第206話 姉弟の壁

よりちゃーん、好きなのー、無視しないでよー」


「吹っ切れたしおくん強すぎじゃない? 依ちゃんが石像になってるよ」


 依に告白をした紫音しおんだが、ここ最近は依と距離をおいていたらしいのに、告白されて固まってしまった依の顔を覗いて楽しそうに構っている。


 見てるこっちは楽しくてたまらないけど、紫音は気づいているのだろうか。


蓮奈れなお姉ちゃんよ」


「なんだい舞翔まいとのぼっちゃん。そしてさりげなく私をお姉ちゃんと言うな、普通に照れる」


「そっくりそのまま返そう。それよりもだ。紫音は気づいていると思うか?」


「気づかないようにしてるのかも? それか押し通そうとしてるのでは?」


「なるほど。これは見ものだな」


 紫音のことだから全部計算通りなんだろうけど、恋は人を盲目にすると母さんに貰った本にも書いてあったし、もしかしたら一番大切なことに気づいていない可能性がある。


 蓮奈の言う通りで、それに気づいたら全てが終わる可能性があるから責め立ててるのかもしれないが。


「まーくん、依ちゃんがされて嫌なことってなに?」


 紫音の猛攻に無反応の依に痺れを切らした紫音が強硬手段を取る為に俺へ助けを求めてきた。


 だけどそれではまるで俺が依がされて嫌なことを聞かれたらすぐに答えられるように聞こえてしまう。


 まったく、俺をなんだと思っているのか。


「そうだな、今の依なら普通にボディタッチすれば反応するとは思う。今なら過激になればなるほどいい反応が見れると思うぞ」


「さすがまーくん。僕なんかが比べものにならないくらい依ちゃんのことわかってるね」


「どうしよう蓮奈。紫音からすごい圧を感じる」


「しおくんって嫉妬深いタイプだよね。私の知らないしおくんが見れてなんか嬉しい」


 それは同意見だけど、嫉妬の対象にされてる俺からしたら冷や汗ものだ。


 何せ紫音の目が笑ってないのだから。


「じ、自分で聞いてきたんだから睨まないでくださいよ」


「別に睨んでないよ? ただまーくんは依ちゃんのことよくわかってて羨ましいなーって思っただけ」


「目が笑ってないんすよ。あれです、紫音さんはこれから俺が知らない依を知っていくってことでご勘弁を」


「……」


「依さんのこと呼び捨てにしてすいません!」


 紫音さんの真顔が怖すぎて思わず土下座をしてしまった。


 冗談とかではなく、割と真面目に逆らえない。


「やだなぁまーくん。まるで僕がまーくんを脅してるみたいじゃん」


「そ、そんなことは……」


 土下座の体勢を変えないまま蓮奈の後ろに隠れる。


「器用だね」


「……お姉ちゃん、助けて」


「……舞翔君は私が守る」


 蓮奈の服を掴んで弱々しく助けを求めたら、蓮奈が俺の手を優しく握ってくれた。


 こんなにホッとしたのは生まれて初めてかもしれない。


 だけどなぜだろうか、握られた手が撫でられ、蓮奈の頬が紅くなり、更に蓮奈の息が乱れているように見える。


「おね……蓮奈?」


「違うでしょ? お姉ちゃんを呼び捨てにするなんて駄目じゃない」


「……助けを求める相手を間違えたか?」


「大丈夫、私が舞翔君をずっと守ってあげるからね」


 蓮奈の手つきが悪化していく。


 ちょっと表現したくないので言わないけど、なんか背中がいい意味でゾワゾワする。


 そして息が乱れた蓮奈が顔を近づけてくる。


 やるしかないようだ。


「お、お姉ちゃん。手を離してくれる?」


「嫌だよ? 私と舞翔君はこのままずっと繋がってるの」


「俺はもっとお姉ちゃんと繋がりたいな」


 俺がそう言うと、蓮奈が俺の手を離し、自分の服に手をかけたから脱がせる前に抱きしめる。


 そして耳元に顔を近づけ……


「お姉ちゃん、大好きだよ」


「……そんなこと言われたら姉弟の壁も越えちゃうよ?」


「あれ? 間違え──」


 気づくと俺は床に背中をついていた。


 顔の横には蓮奈の手があり、さっき俺が依にやったような床ドン状態だ。


