触手とダンジョン攻略

桃野産毛

第1話 現代ダンジョンと生活

 ダンジョン。

突如現れ、大災害を及ぼす天災。

その反面、制圧すればこの世では手に入らない素材、エネルギーを手に入れることが出きる。

 ある日突然、アメリカに現れた第一のダンジョン。

今では世界各国に数百ヵ所あり、時折新しいものも生まれている。

 幼いながらにテレビで観たダンジョンアタックの様子は、今なお自分の中にある。

憧れや夢は胸を焦がし、消えない炎とよく例えられるが、実体験として同意する。

 どんなに貶められてもそれだけを希望に生き延びた。

運良く救われた現在でも、その気持ちは消えていない。


 満16歳になったらダンジョンへの入場が許可される。誕生日が7月1日の俺にはうってつけだった。

高校一年の夏休み初日にダンジョンの講習を受け、ハンターとして登録した。


「大丈夫なのか? 命をチップにリスクしかない賭けをするようなもんだろ。」

「それを分かっていて、登録した。お前とおじさんにも去年から話してたろ。」


 幼馴染みの藤堂と電話で話す。

俺はキッチンで飯を作っているので、イヤホンマイクを使っている。


「お金は心配しなくていいって、親父も言ってたろ。」

「金が欲しい訳じゃない。

そりゃ、副次的なものとして欲しいが。

そもそもハンターは俺の夢で目標だ。

今日のために身体を鍛えて、食事も気を遣ってる。」


 フライパンで炒めているのは豚肉とブロッコリー。

にんにくとオイスターソースで中華風に味付けする。


「料理の腕は超一流なんだから、そっちで生活すりゃいいのに。」

「これはまさに副次的なものだ。

身体を気遣ってたら、勝手にそうなった。」

「それを才能って言うと思うんだけど。」

「先人やプロのレシピ通りに作ってるだけだ。」


 白米と玄米を8対2で混ぜて炊いたものをどんぶり鉢によそう。

炒めていたものを米の上に盛る。


「音しか聞こえないのに、確実に旨そうなんたけど。」

「何作ってるか知らんのに、よく言うな。」


 緑黄色野菜を中心にみじん切りしてつくねと一緒に炊いた鶏ガラスープを器によそう。


「ハンター、というよりはモンスターとの闘いが目当てだ。

戦闘狂、と呼んでくれて良い。」

「それはちょっと分かる。自己表現、て言うか。」

「誰も見てない自己表現か。副次的なものは何もないぞ。」

「戦闘相手は見てるだろ。後、金が儲かる。」


 なるほど、確かに。

だが、ちょっと違う気がする。


「全力を出して、殺し合う。

狂人と呼ばれるだろうな。

抗えない欲求のようなものだと感じてる。」

「むしろ男の子の夢の果てみたいだ。

戦国時代なら、英雄になれそうだな。」

「父さんが死ぬ前からそうなんだ。

生来のものだと思ってる。」

「なら止めようがないな。

無理すんなよ。」


 食卓に食事を運んで椅子に座る。


「そろそろ切るぞ。冷める前に食べたい。」

「個食てか、孤独食はオススメしないぞ。じゃーな。」


 藤堂から電話が切られた。

狂っている自覚はある。

気を取り直して、空腹に任せて食事を始めた。



 朝からダンジョンの入り口に併設された役所へ向かう。

着くやいなやダンジョンの入り口脇に集められ、バットのような棍棒を渡される。

 ダンジョンのモンスターは徒手空拳か、

ダンジョンにある素材をダンジョン内で加工した武具による攻撃以外受け付けない。

徒手空拳もグローブ等なしの素手でなければ無効化される。

ダンジョンの外で作られた武器では、例えミサイルだろうとモンスターにダメージを与えることができない。

 注意説明が終わったらダンジョンへ入る。

このダンジョンは洞窟型で、道幅や天井の高さが所に依り大きく変わる。

一番広いところで集められ、そこにいるモンスターへ順番に攻撃する。

モンスターを仕留めると自分のステータスがみれるようになり、運が良ければスキルが付与される。

 列に並んで、用意されたスライムを棍棒で殴る。

潰れたゼリーのように崩れて消えるスライム。

流れ作業の工場のように順番に殴る様は緊張感の欠片もない。

 無事に自分のステータスがみれるようになり、

列から離れ別の集合場所に誘導される。

 ふと他の参加者を見ると、一撃で仕留めきれなかった人は何度か殴って止めをさしている。

