第86話 黒鉄
マイクが戦う音を背に、
俺たちは先を急ぐ。
進むにつれて廃墟が増え、
とうとう切り立つ岩壁しかなくなった。
あのポーション事件のときと比べて、
草や苔が伸びて自然が豊かになっている。
「もうすぐだな。
藤堂、気を引き締めて往こう。」
「おうとも、往こう。」
俺たちは岩壁の上に飛び上がる。
高層ビルの屋上と変わらない高さだ。
景色は良いが、風が強い。
「警戒。
何か来ます。」
ネルが注意を促す。
俺もその何かを見つけた。
「何だあれ。」
藤堂が銃をかまえて、呟いた。
崖をよじ登って現れたのは真っ白なマネキンのような軍団だ。
服を着ていて身体は見えないが、
顔には凹凸がなくのっぺりしている。
大阪で見たバイコーンやケイローンに感じが似ていた。
藤堂が呆れながら言う。
「現実味が無さすぎて、イラストみたいだな。」
「非常口の人だろ。」
「緑色ならジョーなんだけどな。」
結構な数かいる。
ネル曰く、千以上いるみたいだ。
これが向こうの最終防衛ラインか?
「いかがかな?
それらは“魔法使い”とは違う成功体だ。」
老人の声がどこからか聞こえてきた。
「コイツらは魔法を使えないが、
パワーとタフネスはこちらの方が高い。
前衛タイプだ。
特筆すべきは人間の頃の動作ができること。
かまえろ。」
マネキンどもが銃をかまえる。
俺はその姿にどこか既視感があった。
「コイツら、AHOの隊員か?」
「その通り。
カカシどもも、こうすれば使えるコマだ。」
そう言って老人が笑う声が響いた。
突然、田園調布ダンジョンの光の塔が点滅を始める。
ミタニさんが声を上げた。
「ケイローンの時と真逆の反応。
ダンジョン災害の壁を作ろうとしてる?」
「その通り!
この地球を! 全て! ダンジョンにする!
そして、私が、そのダンジョンのボスになる!
ダンジョンボスは死んでも蘇る! 不死だ!
そして、
ボスはそのダンジョン内の全てを統べることができる!
私が! 私こそが! この星の神になるのだ!」
老人の高笑いが続く。
「大阪での実験はお前らに邪魔されてしまったが、
データとしては十分取れた。
財前を殺せたのは運が良かった。
あれがきっかけで、
“魔法使い”の施術をスムーズに広められた。」
なるほど。
こいつの狙いはわかった。
地球規模のダンジョンは楽しそうだ。
だが、こんなやつに統べられるのは勘弁だ。
「断固阻止だ。
藤堂、往こう。」
「待て、櫻葉。
多勢に無勢だ。
突っ切るのも得策じゃない。
たどり着く前に櫻葉の体力を奪う作戦だろう。」
「何かプランがあるのか?」
「バックアップを呼んだ。」
空に大きなドローンが四機飛んできた。
なるほど、援護か。
俺はそう思ったが、
ドローンたちは突然変形を始めた。
変形したドローンとドローンが合体していく。
突然始まったロボットアニメ真っ青な変形合体シーンに、
俺も含めてこの場の全員が戸惑う。
藤堂すら困惑気味に呟いた。
「待って。
俺の思ってたバックアップと違う。
ドローンの爆撃とかだと思ってた。」
「小田さんたち、何したんだ?」
組み上がったのは、
蜘蛛足の四足歩行型ロボット。
大きさは八メートルくらい。
右腕には大きな盾にドリルが二本付いている。
左腕にはガトリング砲が二門。
背にコンテナのようなものが付いており、
ガトリングと繋がっている。
あれは弾薬庫か?
さすがに敵兵たちが銃を撃ち出す。
俺はロボットと敵兵の間に立って盾になる。
ガーネットがすかさずバリアを展開した。
「フハハハっス!
本当はお兄さん用の外部装甲ユニットとして作ってたものを、
ダンジョン仕様にできなかったからジュニア向けに改造したっス!
これぞ! 対モンスター重装備っス!」
無線から小田さんの声が聞こえた。
「ソイツの胸のハッチを開けて乗り込むっス!
ジュニアの精神感応装備とリンクして、
身体と同じ感じで動かせるっス!
