀式はつつがなく進む他なく、願望騎による致命の一撃が俺の体を斬り裂く!
——ああ、これで終わり。ゲームエンドだ。
俺の心が、進んでいなかったならば。
「神崎の傷が塞がっていく……。
これは時の遡行——いや、違う。この黒い光は——おれの浸蝕結界と同質のもの。それでいて、虚無以外の感情で、接続したのか」
俺の体を復元するのは、深淵より齎された力。
その力を以て、俺はこの状況で新たなセンチネルを召喚する——。
「俺が敗北する瞬間のみ。このEXスキルカードはターンを問わず発動できる。
大穴より谷底へ、谷底より我が元へ。深淵より出し昏き光よ、我が剣に力を貸し給え——!
EXスキルカード、
『
俺の発動宣言により、戦闘不能状態の
それは黒き機械兵。赤き双眸を鋭く輝かせ、その剥き出しの体躯から無数の触手めいたワイヤーアンカーを蠢かせ、瞬く間に相手の願望騎全てに突き刺した。
「——そのカードは、こちらのセンチネル全てを攻撃するというのか?」
その問いに、俺はただ「然り」と答える。
「
「——全ての戦闘において、1ポイントの差で、お前のフェイタルイーターがあらゆるカードの介入を許さず一方的に勝利する。
——そうか、おれの負けということだな」
それにも俺はただ「然り」とだけ返し、あとは一方的にフェイタルイーターの鋭い手脚と牙が相手プレイヤー諸共喰らい尽くした。
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次回、『それから/再起の朝』
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