棍棒での攻撃は慣れない人には意外に難しい。

訓練してないのに殴りなれている人間と言うのも素行に問題があると思うが。

 集合場所に向かうと受講者が三十人程いて、

ある程度グループができていることに気づく。

青田買いで新人を勧誘しているクランがあるようだ。

通常はコネがあったり親族がハンターの場合、登録前にハンターの徒党、通称“クラン”がスカウトをする。

この講習が終わったらクランの説明会へ行くのだろう。

和気あいあいとステータスについて話しているようだ。

 自分と同じように一人で佇むものも結構いる。

コネがなくても、ステータス取得時に特殊技能、通称“スキル”を持っていると自己主張をして、

飛び入りでクランの説明会に参加したいと交渉するものが目についた。

 “スキル”を持っている人間は少ない。

最新の情報では、5以上レベルアップでスキルを新たに取得した事例が報告されているが、レベルアップはなかなかできるものではない。

現在公開されている情報では、人類の最大到達レベルは7。

レベルは2から4もあれば一人前のハンターと呼ばれている。

レベル5以上は最前線組や国が管理している一流クランにスカウトされる。

なので、はじめからスキルがあるハンターは特別優遇されることがある。

 自分のステータスを再確認する。

スキルの欄に表示があった。

スキル名は“触手”。

名前で何となくでもイメージ分かるのは嬉しいが、

この力自体は喜んで良いかどうか悩む。

スキルは強みでもあるが、

同時に弱点になり得るので公表はスキルの有無のみにするのが常識と聞いた。

 それはそれとして、

自分自身でスキル名が卑猥に思えてしまった。

触手、と言われすぐに連想するのはイカやタコの足だ。

どちらも筋肉の固まりでかなりの力があり、千切れても再生する。

戦力として考えればかなり強力だが、見た目はモンスターと似たものになると思う。

スキルが他の参加者に露見しては困るので、

今すぐ試すことができない。

ただ、どんなスキルかとても試してみたい。

とにかく早く研修が終わるよう願いながら、

他の参加者を待つ。

 全員がステータスを取得したら、

簡単なダンジョンの出入り手順を説明され解散した。

先ほどグループになっていた人達はダンジョンの出口で待っていたクランの担当者とおぼしき人に連れられ、

車に乗って行った。

自分を含めたグループにならなかった人は散り散りに散っていく。

 とりあえず、武具を揃える必要がある。

このために貯金していた。総額30万。

武具に関しては、いくら金をかけたとしても足り得るものじゃないと考えている。

スタート装備として、と想定しても確保している金額では足りないと思う。

正直、50万は欲しかった。

 役所の向かいにあるダンジョン向けの武具店に向かう。

建物に入ると、ちらほら人がいた。

皆一様にファイルを開いて眺めている。

ダンジョン向けの武具は高価なため、実物は展示されていない。

店頭には写真とデータが記載された紙の資料があり、種類ごとにファイリングされている。

実物を確認する際は、ファイルを窓口に持っていき、手数料を出して別室で店員の監視のもと確認する。

 防具から二つ選んで店員へ提示し、手数料をだした。

どちらも全身鎧でガントレットが一体化している。

店員の指示にしたがって向かった別室は地下室だった。

ノックして入室すると、店員が三人いた。

全員体格の良い男性だ。

説明を聞くと、試着の手伝いもしてくれるそうだ。

 一つ目は西洋甲冑風の全身鎧。

装着するのに店員二人に手伝ってもらった。

脱着に難あり、と心にメモする。

試しに歩いたり、動いてみると思ったより小さい。

肩や腰辺りがキツく感じる。


「このサイズが最大です。」


 店員に先に言われてしまった。

それもそうかと自虐的に笑う。

俺は身長が210センチある。

体重は150前後でキープしている。

日本人らしからぬ恵まれた体躯。

だが、こういった際には邪魔に感じてしまう。

 何事も限度がある。

長身が良いと言うが、200を越えてからはただしんどい。

服も靴もなかなかない。扉には頭をぶつけまくる。

子供に泣かれる。女子にはモテない。

なのに、柄の悪い奴らに絡まれる。

