放っといてくれないかな
気が付けば、私は家族に初めて発動した絶対音幹を、友人に対しても無意識に使いはじめていた。するとどうだろう、皆との距離を感じるようになる。それは本人達が「ネガティヴキャンペーン」を口にしたわけではない。でも皆が発する声や音の奥底に「気色悪い」「見透かされるのが鬱陶しい」といったマイナスな心象が見え隠れし、最後は「関わりたくない」という判子を押され、遠くに行ってしまう事が一気に増えた。
少し心が詰まったと感じ、誰かに相談したくなった。候補は何人かいたが、その中でも私は部長に連絡を取り、少し話を聞いてもらう事になった。
「考えすぎだよ、それは」
誰に相談してもこの答えが返ってくると思っていたが、実際にそうなると少し寂しかった。もちろんだが、彼に悪気などは一切ない。それでも彼なら「それ」を超えてきてくれるかもしれないと思っていた私がいた。何様のつもりだと思われるかもしれないが、ココ数ヶ月で部長という人物を、人として好きになって来たからこそ「期待値」が高くなってしまったのかもしれない。そしてそれは近くにいる人全員に対してであると、私は自らに気付かされることになる。
恐らく「皆が正常」なのかもしれない。絶対音幹なんて持ち合わせていないのだから。だから理解してほしいなんて全く思っていない。でも概念は認めてほしい。個人として尊重してほしいだけなのに。誰も私の感じていることを肯定すらしてくれなくて、変人扱いされ始めたことが不服だった。説明すればするほど、相手に響かなくなると同時に「不穏な空気」と「不穏な心音」だけがその場に影を落としていく。最後にはそんなのは被害妄想だと言われることも増えた。
「違う」 「違う」 「違う」
「何でわかってくれないの」
そうして私は孤立していった。
小さいテリトリーでの話ではなく、それはもう社会的に。
一つの領域と二人の理解者を除いて。
私は他人に期待することをやめよう。
私の理想としている人間像の基準を下げよう。
私はもう、独りで居たいから。
私の事は放っといて。
あなた達にはきっと解らない。
日没の時間が一気に早くなってきた気がする10月末の夜。しずく邸のスタジオとして使っている部屋で、私は珍しく一人でお酒を飲んでいた。
美しい心友が来るのを待ちながら。
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