第81話 色んな告白

「ただいまーとおかえりー」


「ほんとそれ好きな」


 水萌みなものいつもの挨拶を聞いてやっと全てが終わったと実感できた。


 結局は盛大なすれ違いだったけど、結果が良ければなんとやらだ。


 悠仁ゆうじさんとゆいさんの話を全面的に信じるのかということは、帰りに俺が母さんにメッセージを送ったら『信じていいよ〜』と、即返信がきたので信じることになった。


 悠仁さんからの連絡は全無視だったのは、きっとタイミングが悪かっただけだ。


「そういえば聞くの怖くて聞かなかったけど、全部勘違いで始まった水萌の一人暮らしって終わる?」


 水萌の一人暮らしはレンが母親(育児代行)から水萌を逃がす為に色々やった結果だ。


 だから、母親が唯さんで、唯さんが水萌を傷つける存在でないのなら一人暮らしの必要が無くなる。


「ちなみに怖い理由は?」


「だって実家暮らしになったら夜遅くまでうちに居るとか、頻繁にうちに来ることできなくなるだろ?」


 俺には普通の高校生がわからないからあくまで想像だけど、夜の遅い時間まで友達の家に居るのは親としてはあまりさせたくないと思う。


 いくら俺が送り迎えをするとしても、危険は危険だから。


舞翔まいとくんのおうちに来れなくなるなら私は帰らないよ。そもそも帰る気ないし」


「だろうな、オレも今更帰る気ないわ。なんか気まずいし」


「俺は嬉しいけど、たまに顔ぐらいは見せに帰ったら?」


 さっきと言ってることが真逆に聞こえるかもだけど、悠仁さんと唯さんだって水萌とレンに会いたいはずだ。


 実の親子なんだから、俺にその関係を引き裂く権利なんてない。


「舞翔くんが行くなら」


「そうだな、サキが行くなら」


「なんで俺も?」


「だって舞翔くんと一緒に居たいし」


「オレは普通に仲介役として」


「君らね」


 俺だって水萌とレンとはずっと一緒に居たいけど、せっかくの家族の時間に俺という部外者が居てどうするのか。


 レンとしてはまだ普通に話すことができないだろうからってのはわかるけど。


「何か問題あるのか?」


「俺は部外者だろ」


「なんで? 舞翔くんはどっちにしろ私達の家族みたいなものでしょ?」


「これは二対一になってるか?」


 さっきから水萌とレンが二人がかりで俺をいじめてくる。


「え、もしかしてまた延期にするの?」


「……」


「……」


 水萌とレンが同時に俺から視線を逸らす。


 どうやら俺への告白をうやむやにしようとしてたようだ。


「水萌が余計なこと言うから」


「どうせ舞翔くんは忘れてないもん。そもそも恥ずかしいのは恋火れんかちゃんだけでしょ」


「よく言う。それなら水萌が先にやるか?」


「そうやって私のせいにして自分は逃げるんだ」


「逃げてねぇよ。今回はほんとに」


 いつもの姉妹喧嘩が静かに始まり静かに終わった。


「うん、とりあえず部屋に行こう」


 ちょっと長い話が始まりそうだったので、それなら部屋に移動したい。


 何せ今はいつも通り玄関で話しているのだから。


「そうだな」


「うん、行く」


 いつもならもっと玄関で話しているのに、今日はすんなりと部屋に移動できた。


 だけど水萌とレンの様子がおかしい。


 水萌は俯いて、たまに俺の方を見て目が合うとすぐに逸らす。


 レンは俺のベッドに座り込んでレンカを抱きしめている。


 端的に言うと、可愛い。


「やめるなら今だよ?」


「やめないよ。ただちょっと待って」


「オレも。なんでもないように言えたサキを尊敬してるとこだから」


 別に俺だって何も思ってなかったわけじゃない。


