ep.7 虐めっ子とドローンから全力でドロン!

「くっ、部外者か! 貴様、一体どこから来た!?」


 その瞬間、ダークエルフや機械人形たちが一斉に剣先、そして銃口を向けた。

 マリアはそれでもひるまない。自分がやられるより、その後ろにいるか弱い少年がやられるほうが、自分の良心が許さないからだろう。そして――。


 バシャン!!

「うわぁ!!」「ぬおー!?」

 バチバチ、バチ…!


 横から、津波のような水しぶきが勢いよく放たれ、ダークエルフや機械人形たちを軽々と洗い流していった。機械人形たちは水に弱いのか、次々と配線がショートしていく。


 波の魔法を放ったのはヒナであった。僕達ももう見てられないので、咄嗟とっさ助太刀すけだちである。


「こんのっ!」

 カキーン!

「ひっ! うわぁぁ!!」


 しかし、波にさらわれてもまだ抵抗し、マリアに攻撃しようとする者がいたので、次は僕の氷魔法をお見舞い。

 銃を構えたその両腕を、一瞬にして氷塊に閉じ込めたのだ。水に濡れていたので凍結反応の早さには驚いたが、まだほむらで火傷を負わせるよりはマシでしょ?


 ブン! ブン! ブン! ガシッ!

「歯ぁ食いしばれー!」

「よっと」「わぁぁ!?」


 そして最後、持ち前の高速移動でジグザグに移動していたヤスが、マリアと少年を瞬時に持ち上げその場から逃走した。

 今、ここに自分達が残っていては敵陣の更なる応援フェーズがくる! 少年を守る為とはいえ、一度彼らに手を出してしまった以上、ここは即座に撤退した方が賢明だ。

 決まった場所しか行き来しないドローンたちもいつ、こちらを索敵するか分からない。


「何が何だか分かんねーけど、ずらかるぞ! その巾着袋も持っているな!?」

「うん! キミ、もう大丈夫だよ? よく耐えたね」

「う… うぅ…!」


 少年はヤスに担がれ、マリアに慰められながら、今も肩を震わせ涙を流している。

 僕達もそれに続くように走ると、体勢を持ち直したダークエルフが銃を向けた。


 パーン! パーン!

「クソ、あいつら本気か!」

「セリナ、カモフラージュして! このままだと本当に撃たれるわ!」

「はい!」


 ♪~!

 僕はミネルヴァの指示通り、先頭に立つヤスに掴まる要領で走りながら、大量の虹色蝶を発現した。

 この虹色蝶の大群を更に3体の巨大生き物風オブジェへと分裂させ、その内のどれに自分達がいるのかを分からなくしている。そうする事で敵の目をくらませる作戦であった。


「チッ、どれが正解だ!? 逃げられちまった!」


 ダークエルフが、歯痒そうな顔で発砲を止めた。

 これ以上標的が遠ざかっては弾丸が届かない、という判断か。収容所は、一気に不気味なほど静まり返ったのであった。




 その後。

 僕達とキャラバンを成す様に手を繋いでいるヒナとマリアが、逃走がてらこう話した。


「危なかったぁ。あそこ、よく見たら収容所というわりには、この子1人だけが収容された『劣悪な孤児院』って感じだったよね。一体、何の為にあんな施設が砂漠地帯に?」

「さぁ。でもその分、現場の職員というか、あのクソエルフ共の人数もさほど多くなかったから、ある意味助かったね。あとはもう、ほぼAIとドローン任せって感じ?」


 なんて話をしながらだが、僕達は各自持ち前の魔法や特殊能力を駆使し、人間離れした高速移動で王宮へ向かったのであった。




 ――――――――――




「まさか、そんな意味があったなんて」


 王宮前広場、四阿あずまやにて。

 マニーが何か思い悩んでいるようで、頬杖をつき溜め息を吐く。マイキとキャミが、彼の近くで一緒に座っていた。

 キャミが腕を組み、怪訝けげんな表情を浮かべた。


「アニリン… 原色の一『マゼンタ』の別名、ローズアニリン。チアノーゼが恐れていたであろう存在―― 上界経由で、俺達の元きた世界と酷似した世界線で検索をかけて出てきた言葉だ。ここまで多くのキーワードが出ている時点で、偶然とは思えない」

