17話。 疲れましたわ。
サイロはいつものように気軽に話しかけてはこない。
わたくしも今はそっとして欲しいと思っていた。さすが長年護衛騎士としてそばに居てくれるサイロ。
今だけは誰にも同情されたくない。
ーーでもわたくしのことを心配してくれるのはサイロとウエラ、そして先生くらいかしら?
自嘲気味に笑う。
「家令はネックレスを渡してくれるかしら?」
「脅しましょうか?」
「物騒なこと言わないで。サイロが捕まったらわたくしお友達すらいなくなってしまうわ」
「お嬢は、自分の感情を表に出すのが苦手なんで周りのご令嬢が怖がって話しかけづらいんですよ。貴方は綺麗過ぎるんですよ」
「ふふ、サイロからそんな素敵な言葉をもらえるなんて、嬉しいわ」
今から家令と向き合わないといけない。そう思うと気が重かった。サイロがそばに居てくれる、それだけでも気持ちが軽くなる。
家令はわたくしが結婚の準備をしているとお父様に伝えていた。何もしていないのに……贅沢をしている?ほとんどお金は使っていない。
ドレスなんてお母様のものをウエラが手直ししてくれているんだもの。
宝石だってお母様のもの。
どうでもいいわ、あの人がわたくしのことを傲慢で我儘な娘だと思っているのならそのままにしておこう。
今更言い訳しても、その時間が勿体無いし馬鹿らしい。家令のことはついでに弁護士にお願いしておけば解決するだろう。
屋敷に帰るとすぐに家令を呼び出した。
「今お父様にお会いしてきました。お母様が亡くなるまで付けていたネックレスをわたくしが譲り受けることになりました。貴方が管理していると聞いたわ。渡してちょうだい」
家令は一瞬青い顔をしたがすぐにいつもの冷静な顔に戻った。
「旦那様にそんな話は聞いておりません。旦那様からの指示がなければお渡しすることはできかねます」
「そう言うと思ったわ。今サイロにお父様からの手紙をもらいに行ってもらっているの。用意をしておいてちょうだい、後で貰い受けるから。わかったかしら?
あ、それからわたくしがドレスを頼んでいるらしいのだけど、見積書も見せていただけるかしら?」
家令は大きく目を見開いてワナワナと震え出した。
ーーいい気味だわ。わたくしのことを悪者にして貴方はどれだけのお金を着服したのかしら?
わたくしがいなくなればこれから必死で貴方自身、さらに嘘で塗り固めなければいけなくなるわ。バレないようにできるかしらね?弁護士にわからないように隠し通せるかしら?
「………見積もり?」
「ええ、お父様がわたくしのウエディングドレスと宝石を注文したと言ってたの。わたくしは注文していないから貴方が代わりにしてくれたのでしょう?感謝しているわ」
そう言って家令に微笑んだ。
家令は「………失礼します、ネックレスを探して参ります」と言って慌てて去って行った。
サイロがお父様の手紙を持って帰ってくれるまで部屋でゆっくりと過ごそう。
気が張っていたのか、とても疲れた。
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