町に出れば勝手に待ち合わせの目印にされる。

交通機関は気軽に利用できない。狭くなるからだ。

立っていても、座っていても、邪魔になる。

 自分の身体について考えているうちに、次の防具を装着する。

先ほどと全くことなる近未来感がある全身タイツ。

ガントレットとブーツは殴る蹴るではなく、盾として利用するようで厚めに作られている。

頭はフルフェイスヘルメットのようなヘルムを装着する。

装着は説明を聞くと容易で、慣れれば一人で装着可能。

軽く動いてみるが違和感はない。

難点は、股間部分がタイツであること。


「えっと……その生地はカーボンナノチューブと言われる、伸縮性が高いもので。

対貫通・対斬撃に、その……高い防御性があり。

あー……、対衝撃には非常に弱いのですが、

ガントレットとブーツが、盾としても利用されている加工なので……。」


 店員の説明がつっかえつっかえになる。

理由はわかっている。

タイツでピッチリした俺の股間部を見てしまったからだろう。

身長に見合うサイズ、と言えば聞こえは良い。

この身長から見てもヤバイサイズなので困っている。

タイトなこの装備の股間部に収まりきらないので、

左太ももに沿うように配置している。

そのため、股間から膝辺りにあり得ない膨らみができている。

男性の店員でも怯むサイズだ。

 この装備を買う場合は何か上に着る別装備がいる。

でないと公然ワイセツで捕まる。

ため息混じりに質問してみる。


「この装備の上から布の服とかを着ても問題ないですか?」

「え、ええ。問題ありません。購入者の方は皆さん上に着る装備も合わせて購入されます。

ファールカップを中に装着される方もおられますが……。

その……。サイズが……。限られていまして……。」


 こちらの装備、全身で45万。

これにプラスして上着となると、大きく足が出る。

ちなみと聞いたファールカップは20万。

 店員にサイズなど聞いて上に装備するものの在庫確認を頼んでみると、

すぐに用意できるのはダンジョン仕様だが普通の服だった。

ガントレットとブーツを出すため、さらに大きいサイズが必要になりデザインは選択できず。

黒い皮のライダースーツを装備する。

ガントレットとブーツは露出して装備した姿を鏡で確認する。

大柄のバイカーがそこにいた。

 ため息をついて、店員に購入する旨伝える。

防具の購入で武器購入費用がなくなった。

大きな出費だが、

先行投資と言い換えて自分を納得させる。

しばらくは徒手空拳で狩りをするか。

代金を支払い、着たまま店から出る。

そのままもう一度道を渡って、ダンジョンへ向かった。



 手続きを終えてダンジョンへ降りる。

ダンジョンは入り口ごとに構造がことなり、多種多様なものがある。

家の近所にある研修を受けたこのダンジョンは洞窟型で、入ってすぐ下りの階段が続いている。

 階段を下りきると講習を行った広場がある。

基本的に第一階層はスライムだけが発生する。

ここだけでなく、殆どのダンジョンはそういう構造になっている。

 スライムを仕止める労力に比べて手に入る資材が安値のため、ハンターの殆どはこの階層を通過する。

モンスターを倒すと死体が消え去り、代わりに宝石がドロップする。

宝石は通称“魔石”と呼ばれ、高値で売買できる。

ただ、モンスターによってドロップする魔石の大きさが決まっている。

スライムはその中で最小の魔石しかドロップしない。

価格の変動はあるが、だいたい一つ300円。

 スライムを倒すのは容易で、刃物で刺し貫けば一撃で仕止められる。

ただ、使った刃物は粘液で劇的に切れ味が落ち、何体も倒しているとすぐになまくらになる。

打撃で仕止める場合は、

先ほどの研修のように大きめの棍棒で押し潰す感じで殴るのだが、

棍棒を愛用するハンターは数が少ない。

棍棒を振り回す腕力と、それを持ち歩く体力があれば

バスターソードかショートソードと盾を持った方が汎用的だからだ。

 さらに言えばスライムはあまり動かない。

ナメクジのように這いずって動くが、非常に遅い。

好戦的でなく、ハンターが近寄っても動かない。

殆ど床の角か壁の窪みに潜んで動かないので、

他の好戦的で能動的なモンスターより索敵に手間がかかる。

総じて討伐数が稼げないので狩り場としては不人気だ。