「あの、お姉ちゃん、落ち着こう。それ以上はシラフになった時に後悔するから」


「大丈夫だよ。全部お姉ちゃんに任せればいいから」


「お姉ちゃんは俺の声なんて興味ないか……」


「私は舞翔君が相手なら後悔なんてないから」


 悲報、目がマジです。


 火に油を注いだのは俺だけど、不可抗力なんです。


 なので誰か俺を助けてください。


「怖くないからね。お姉ちゃんに全部任せてくれれば大丈夫だよ」


「お姉ちゃんは経験が?」


「……」


「あの、無視して俺の服を脱がそうとするのはやめてください。むしろ俺は安心したよ?」


「慰めなんていらない! だけど慰めて!」


 慰めとかではなく普通に本心なんだけど、興奮している蓮奈には何を言っても聞こえないようだ。


 どうやら助けも望めないようなので、どうしたものか。


「お姉ちゃん、変な男に騙されないでよ?」


「大丈夫だもん。だけどもしもがあったら怖いから初めては舞翔君がいいな」


「……それいいかも?」


「ふぇ!?」


 蓮奈が飛び上がって俺から離れる。


 さっきまで自分が俺を襲っていたのを忘れたのか、自分の体を手で隠すようにしている。


「ま、舞翔君がついに私の魅力に騙された……」


「ちょっと言ってる意味がわからないけど、蓮奈の初めては俺が貰うから、それまでは誰にもあげるなよ?」


「……変な意味で捉えていい?」


「いいわけないでしょ?」


 俺が言いたいのは変な男に引っかからないように、もしも何かに誘われても相手にするなと言いたいだけだ。


 もちろん蓮奈が心から信じれる相手ができたのなら俺が口出しすることはしないけど、蓮奈は押しに弱そうだから気をつけて欲しい。


「せめて真中まなか先輩には相談するんだよ?」


「舞翔君はシスコンすぎなんだよ」


「姉を大切に思ったら駄目なの?」


「真顔で言ったら駄目だよ。最近は春も秋もないから暑いよ」


 蓮奈が顔を手でパタパタ仰ぎながら言う。


 全部本心で裏とかはなかったけど、結果的に蓮奈からの拘束が解けた。


 つまりこれからは俺のターンだ。


「お姉ちゃん、冷え性の俺をあっためて」


「きゅ、急に抱きつくの禁止!」


「ごめんなさい……」


「あ、違うよ? 嫌とかじゃなくて、びっくりしただけだから。だ、だから……ぎゅー」


 俺が弱々しく謝ると、蓮奈が慌てた様子で俺を強く抱きしめてくれた。


 このお姉ちゃんはほんとに可愛い。


「お姉ちゃんあったかい」


「全部演技なのがわかってるのに、こんな可愛い舞翔君見せられたら抗えないよぉ……」


「演技じゃないよ?」


「こいつぅ……」


 もちろん演技です。


 半分ぐらいは素の可能性もあるけど、あくまで可能性であって演技です。


「お姉ちゃんは今の俺はやだ?」


「大好きですけど?」


「怖いよ……」


「ご、ごめんなさい。ちょっと強く言っちゃったね。私は今の舞翔君のことも大好きだからね?」


「ほんと?」


「うん。証拠としてキスとかそれ以上のこととかしようか?」


 蓮奈が俺の目をまっすぐ見つめながら言うので、多分このままいくと本当にしかねない。


 そうするとまた形勢が逆転されるので、こちらからやる。


「にゃ!?」


「可愛い猫さんがいるね」


 蓮奈に負けないように、キスはできないから頬同士を付けるチークキスをしてみた。


 これはこれでなかなかいいものかもしれない。


「嫌だった?」


「ご褒美すぎてお姉ちゃんは心臓が張り裂けそうです」


「痛い?」


「おかわりください」


 蓮奈がそう言って、さっきは右の頬だったけど、今度は左の頬を付ける。


 そしてさっきから無視しているけど、蓮奈の後ろに居る二人が視線に入る。


 なんだか呆れたような顔をしてる気がするけど、きっと気のせいだろう。


 とりあえず今は蓮奈の頬を楽しむことにしました。

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