 確かにレンに初めて告白した時はその場のノリで言っただけで深くは考えてなかったけど。


 それでもちゃんと理解してからは辛かった。


「俺は振られる経験までしたんだから頑張れ」


「別に振って……言い方的に振ってるのか」


「マジで落ち込んだから」


「ほんとにごめん」


「ていうかさ、俺はこれから水萌とレンの二人から告白されるの?」


「そうなるかな? 水萌がやらないならオレだけになるけど」


「やるもん。私だって頑張ったんだから」


 水萌は未だに俺の目を見れないでいるけど、やる気はあるようだ。


 だけど俺としては困る。


 二人から告白されるということは、どちらかの告白を断らなければいけないということになるから。


 そして俺の気持ちはもう既に決まっている。


「長引かせても仕方ないよな。水萌、オレはやるけど、どうする?」


「やる、多分一緒にやらないと意味ないから」


 レンが立ち上がると水萌も立ち上がり、二人が俺の正面に座る。


「オレからでいい?」


「うん」


「いざとなると怖いな。無難に済ませたい」


「凝ってくれるの?」


「そりゃ、サキだってちゃんとしてくれたんだから」


 真面目だ。


 別に俺は気持ちさえ本当ならどんな言葉でも嬉しいのに。


「よし、まずなんだけど、オレはサキに隠してることがある」


「ん? そういう告白?」


「違うよ。ちゃんとするから待ってて」


 まさかの『愛の告白』ではなく『真実の告白』をされるのかと思ったけど、どうやら違うようだ。


 だけどレンが俺に隠してることなんて想像がつかない。


「えっとな、オレがサキと初めて会った時に絡まれてたじゃん」


「そうだな」


 俺がレンと初めて会った時にレンは三年生らしき三人組に絡まれていた。


「まさかの自作自演?」


「んなことしないわ。まあ半分は合ってるんだけど」


「つまりあの状況は自分で作ったけど、演技はしてないと?」


「なんで惜しいところまでいくのか。あの三人組は完全に想定外。オレさ、あの時サキのこと待ってたんだよな」


「俺を?」


 あの日はまだレンと知り合ってないから待たれる理由がない。


 レンの反応だって初対面のそれだったし、やっぱり俺を待つ理由がわからない。


「オレさ、サキが昼休みを過ごしてるとこを見れる位置にいたろ?」


「うん」


「あそこさ、四月から使ってたんだよ」


「だから俺を知ってはいたと」


 俺もレンと同じく入学してから水萌と話すまでずっとボッチで、あの体育館裏をずっと使っていた。


 だからレンが俺を知っていたというのはわかる。


「だけどそれでなんで俺を待つんだよ」


「思わなかった? 偶然が続くって」


「思ったな」


 あの日はレンだけでなく水萌とも仲良くなった日だ。


 ずっとボッチだった俺に二人も、しかも同じ日に友達ができるなんてすごい偶然だ。


「え、まさか嫉妬したの?」


「オレが説明してんだから答えを言うなバカ」


 レンにデコピンをされた。


 どうやら俺のことをずっと見てたレンだけど、あの日、俺が水萌と仲良くなったのを見てて嫉妬したから俺を待っていたらしい。


 可愛すぎるだろ。


「じゃあたまたま水萌と会ったってのは?」


「サキはボッチだから待ち伏せしないと先に帰られると思ってサボる理由探してる時に見つかった」


「そこは偶然なんだ」


「あれは私が失敗しちゃったの。舞翔くんっていうお友達ができて嬉しい気持ちを恋火ちゃんに伝えたくなっちゃって、だけど恋火ちゃんに近づくことはできなかったからウロウロしてたらね」


