第35話 んん……、まあ賢者って面構えじゃないよねえ

朝、かなり早い時間に、旅館の朝食をいただいて、それから異世界に戻る。


「さて、移動するぞ」


「えっ、その、わたくし、もっと賢者様の世界を見て周りたかったのですが……!」


おっと、リリーベル様がわがまま言い始めたぞ。


「そんなことしてたら永遠にキマリシア王国に着かないでしょ!」


めっ!だよ。お尻ぺんぺんしちゃうぞ。


「うう……」


「まあ、夕方からは飯食いに連れてってやるから、それで我慢しろ」


「はい!」


そんな訳で、車モードのリーゼに乗り込む。


自動運転でブーン!俺も運転できるけど、リーゼに任せた方が安全安心だ!


うーん、リーゼが思ったより速いな。


馬車の数倍は速いと試算したが、それは、自動車の利点を見てのこと。


即ち、馬車と違って休ませる必要がなく、物理的に速度も速く、揺れにくいので気分が悪くならず長時間移動できる、というこの三つのアドバンテージ。


だがしかし、リーゼは、俺の思っている以上に速く、安定していた。


普通は、このような所謂オフロードを走ると、石やら何やらを踏んでガッタガタに揺れるものだ。


だが、リーゼは全く揺れない。戦艦エンタープライズのような安定感だ。ついでに言えば、乗っている俺達はGすらも全く感じない。


速度も、精々三、四十キロくらいだと思っていたのだが、高速道路並みのスピードで飛ばす。


こりゃあ、確実に予定より早く着くだろうな。


それなら、ちょっとくらい観光をたくさんしても良いかもしれんわね。




午前中はずっと移動をしていたが、馬車の十倍くらいのスピードで移動しているので、この分だと……、一日中移動すれば一週間もしないうちにキマリシア王国に到着するとドミニクが言っていた。


なので、予定を変更して、午後からは日本観光をする事とする。


午前早くに移動、午後は観光。夜は日本の宿で寝る。


そんなサイクルでゴールデンウィークを過ごす。


京都で寺巡りしたり、上野動物園に行ったり、後はリリーベル様が海を見たいとか言ったので沖縄に行ったりした。


それと、ディスティニーランドに連れて行ってやったらアホほど喜んでたよ。リリーベル様が。


ディスティニーキャラの絵本とかを買ってやった。


え?文字が読めない?


そんなもん、本に『トランスレートポーション(翻訳薬)』をぶっかけりゃ良いんですよ。


リリーベル様は、何を見せても馬鹿みたいに喜ぶので、反応が面白過ぎて連れ回すのが楽しいな!


が、それもこれで終わりだ。


ゴールデンウィークの最終日である今日、やっとのことでキマリシア王国に到着した……。




キマリシア王国の王都たる『キマリシア』に到着した俺達は、長蛇の列ができている一般人用の門ではなく、貴族用の入り口に行く。


ほへー、空港みたいな感じなんだな。


一般人用のゲートと、VIP用のゲートで分かれてるんだ。


「何だ?!」


「と、とと、止まれーっ!」


まあ当然、止められるわな。


門兵数人が槍を持って囲んできた。


だがそこで、車から降りたリリーベル様が、兵士達に一声かける。


「兵士さん、お勤めご苦労様ですわ。話の分かる方をお呼びになっていただけるかしら?」


あからさまに高貴な存在であるリリーベル様を見た門兵達は、即座に隊長を呼んでくる。


やっぱりオーラが違うもんなー。


俺は庶民派だから庶民オーラが出てるもんよ。


実際問題、中世レベルの生活しかできてないリリーベル様より、現代日本で生きてる俺の方が豊かだよ?