 今日は初入場。

下ろし立ての装備なので、身体慣らしを目当てにスライム階を回るつもりだ。

 洞窟内は明かりがないのに昼間のように明るい。

視界の悪いフルフェイスのヘルム越しでも難なく辺りを見回すことができた。

右手を壁について進む。

 道幅や天井の高さは場所によって異なっていた。

狭いと自分が通るのがやっと。

広いと幅が数十メートル、高さは天井が視認できないところもある。

 進んで行くと、ちらほらスライムがいた。

ためしに一匹殴ってみた。

上から床や壁に擦り付けるように殴れば、一撃で倒すことができた。

見た目はグミのようだったが、殴った感触は緩めのゼリーのようだ。

 スライムを見かけ次第殴って潰し、魔石を拾う。

魔石は専用の袋にいれて腰に下げるようにした。

潰しながら気づいたが、

スライムは緑色で若干光っている。

蛍光ペンのようで岩肌に張り付いていると目立つ。

自分の中のスライムのイメージは青色でもっとゲル状だった。

青なら洞窟内でも見えづらいし、

ゲル状なら壁や床の割れ目に入れる。

実際はプルプルしたバスケットボール大の鮮やかなグリーンが、四匹程度の群れで道の角に固まっている。

討伐数は稼ぎづらいが、探すのは容易だった。

三十分ほど歩いてスライムを潰したが、十一個の魔石が手に入った。

これでだいたい三千円。入場料が四千円なので若干赤字だ。

 開けた場所に出た。

行き止まりで部屋のようになっている。

天井は高く、三十メートル四方の四角い部屋。

だいたいのハンターはマップを購入してこの階層をスルーするので、滅多に人が来ないのだろう。

部屋中にスライムがいた。

鳥肌が立つくらいひしめいている。

安全を確保してスキルの検証をしたいので駆け足でスライムを仕止めていく。

 草むしりのように仕止めていると、

突然色違いのスライムが目の前に現れた。

黄色より金色に近い感じで、

気持ち弾性が高そうに見える。

また、他の個体と一線を画すように、

こちらに対して敵意を感じる。

フットワークのつもりか小刻みに左右に跳ねながら、

金スライムがこちらの様子をうかがっている。

 こちらも色違いを逃がさぬよう、

意識を切り替えて本気を出す。

大きく踏み込んで殴りかかる。

思った通りスライムらしからぬ早さで回避し、

カウンターで体当たりを仕掛ける金スライム。

俺はそれを予測していたので、

コンパクトに身体を捻り右腕を引き戻しながら左フックで金スライムを床に叩きつけた。

 一撃で仕止めきれず、

金スライムが距離を取ろうとする。

その雰囲気を察し、とっさに全力で踏みつけた。

見事に粉砕し、討伐した。

遺体とおぼしき粘液が消えたが、魔石は落ちなかった。

代わりに布が落ちている。


「ドロップアイテムか?」


 拾い上げて確認する。

袋状の布。

大きな穴が一つ、小さめの穴が二つ空いている。

恐らく、マスクとか目出し帽と言われるものだろう。

長さも首を覆うくらいあるようだし、

ヘルムの下につければ少しは楽になるか?

 魔石以外のドロップ品を“ドロップアイテム”と呼ぶ。

魔石は必ず手に入るが、

ドロップアイテムが手にはいるのは非常にまれだ。

ドロップアイテムは非常に高値で売買される。

アイテムと言っても多種多様で、

魔物の身体の一部だったり今のような被服や装備品が落ちることもある。

今回のカテゴリは被服だろう。

まだ装備がそろってないので、売るより使用したい。

 ヘルムを脱いで被ってみる。

装着感がまるでない。

顔を露出しているようで、かなり驚いた。

視界も良好。息苦しさもない。最高だ。

懐から鏡をだして顔を確認する。

 そこにはスライムがいた。

正確には俺の肩口から頭頂部まで緑のスライムになっていた。

慌てて脱ぎ捨てると、

地面にはさっき持っていた布の目出し帽が落ちる。

 辺りを再度警戒して、もう一度目出し帽を拾う。

鏡を見ながら目出し帽を被ってみた。

途中までは普通の布だった。

鼻が隠れた辺りでプルん、とスライムになった。

そのまま被ってみると、やはり頭と首を覆う大きなスライムが見える

 触れてみると、プルプル揺れる。

スライムの中に手を突っ込むと、自分の頬に触れる感触があった。

頭部をカバーして守っている?

