桜の時期に祭を思う
私の住む街の祭りには、山車を曳く曳き子の希望者が多すぎて困るくらい。
多くの田舎の祭りは若い後継者不足に悩んでいる昨今、稀有な例として新聞に載っていた。
当然、熱狂的なヤマキチと言うのがいて、三日間の祭りの間は全てを投げ打って祭りに没頭する。
どんなに遠くの町に行っていても帰ってくるし、普段おとなしい人間がその祭りの間は陽気で騒々しい人間に豹変する。
祭りが終わると彼らはかすれた声をもったおとなしい目立たない人に戻る。
私は祭りのある旧町内から外れた所に生まれ育ったので、羨望の混じった冷静な目で見ていた。
桜の花が咲いている。
遠くの山にもポツリポツリと桜の花が見える。
近所の思わぬ所に桜の木があることに気づく。
桜は花の季節にだけその所在を明らかにする。
花が散ると桜は又風景の一部となる。
桜の季節がくると季節は違うのにヤマキチのことを思い浮かべる。
目立たない日常と年に一度数日の晴舞台。
私はかすかな嘲笑といくらかの羨望を覚える。
そうではない自分への安堵と落胆。
桜の花が咲いている。
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