 普通に告白されて俺がそれに答えて終わるのかと思っていたら、色んな告白が出てくる。


 叩けばもっと出てくるのではないだろうか。


「つまりレンはボッチ仲間の俺に友達ができたのが嫌だったと?」


「ボッチ言うな。ちょっと違う。オレはあの時からサキが好きだったんだよ」


「いきなりぶっ込むな。ドキッとしただろ」


「オレもさっきわかったんだよな。ずっとわからなかったんだよ、なんでオレはサキを見てたのか」


 確かにいくら同じボッチだからといっても、ボッチは他人に興味がない。


 ある人もいるだろうけど、少なくとも俺とレンは違う。


 なのにレンが俺を見る理由がない。


 いくら見えても視界に入れない方法はいくらでもあるのだから。


「多分さ、赤ん坊の時に遊んでたのが無意識にそうさせたんだよ。そんで無意識に好きになって、水萌っていう『女子』と一緒に居ることに嫉妬した」


「それが俺と一緒にゲーセンに行った理由?」


「そうなんだろうな。とにかくサキと一緒に居たかったんだよ。理由はわからなくても無意識に体が動いてた」


 レンが少し照れくさそうに言う。


 俺もずっと気になっていたことがある。


 なんで水萌とレンには拒否反応がないのか。


 おそらくレンと同じ理由だ。


「俺もレンと水萌を心のどこかで覚えてて、だから一緒に居たいって思えたのか」


「多分な。とにかく、それがオレのサキを好きな理由。これを告白としていいか?」


「うん。ありがとう」


 十分すぎる告白だ。


 だけどまだ終わらない。


「次は水萌だぞ」


「……」


「水萌?」


「え? あぁ、そっか。んー、私はいいや」


 レンに名前を呼ばれた水萌が上の空になっている。


 笑顔ではあるけど、どこか違う。


「ここまできてやめるのかよ」


「思ったんだけどさ、私が今告白しても絶対に振られるだけじゃない?」


「それはわからないだろ。そもそもそうならないように水萌も頑張ってたんだろ?」


「そうだけどさ、それは恋火ちゃんが選ばれるのをわかってるから言えることでしょ?」


「それは……」


 レンが図星をつかれたように黙り込む。


「だから私はもう少し待つことにしたのです」


「と言うと?」


「今は恋火ちゃんを好きな舞翔くんだけど、それが永遠とは言えないでしょ?」


「うわ、タチ悪」


 水萌の発言にレンが悪態をつく。


 まあ要はレンが飽きられるのを待つと言っているのだから。


「私はそれだけ本気ってこと」


 水萌の表情は真剣そのものだ。


 少し怖いぐらいに。


「なんてね。冗談……ではないけど、舞翔くんが恋火ちゃんと恋人さんになっても、私は舞翔くんを諦めないよってこと」


「まあそれでサキを取られるなら仕方ないよ。オレにそこまでの魅力がなかったってことだし」


「余裕でいられるのも今のうちだからね。とにかく今回は恋火ちゃんの勝ち。だけど勝ち逃げはさせないから」


 水萌はそう言うと立ち上がった。


「今日は帰るね」


「なんで?」


「恋人さんになったんだから二人で一緒に居ないと。それに今そうしておけば私が舞翔くんと恋人さんになった時に恋火ちゃんもそうしてくれるでしょ?」


「水萌って恋愛のことになるとなんか黒いよな」


「知らないもん」


 水萌か拗ねたようにそっぽを向く。


 ところどころに水萌らしさはあるけど、なんだか違和感はある。


「とにかく今日は帰るね。明日からはいつも通りだから」


「そういうことか。わかった、オレは帰らない方がいいか?」


「うん、私は舞翔くんのおうちにお泊まりしたから、恋火ちゃんもしないと。そうじゃないと私がまたお泊まりできないから」


「ここに泊まるかは置いといて、とりあえず今日は水萌の部屋に帰らないよ」


「うん。じゃあ恋火ちゃんは舞翔くんとお風呂に入ってね」


「……善処する」


 レンが渋い顔で答えると、水萌が嬉しそうな顔をする。


 そして水萌は本当に帰って行った。


 残された俺とレンは少し気まずい雰囲気になる。

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