 意を決してスライムを被ったまま壁に頭突きをしてみた。

壁を割るつもりで思い切り叩きつけたが、

ぽよんと力が分散され全く痛みがない。

音も衝撃もスライムに吸われていった。

想像以上の掘り出し物だ。

 範囲が限定的だが、頭と首を守ってくれる。

先ほどまで着けていたヘルムの何倍も良い。

 改めてスライムヘルムを装着し、

先ほどまで着けていたヘルムを小脇に抱える。

自分の姿を想像した。

黒い皮のライダースーツにスライムが乗っている。

モンスターと間違えて攻撃されないよう注意しよう。

後、装着感が良すぎて脱ぐのを忘れないよう気を付けよう。



 辺りをもう一度見回して、人もスライムもいないことを確認する。

スキルの検証をしたいが、

見られたり襲われたりしたくない。

念入りに確認してから、

入ってきた道から死角になりそうな所へ陣取った。

 スキル名“触手”。まぁ、イメージは、ついた。

とりあえず発動させてみる。

発動は念じるだけでできた。

ずいっと目の前に一本の触手が現れた。

 そのまま触手を動かさないようにして、手で触れる。

人肌の感触。

触覚としては腕に触られているような感じ。

太さは腕より細い。駅の階段の手すりくらい。

握ると体温を感じる。

揉んでみたが骨に触れる感じはない。

肉の塊のようだ。

表現として問題はあるが、

長いイチモツが一番しっくり来る。

目の前触手は、自分のものより小さいが。

 どうやら後頭部から生えている。

首と頭の付け根にある少しくぼんだ辺りから、

地面に向かってのびていた。

触手は指や手ほどうまく動かない。

腕や足に近い動作感がある。

意のままに動かすには鍛練が必要だ。

 試しに最大まで伸ばしてみた。

今いる小部屋の端まで余裕で届く。

重さをかなり感じるが、

床につけず挙げたまま伸ばせた。

そのままずるずる伸ばしていくと、

自重がかなり重くなってきた。

部屋を一往復したくらいで挙げてられなくなった。

まだ伸びるが、地面を這わせるのは嫌なので回収する。

 次は本数を確認する。

ぞろっ、と出てきたが自分でも不気味だった。

動かしながら確認すると、480本もある。

しかも全てさっきと同じくらい伸びる。

頭がスライムでにょろにょろ触手を生やしているライダースーツ。

これはモンスターと間違えて攻撃されても文句を言えない。

 触手を三本ねじって束ね、

もう一度伸ばせるだけ伸ばす。

一本の時より力が入る感じがあった。

部屋を二往復した辺りで重さを感じたが、地面には着けずに伸ばせる。

最大で三往復と少しくらい伸びた。

長さは百メートル以上はありそうだ。

 一本でその辺の石を巻き取って持ち上げてみる。

そこそこ大きいが、余裕で持ち上がった。

テレビでタコの腕は筋肉の塊でとても力があると聞いた記憶がある。

これも同じか?

後、タコなら腕が切れても時間経過で生えてくるらしいが、

触覚があるので痛覚もあると見られる。

戻らなかった場合、最悪病院行なので試すのはやめる。

 また、痛覚があるのなら蜘蛛の糸ように天井からぶら下がるのは難しいと思われる。

軟骨と筋肉だけだろうから、肉が断裂する恐れもある。

 何本か束にすればいけるか?

天井の出っ張りに五本束ねて引っかける。

ゆっくり自重を持ち上げるが、

危うい感じがしたのですぐやめた。

十本、十五本と五本ずつ増やしてみた。

四十五本なら持ち上がった。

感じとしては懸垂しているようだ。

これはこれで筋トレになるか?

鍛えれば触手が太くなるか?

疑問は尽きない。

 ふと思い着いたことを試す。

ライダースーツのジッパーや留め具を全てはずし、着崩す。

触手を防具の内側に伸ばし、筋肉をイメージして身体を包み込んだ。

できた。触手スーツ。

ライダースーツがパンパンに膨れ上がり、身長が伸びる。

腕や足が倍近く太くなり、気分は超人だ。

難点はガントレットとブーツ部分は伸びないので変わらないこと。

しかも、少し痛い。

 それでも試しに軽く身体を動かした。

違和感はなくいつも通りだが、

筋力があがっていて早さも威力も桁違いだ。

触手を露出しないので見た目も良い。

ダメージも触手で一旦受け止めることができる。

 これだ、と実感した。

とりあえず、一週間はここでスライムを殴って装備と触手を使いこなそう。

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