第16話 蛇の話 2
昨日の放課後。
「やあ、黒森君。よく来てくれたね。ここに来たと言う事は、番長(う)連合(ち)に興味を持ってくれたかな?」
にこやかに桜が言う。
「……僕は先輩たちが何を知っているのか、それが気になっただけです」
警戒しながら紅が答える。
「わしもおるんじゃが……」
遠慮がちに剛毅がつぶやく。
「ああ、君も来たんだ……」
嫌そうな桜。
今、紅たちが居るのは別館の2階。本校舎と渡り廊下で繋がるこの特別棟には番長連合の本部があった。ただし今年に限っては1階を1年生の特別クラスが使用するため、2階から4階を使用していた。そのため、別館1階の入り口は女子以外使用できず、この別館の2階以上に入るには、本校舎に一度入ってから渡り廊下を通ってくる必要があった。
その部屋には20人ほどの生徒が集まっていた。見たところ全員1年生の様だが、ほとんどの生徒がなんとなく自信にあふれた表情をしており、お互いの実力を探り合っているようだった。男女比はおおよそ3:1といった感じで男子の方が多い。中には学ランを着ているが明らかな女子もいる様だ。ショートカットで鋭い目つきをして、本人は男っぽく振舞っているつもりかも知れないが、その整った顔と女性らしい身体つき(といっても大変慎ましいが)は隠せず、まるで女性歌劇団の男役の様だった。
紅たちが来て全員がそろったのか、桜が声をかける。
「さて、これで一応そろったかな。みんな良く来てくれたね。まずは自己紹介を。アタシの名前は
なぜか死天王のあたりだけ小声になる桜。
「ようこそ、番長連合へ。と言ってもあくまでそう呼んでいるだけで、正式な名称じゃないんだけどね。アタシたちは正式な団体じゃない。だから名前もない。この校舎も勝手に占拠してるだけなんだ。まあ、代々そうやって受け継がれてきたから、周りも認めているんだけどね」
紅は知らなかったので内心驚いたが、他の生徒たちには当然の事だったようで誰も驚いてはいなかった。
「さて、ちょっと話が逸れたけど、みんなうちに入るってことで間違いないかな?ああ、黒森君はまた後で話そう」
そう言って紅を見る。その事に意外そうに他の生徒たちも紅を見る。それを気にせずに桜は話を続けた。
「まあ、ここまで来たら実は後はたいした話はないんだよ。君たちはこの学校の生徒を護る。弱い者を助ける。ただそれだけだ。簡単だろう?これからはどんな武器の携帯も自由だ。この印を付けている限りね。まあ、普通の生徒もちょっとした武器なら持っても差し支えないけどね」
そう言って小さな校章の様なバッジを机に並べる。
「それを手に取った時から、君たちは番長連合に所属した事になる。でも気を付けて。その印はとても重いよ?」
その言葉の意味を理解した生徒たちは息を飲み、誰も動かなかった。いや、動けなかった。
だがやがて一人の男子生徒が立ち上がりカラカラと机に向かい、バッジを手に取る。
「わしはこれに憧れとったんじゃ」
剛毅がそう言って襟にバッジを付ける。
一歩遅れて学ランの女生徒が手に取る。そして次々と手に取っていき、紅以外の全てがバッジを付けた。
「あ~あ、やめといたらええのに」
「なあ」
教室の後方からの突然の声に全員が驚いて振り返る。
さっきまでは自分たち以外に誰もいなかったはずだ。振り向いた誰もが人が入って来た事に気づかなかった。もちろん紅も。
そんな新入生たちの驚きなど気にせずに、その二人が気軽に話しかける。
「こんなとこ入っても給料が出る訳でもないし、忙しいし、下手したらあっさり死ぬし」
猫背で学ランの前を全開にして、アニメ美少女のTシャツを覗かせた男子生徒が愚痴る。
「そうそう、悪い事したら普通の生徒以上に厳しい罰があるし。あれ?もしかしてブラックすぎひん?」
かなり太……、少々オーバーサイズと言うか、ふくよか?丸みがある?恰幅の良い男子生徒が同意する。
「ちょい
それを聞いた桜が二人をたしなめる。新入生たちに対するのとはだいぶ態度も口調も違う。
その内容に不安になる新入生たち。
それを聞いた剛毅が驚きの声を上げる。
「源治、蔵人……。あんたらが死天王の
「おっ、オレらの事知ってる?」
「いや~、テレちゃうなぁ」
途端に嬉しそうにニヤける二人。
「もちろんじゃ。【猫背の私市】と【ダンゴ虫の河内森】言うたらその筋じゃ知らんもんはおらん」
「……うん、まあ……」
「……そうね、合ってるよ?合ってるけどなんでよりによってそれ選んだん?もっとカッコイイのあるよね?」
あまり嬉しくない二つ名を呼ばれへこむ二人。
「【猫背の】……、【ダンゴ虫の】……」
ざわめく新入生たち。珍しく剛毅も申し訳なさそうだ。
「ほら~、あんたらのせいでせっかくのいい雰囲気が台無し!やっぱり総長か副長に来てもらえばよかった」
桜が怒りだす。
「まあまあ、もう話は終わったやろ?じゃあええやん。で?どれが一番強いん?」
源治のその一言で、戸惑っていた新入生たちの意識が切り替わる。
「あれ?なんか聞いてたより少なくない?」
新入生たちを見ながら蔵人が問いかける。
「そうなんだよ。副長が厳しくて。『駄目だな』キリッ!なんて言って10人誘う予定が2人になっちゃった」
と、副長の真似をしながら桜が愚痴る。
「あらら、じゃあ今年のメンバーは忙しくなるな」
なおさら不安になる新入生だった。
「まあ、それはいいか。どうせみんな自分がどれくらい強いかは気になってただろう?群れの中で序列を付けといた方がやり易いだろうから、ちょっと遊ぼうか。そこの彼とは遊んであげる約束だったからね」
そう言って桜が剛毅を指差す。
「アタシを倒して死天王になるつもりらしい。ただ悪いね、しらと……巌流院君?もうメンドいな。これからは剛毅でいいか。剛毅。アタシはもう少しここでやる事があるんだ。アタシには劣るけど、そこの二人で我慢してくれない?なんならここにいる全員であの二人を倒せたら、20天王とか名乗ってもいいよ。アタシがメイド服で部下になってあげるよ」
桜が楽しそうに提案する。
「お。ええな。じゃあちょっと外行こか。死天王トップのオレが相手したるわ」
「うむうむ。死天王ナンバーワンの僕が遊んであげちゃうよ?」
およそ20人を相手にしろと言われても楽しそうに受け入れる二人。それぞれ自分が1番であるアピールも忘れずに。さすがにそれを聞いて新入生たちも穏やかではない。二人に続いて部屋を出て行く。若干名メイド服に反応した者もいたようだが……。
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