「でもそれって、もしかしたら遠い昔の話で、今はもう見つからない概念かもしれないんだろ? もしくはそれをモチーフとした、たとえばマザーコンピューターや隔離施設等の中に、マゼンタのチャームが隠されている可能性も」


 と、マイキ。

 マニーが「アニリン」の意味について調べたところ、まさかのマゼンタと大いに関係している事が判明したのである。キャミは首を横に振った。


「それだって、あくまでシアンがフェデュート内で耳にした情報を元に見出した憶測でしかない。従来通り、チャームを悪用する者と対立する可能性だってあるぞ」


 と、そこへ。


 ドタッ! バタン! ドサッ、シュー…

「だあぁぁぁー、ついたぁー」「あー、こわかったぁー」


 僕たち、砂漠探索チームの帰還である。あれからずっと走ってきたのだ。

 みんなバタバタと地面に倒れるように膝をつき、息を切らしている。マニーがその中のヤスの姿を見た瞬間、目を大きくして四阿から立ち上がった。


「ヤス! 解放されたんだな」

「ようマニュエル、久しぶりだな。たく! いきなり異世界に飛ばされるわ、ずっとクリスタルに封印されるわ、一体何がどうなってやがる?」

 とヤスがいうが、実をいうと僕や神々でさえその原因は良く分かっていない。恐らくマニーたちアガーレールのトップクラスも同じ思いだ。

 だからこそ、こうして新天地開拓の旅に出ているわけで。


「ん? ゴブリン…? その男の子はどうした?」


 ここで早速マイキが、ヤスがついでに担いできたゴブリン少年の姿を疑問視した。

 少年はさっきまで目を回しそうになっていたが、僕達の状況が落ち着いた今、巾着袋をぎゅっと握ったまま肩を震わせている。マリアが説明した。


「砂漠の中央に建てられている収容所みたいな所で、ダークエルフや機械人形たちに囲まれながら酷い侮辱や暴言を吐かれていたんだよ。大人数人が、この子1人だけを面白半分でいじめている様子がもう見ていられなくて、私達で保護したんだ」

 そういうと、マニー達が揃って動揺を浮かべた。

 実際は、巾着袋に入っているクリスタルチャームをゲットしたついで・・・、なんて言い方が悪いか。失礼。


 でも、「その子を今すぐ元の場所へ帰せ!」という人は、誰一人としていなかった。


「ごめんなさい… ごめんなさい…! 僕のせいで、皆にご迷惑を」

 と、少年はなおも泣き顔で僕達に謝りっぱなしである。キャミが少年の目線に合わせるように膝をつき、少年を一望した。

「衣服は砂埃と皮脂に塗れてボロボロだし、体も一般的な人族に比べガリガリに痩せ細っている。相当劣悪な環境にいたんだな」

「だね。奴らからは番号で呼ばれていたし、尚更だよ。

 ねぇキミ。ちゃんとした名前はあるよね? こんな所でも番号で呼ばれるの、さすがに嫌じゃない? 私はマリア。マリア・ヴェガっていうんだ。君は?」


 そういって、少年の目線に合わせ笑顔で自己紹介をするマリア。

 すると、少年も僕達に全く敵意がないと感じ取ったのか、肩の震えが収まってきた。


 巾着袋は依然握りしめたままだが、僕達に一切触れさせたくないという理由ではない事は分かる。

 あまり考えたくはないが、この子がもしフェデュートに肩入れしている立場なら今頃、先の連れ去りで抵抗するか、チャームの力を悪用しているはずである。


 それにミネルヴァの存在を感じ取っている発光具合からして、袋の中身がベルスカ最大のターゲットであるマゼンタのチャームではない事も、おおむね判明している。




 が、この後の少年の返答は、マニーをはじめ僕達も絶句するような衝撃の名前であった。



「アニ、リン」


「「え…?」」


「アニリン・ソルフェリーノ。です」


(つづく)

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