サブアームは時間がなくて無理だったんで、
これで勘弁して欲しいっス!」
よし、さすがに怒ろう、
と思っていたが役立ちそうなのでスルーだ。
藤堂はロボットの胸のハッチを開けて乗り込んだ。
「立ち上がれっス!
我らのブレイブキング!」
「各所から怒られそう!」
藤堂がそうツッこみながらロボットを起動した。
ガトリングをかまえて、
俺越しに敵兵に向けてぶっぱなす。
枯れ葉をなぎ払うように敵兵たちが吹き飛んでいく。
「乗り込んでわかったけど。
これロボットというか、
でっかいパワーアシストスーツじゃん!」
「ヘッドカメラがやられたら、
ハッチが外せるっス!
顔が露出するっスけど、
目視でも動作可能っス!」
「それも怒られそう!」
俺はロボットの前から飛び退いて、
敵兵たちに向かって駆け出した。
思った通り、あれくらいでは回復されてしまう。
ちぎれた四肢がひとりでに動きだし、
近くの欠損した胴体へくっついていく。
試しに俺も何体か殴ったが、
敵兵の回復速度は変わらない。
「元々どの身体のパーツだったのか、
関係なくくっついてるな。」
「“血液”がなくてもこれなら動ける。
大きな損傷箇所を切り捨てれば、
数は減っても個の力は変わらない。
倒すには、全身を木っ端微塵にするしかないぞ?」
明らかに俺の消耗を狙った戦術だな。
すると、藤堂が前に出た。
「それなら、こうだ!」
藤堂はシールドバッシュの要領で高速回転する盾のドリルを敵兵に押し付け、
蹴散らしていく。
確かに、敵兵の身体はズタズタになり、
目に見て回復が遅れ出す。
「よし。
ここは俺が切り開く。
櫻葉は温存して、アイツ殴ってこい。
俺もマイクが来たらそっちに往く!」
「フラグか?」
「違う!
倒しきったらすぐ往く。
それに、お前がアイツを殴って止める方が早い。」
「うちらも今、そっちへ向かってるっス!
マイクちゃんはこっちで合流するっス!」
それなら任せられる。
俺は合体している三人に藤堂へバフを盛るよう頼む。
「藤堂。
バフを付与した。
約十分間だ。」
「ありがとう。」
敵兵の真ん中に突っ込んでいく藤堂のロボ。
俺はその後を突っ切って光の塔へ向かう。
光の塔の近くには、
いろんな施設が建てられていた。
「光の塔に近づけないのは嘘だった、
って言うことは何となく分かってた。
でも、ここまで整備済みだと驚くな。」
俺は思わずそう呟いた。
ちょっとした町くらいに整備されていたからだ。
ネルに調べてもらうと、小さな魔石発電所まである。
「ライフラインも食料も、
何もかもここで独立して賄えるようになってますね。
小さい国くらい設備が充実してます。
被服もここで製造してますね。
外から取り込んでたのは被験者だけ、
という感じです。
とびきりは、あの建物です。」
ネルはそう言って、
光の塔を囲うように建てられた建物を指した。
「あそこにあの老人がいます。
やっぱり、
ダンジョンの壁の光もあそこから塔へ射出されてるみたいです。」
「それにしても、ひと気がないな。
モンスターかなにか配備されてないのか?」
俺は警戒しつつ塔へ近寄る。
「周囲に動く反応なし。
罠も見当たらない。
私と私たちで調べてたけど、
これ自体が罠だと思う。」
何となくミタニさんの言うことは分かるが、
どういう意図の罠かまで読めない。
俺をここへ呼び込むため、にしては雑過ぎる。
誰でも良いからここにたどり着くように。
でも、モンスターは道を塞ぐように配備する。
「急がないと地球をダンジョン化される。
考える時間も材料も少ない。
敵の良いようにされてる感じだ。
べらぼうに腹が立つ。」
俺はそう言いつつ塔の建物の入り口まで着た。
「扉の鍵は開いてます。
ガーネット様、
ミタニさんと私で周囲を調べるので、
アルジ様をお任せします。」
「分かりました。
“賢者”さん、私のところへ戻ってください。」
大きな鉄扉だ。
“触手”で巨大化して、
四足歩行している俺でも余裕で通れる。
鉄扉に近づくだけで勝手に開いていく。
自動扉だったのか。
建物内は窓がなく、
真っ直ぐ一本道が続く。
罠で確定だろう。
「先に進む。
警戒しつつ、急ごう。」
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