第17話 飛行艇の行方

 今日はミスリル銀の大岩を分割・精錬します。

 室内では無理そうだったので、庭で倉庫から出します。

 まずは、土魔法で30㎤サイズに切り出し、精錬して不純物を取り除いていきます。

 これを繰り返していったら、200個以上のキューブが出来上がりました。

 大岩を3個持ち帰ってきたので、合計で600個くらいになったはずです。


 魔道具の配線に使う時には、これを2mmほどの太さにしてから使うため、木製のドラムに巻きつけて製品化していきます。

 二日かけて100個のドラムを作りましたので、町にある30の工房から人を呼んで各3個を格安で販売してあげます。


「お嬢さま、こんなにお安くしてしまって良いんですか?」

「ミスリルが安く入手できれば、魔道具の価格も下がるでしょ。そうすれば、誰でも魔道具を使えるようになるわ。」


 残りのドラムは、領事館にある私の工房へ持っていき、スタッフに渡す。

 ここでは、府空挺を受注生産しています。

 大型は32人乗り規模で、22人乗りの中型、12人乗りの小型の3種類があり、それぞれ8枚のマーカーとセットでの販売です。

 当然ですが、荷室拡大やトイレ装備などのオプションがあり、最低でも金貨3万枚からの設定ですが、それでも注文が殺到しており、納品は半年待ちの状態です。


 どのサイズでも魔法式は変わらず、私は龍の倉庫に置いてあるデータをコピーして書き込み、マーカーの部分だけ修正しているので手間はかかりません。


「そうか、龍の魔力で魔石を破壊できることが分かったんだから、手動で起動可能な補助装置を追加いたしましょう。」

 

 私はリーダーのゲンさんを呼んで、追加装置の説明をする。


「運転席にカバー付きのボタンを設置して、こんな感じで船底に一つ魔法石を埋め込んでください。」

「機能的にはどうなるんですか?」

「平らな場所を探して着陸するだけですよ。」

「なるほど。竜人の対策ですね。」

「そういうこと。船体が壊れていなければ、魔法石の交換だけで復活できますからね。」


「そういえば、個人からの注文は受けないんですか?」

「個人にこの価格で販売したら、荒稼ぎされちゃうだけでしょ。敵対国とかに持っていけば、金貨100万枚でも売れると思わない?」

「そうですね。今回のドラゴンアイランドのように、未開の地域を領地に加えていけば、資源の確保が容易だって分かりましたからね。」

「そういうこと。だから、友好国の公共機関限定にしているのよ。」


 実際に、西のカラータ帝国や南西のアララ帝国から要望がでているらしい。

 あんなことろに渡したらどうなるか、結果は見えているのです。


「ふう……。」

「お母さま、何かあったんですか?」

「お父さまに呼ばれて城に行ったんだけど、カラータ帝国からの圧力が凄いらしいのよ。」

「飛行艇ですね。」

「そう。一国が知識と技術を独占するのは危険だって、他の国を煽っているらしいのよ。」

「まあ、飛行艇が欲しいのは分かりますけどね。」

「お父さまも、一機くらいならいいんじゃないかって、弱腰なのよね。」

「冗談じゃないわ。あんな国に飛行艇を渡したら、絶対に軍事利用するって分かり切っているじゃない。」

「そう。他の大臣も同じ意見よ。」

「そもそも、飛行艇自体は国の所有物であっても、魔法石とミスリルと魔法式は貸与しているだけなんだから、勘違いしないでほしいです。」

「でも、それを主張すると、うちに直接圧力をかけてくるわよ。」

「拒絶していれば、そのうち諦めるんじゃないですか。」

「あの、トカゲみたいな顔をした皇帝よ。あきらめるとは思えないわ。」

「私は見たことありませんけど、そういう皇帝なのね。」



 そんな最中、事件が起こった。

「お嬢さま、商業ギルドからの情報ですが、先月セレスティアに納品した飛行艇がカラータ帝国で使われているらしいと。」

 

 セレスティアは一番西にある町で、カラータ帝国と接している。

 私はミーシャに同行してもらい、セレスティアの領事館に出向いた。


「誤解ですよ。貸し出しといっても、ほんの2・3日ということで、すぐに戻ってきますから。」


 セレスティア領事のコットンという貴族だ。


「情報では、もう2週間になると聞いていますが?」

「ちょっと遅れているんでしょ。問題ありません。」

「契約書に、他者への貸与・譲渡の禁止と記載してありますが、ご存じですよね。」

「まあ、多少は、領主の裁量で。」

「契約内容に違反した場合、貸与している魔法石・ミスリル銀・魔法式は回収させていただくと明記してございますが。」

「ああ、お前いい加減にしろよ。短期の貸し出しだと言っているだろう!」

「そのような権利は認めておりません。契約違反と判断して貸与品を回収させていただきます。」

「クックックッ、できるもんならやってみろ。ガキとメイド風情に何ができる。飛行艇はもう、カラータ帝国に渡っておるのだよ。」

「そのクソガキが、契約書に記載されているリサ・フォン・ジェラルド様だとご存じですか?つまり、飛行艇の魔道具部分に対する所有者になります。」

「ちょっとミーシャ、クソガキとまでは言われてないわ!」

「ふざけるな、ヒーズルばかりいい思いをしやがって!俺たちが多少潤っても文句いわれる筋合いはない!」

「定時便を運航させて、物流の改善をされたのはジェラルド家の功績ですよ。魔導照明に魔導コンロ。どれだけ国民の生活が改善されたか理解されていますか?」

「それだって、儲かっているのはお前らだけだろ。平民はその魔道具を手に入れるために、必死で働いているんだ!」


「平民の方々……というか私も平民ですが、必死で働いて便利な魔道具を手に入れて、もっと必死になって働いて……。魔道照明のおかげで夜も働けるようになりましたから、努力した分だけ収入は増えましたね。」

「ほらみろ!平民は働きっぱなしなんだよ!」

「昔と違うのは、飢えることがなくなった……だと思います。探そうと思えば、仕事はいくらでもあります。不作であっても、麦や肉は安定して手に入ります。だから。飢えて死ぬ子供はほとんどいません。」

「うっ……。」

「うちの領内だけかもしれませんが、貴族の横暴がなくなり、全員が同じように働いています。」

「ふん、分かるものか。お前らの領主だって、元お姫様だ!贅沢な暮らしに浸っているに違いない!」

「サラ様がどれほど大変か、お分かりになりますか?女手ひとつでリサ様をお育てになり、領主にして魔道具師。あれだけの町が、何の努力もなく出来上がったとお思いですか?」

「そんなのは、ブレーンに恵まれただけだ!」

「そうです。あなたのような貴族を登用しないで、市中から優れた人物を探し出したサラ様のご慧眼に尊敬を覚えてしまいます。」

「ミーシャ、話が逸れていますわ。今日は飛行艇の話で来ているんですから。」

「そうでした。一刻も早い飛行艇の返還を請求してください。」

「無理だと言っておる!カラータ帝国との関係性を維持するために、必要なことだ!」

「それは、陛下が拒否しているものを、あなたの独断で貸与したということですね。」

「いや……、それは……。」

「見返りは何だったんですか?」

「……・」


 私はサーチで、カラータ帝国との契約書を探した。

 後ろめたいものなら、この部屋か領主の部屋にあるはずだ。


 そして私は見つけた。金貨300万枚の売買契約書を。



【あとがき】

 金貨300万枚……・

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