でもね、やっぱりこう、王族とかの生まれながらにして他人に傅かれる人間は、オーラが出てますわ。


俺、親の仕事の関係で、天皇陛下とか英国の女王陛下とかに会ったことがあるんだけどね、やっぱりあの辺の偉い人らはオーラが違うぞマジで。


あー、そんで、だ。


隊長らしき、鉄兜に飾り布がついたおっさんが来たんだけど、そいつはリリーベル様の顔を見るや否や……。


「リリーベル様?!!よ、よくぞご無事で!!」


と、そう言った。


流石に、隊長レベルともなると、王侯貴族の顔くらいは知っているってことか。


そしてこの口振りからすると……、やっぱり行方不明扱いだったんだな、リリーベル様は。


「お父様は、お城にいらっしゃるかしら?」


「はい!いらっしゃります!では、城まで護衛をつけるので……」


「ありがとうございますわ。でも、護衛は結構です」


「な、何故……?!」


「だって、ここに一番強い護衛がいるんですもの!」


そう言いながら、再び車に乗り込むリリーベル様。


別に護衛になったつもりはないけど、可愛いので許しちゃお。


まあ良いや、城とやらに向かおうか。




城に突撃。


街人も、城の門兵もみんなビビり散らす。


俺達はリーゼから降りて、リーゼに変形させて後ろを歩かせているのだが……。


「鉄の巨人だ!」


「巨体の戦士だ!」


「エルフだ!」


「「「「う、うおおおおおお!!!」」」」


それは、リリーベル様が、6mくらいある巨人(リーゼ)と屈強な戦士(俺)と珍しいエルフ(セシル)を従えているかのように見える訳で。


リリーベル様は、うるさいくらいの歓声の中、凱旋するかのように帰宅した訳だ。


騒ぎを聞きつけて、王様が王城の前で待ち構えていた。


「リリーベル!」


「お父様ー!」


王様……、中年にしてはそこそこにしっかりした身体の、三十代後半くらいのおっさんだ。


あれだね、イケオジってやつ?


歴史が積み重なっているのであろう、古びた王冠。ビロードのマント。赤を基調とした服。


そんな格好なんで、イケオジ感も薄れるね。


で、まあ、王様は娘のリリーベル様を抱きしめて、と。はい、感動感動。


だが……、ふむ?


王様らしきおっさんが、一瞬こちらに鋭い視線を向けてきたのを見逃すほど、俺とセシルは鈍くなかった。




リリーベル様は、王様の胸から顔を離すと、即座に報告を始める。


とは言え……。


「お父様!お父様!賢者様に助けていただきました!賢者様は凄いのですよ!賢者様に賢者様の世界に連れて行ってもらいました!」


と、捲し立てるように、興奮した様子で語るのはなあ。支離滅裂だ。


だが、王様は流石王様。


「うん、うん、そうかそうか。まず、王都に帰るまでの道中に何があったのか聞かせてくれるかな?」


と、冷静に聞く。


「えーっと、サザーランド伯爵の護衛に見捨てられたそうです!」


王様が一瞬、鬼のような憤怒を見せる。


「ほう……、サザーランド伯爵がか」


だが、それは本当に一瞬で、すぐに子煩悩な親の優しげな顔に戻って、続けて問いかける。


「見捨てられた?それはおかしいな、サザーランド伯爵はとても良い家臣だぞ?」


「それは……、まず、平原でいきなりワイバーンに襲われたのです!そして、サザーランド伯爵が手配してくださった護衛の方々は、助けを呼ぶと言って逃げてしまいました!」


「……ふむ。それで、ワイバーンに襲われた時に、護衛の騎士達は戦ってくれなかったのかい?」


「はい!」


「……そうか」


おっと、王様、ブチ切れてるわあれ。


やべー顔してるもん。


「……なるほど、よく分かったよリリー。サザーランド伯爵は、パパが『お説教』しておこう」


『お説教』ですね分かります。


「さて……、賢者様と言ったね?そちらの方々に助けていただいたのかな?」


「はい!黒い鎧の方が賢者様で、エルフの方は賢者様のご友人、鉄の巨人は賢者様の使い魔だそうです!」


「……んん?鎧の方が賢者様なのかな?」


「はい、そうです」


「え?!鎧の方?!」


「はい?そうですよ?鎧の方が賢者様です」


あ、俺、なんか黒くて禍々しい鎧を着てるけど、これはこの前にコスプレ鎧をランクアップさせて作った鎧な。


なんか、神器的なアレになってるらしく、なんやこう、やべー感じのオーラが出てるよ。


俺のガタイも相まって、賢者と言うより拳者だな。


「んっん……、分かったよ。鎧の賢者様か……」


「はい!賢者様は凄いのですよ!」


「うん、うん、分かったよリリー。だが、賢者様をお待たせするのは良くないだろう?とりあえず、詳しい話は城の中で聞こう」


「あ……、わたくしったら!ごめんあそばせ、賢者様!お城の中でお待ちになっていただけますか?お礼の話をしますから……」


うむ。


「分かった。じゃあ、庭にいるから、話が終わったら呼んでくれ。但し、話が長引くようなら俺は帰るぞ」


「ええ!分かりました!」


俺達は、庭にテーブルを出して、そこでおやつタイムだ。

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